「?」



ふと背中に伝わる温かさと重量感。首だけを横へ動かし視線を後ろに向けると柔らかそうな白い丸耳が。




「どうしたの? ベポ」
「……」




そっと声を掛けてみるが反応が無い。その代わりに、きゅうと腰に腕が回り抱きついてくる。まるでそれは子供が母親に抱きつく様で思わず可愛いなぁ、と頬を緩ませてしまう。けれどこのままじゃ作業にならないのでもう一度声を掛けた。



「ベポ?どうしたの?お腹でも痛いの?」

「…ちがう」

「んー、じゃあお腹減ったの?ならおやつ用意するけど」

「…! おやつは食べるけど違う」



首を横に軽く振りながら拒否。おかしいな、いつもならパアッと明るい顔して喜んでくれるのに。珍しいベポの態度に少し困っていると、




「名無し、どうした」

「!」

「ロー。うん、ちょっとベポが離してくれなくて」



偶然通り掛かったローに事情を話すとローはベポの事をジッと少し見つめ、何時もの調子でベポ、と声をかける。




「名無しが困ってるだろう、離してやれ」

「…ヤダ」

「え?」

「! ベポ?」




……嘘、思わず耳を疑う。ロー大好きのベポが彼の言う事に対して拒否するなんて! ローの方へ視線を向ければ彼も少しだけ眼を見開き驚いた顔をしている。これは本当に病気かも知れない、もう一度声を掛けようとした瞬間、ベポは今まで沈めていた顔を勢い良くあげ、



「キャプテンはずるいよっ!」

「え…?」

「最近ずっと名無しを独占して! 昨日だって名無しとお風呂入ったでしょ!? 夜もずっと一緒に寝てるし! おれだって名無しと一緒にいたいのにっ!」




うっすら涙を浮かべ怒ってる様な泣いてる様な表情を浮かべなが突拍子もない事言い出すベポ。いや、確かに昨夜もローとは一緒に風呂に入った(強制)けど…まさか、ベポは…




「ベポ、お前拗ねてるのか? 名無しを独占されて」

「拗ねてないっ! おれは怒ってるの!」




ローの言葉にむきになりながら反論するベポ。そう、彼は拗ねていたのだ。確かに最近は何かとローに呼ばれベポと一緒に居る時間が少なくなった、昔から育ててきたベポがまさか拗ねるとは。その様子は大好きな母親を取られたかの様。さしずめローは父親と言う所か?対してローは軽く嘆息し、




「それが拗ねてるって言うんだ。たくっ、何事かと思えば…、とにかくソイツを離せ」

「やだ! 今日はずっと一緒にいるんだ! お風呂も一緒に入って夜も一緒に寝るんだからー! 幾らキャプテンにだって渡さないよ!」

「……何?」



ぴくり、ベポの言葉にローの片方の眉が僅かに上がる。…あ、やばい。この流れは…




「ベポ、船長命令だソイツを離せ」

「絶対にやだ!」

「いいか、ベポ。ソイツはおれの女だ、よって風呂は一緒に入るのが普通だし、夜もいや毎晩寝るのも一緒だ。寝るって言っても本当に眠りにつくのは朝方だけどな。嫌だという割に毎晩毎晩おれの下で乱れ啼き続けて最後は縋る様に乞「あああッー!ストップ、ストーップ!!」




ローの弾丸の様に流れる言葉を掻き消す様に最早叫びに近い声をあげる。ななな何を言い出すんだ、コイツ!! しかも可愛らしいベポの前で!! ベポはと言うと少しきょとんとした顔で?マークを頭に浮かべている。ごめん、ちょっとだけ離してくれる? そうベポに優しく促し開放され、その場をサッと立ち上がり直ぐ様ローへ近づき、問い詰める。




「ロー! ベポに、つーか皆の前でなんて事言うの!? ベポはアンタの様に下心があって言った訳じゃないのよ!?」

「名無し、ベポだってもう年頃の男だ。それにおれは間違った事は言ってねぇ。真実を述べただけだ」



悪気もなくさらりと告げる目の前の男。確かに此処の所毎晩だけどあれはアンタが盛って強引に襲ってくるんでしょうが! その所為でどれだけ腰が痛いかッ…! 目の前の男にふつふつと怒りが湧き上がって来る。




「大体ローは!」

「名無し! キャプテンばっかと話してないでおれともお喋りしようよ!」

「うわあ!? ちょっ、ベポ! いきなり抱きつかな」

「ベポ…ッ」

「ちょっ、ロー! 何能力使おうとしてるの!? 相手はベポ!! それにベポもちょっと離してって…! ――ああもう! ペンギンもキャスケットもジャンバールも見てないで止めてよッー!」










日常の親子騒動

(船長も何時も可愛がられてるベポに嫉妬してるって言えば良いのにな)
(良いのか、止めなくて…)
(いいって。何時もの事だから)






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