*リッパー・ナイト事件直後のお話。




―−その『言葉』は、今まで彼の口から紡がれた事は無かった。けれど私はそれでも良いと思った。傍に居る事を許してくれたし、何より私自身が彼の傍に居たかったから。そう、これは一方的な愛、つまり私の我儘。けれど本当に彼が拒否すると言うなら私は彼の前から姿を消したと思う。


だから、今、言われた『言葉』に動揺している。




「好きだ」
「し、シズちゃん…?」




急にどうしたの、何でボロボロなの。出ようとする言葉達、けどそれは突然の彼の抱擁によって掻き消されてしまった。

胸が高鳴る。今まで彼は私に極力触れる事はして来なかった。何時も何処か躊躇っては触れない、そんな事は沢山あったけど彼の力の事もあり気にしなかった。




なのに…何で、何で?





「俺は、今まで自分の存在を認められ無かった、好きになれなかった。自分を好きになれねぇのに他人に好きだとか言えねぇ。自分から愛しちゃいけねぇ。ずっとそう思って来た」
「……」
「言い訳みたいだが、それもあってお前の気持ちに答え無かった。悪いと思ってる」




淡々と語る彼。気づけば彼の腕は若干震えているのが分かる。そんな彼の背に手を回し抱きしめ返すと少しだけ腕の力が強まる。





「けど今日、やっと、自分を認めて、好きになっても良いって分かった。やっと言える」
「しず、」
「……好きだ。ずっとそう思ってた、こんな俺を愛してくれて今まで傍に居てくれて感謝してる」





―−嗚呼、嘘だ嘘だ嘘だ。


こんな私の一方的な愛に答えてくれるなんて。我儘で自分の気持ちを押し付ける様な愛を受け入れてくれるなんて。そんなの有り得ない、有り得ないのに…


視界がじわりと歪む。泣くまいと我慢しようとするが、シズちゃんの温もりや声が涙腺を緩めさせ視界はどんどん歪んでいく。





「けど、今でもキレれば力は制御できねぇし何時かお前を巻き込んで傷付けるかもしれねぇ…。もしお前が嫌なら」
「嫌な訳ないじゃないっ!」
「!? お前、何で泣いてンだよ」




バッと私から顔を離せばシズちゃんは驚き顔。嗚呼きっと顔は涙でぐちゃぐちゃだろうな。けどそんな事気にせずに私は声を荒げる。




「嫌だったら、とっくの昔に離れてるよ! 巻き込まれる? そんなの覚悟の上だしそうならない様に私がすれば良い! 少なくとも私は…!」





―−彼を好きになって一番先に始めたのが足の強化だった。


静雄は誰でも自分の所為で巻き込まれ傷つくのを酷く嫌う。だから巻き込まれない様にその場から直ぐ離れられる様に足が速くなる様、極力迷惑にならない様に努力をして来たつもりだ。


一方的だとも自己満足だとも言われても構わない、けれど彼を傷つける事だけは絶対にしたくない。只それ一心で。




「だって、私は…!」




ずっと、ずっと、あの頃から、




「静雄が、静雄だけが好きだったからっ…!」




好きが、溢れる。
迷惑になりたくない一心でずっとずっと蓋をして来た沢山の想いや言葉が沢山溢れて止まらない。


好き、好きなの。貴方が、貴方だけが。





「ご、めん、重くて、本当に…」
「……名無し」
「!」




年甲斐も無く嗚咽を漏らしながら、溢れる想いを紡げば、再び私は静雄に強く抱きしめられた。






「静、」
「もう分った。お前が俺をどれだけ好きでいてくれたか良ーく分ったから、もう泣くな」
「……静雄、私子供じゃない」





優しい声と背中をぽんぽんと叩く優しい手に自然と涙が収まってゆく。何だか急に恥ずかしくなって、拗ねた口調で返せば少し笑った声で、




「バーカ、そんな泣きじゃくってたら説得力ねぇよ」
「…泣かしたのは静雄でしょ、馬鹿」
「馬鹿って言った方が馬鹿なんだよ。それと」
「?」
「……俺の方が何倍もお前が好きだから、覚悟しておけよ」












(やっと、言えた)






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