昔々、ここは影の国と呼ばれる悪魔の住む国だった。
戦争で滅んだこの国にはもう、小さな村と寂れた廃城しか残っていない。
これは、その廃城で主の帰りを待つ竜のお話────
竜の寿命は長い。
その長い寿命の中、彼はどれ程の時をここで過ごしただろうか。
「主様……」
主の帰りを待ち続け、気づけば彼───ロマは大人になっていた。
身体は大人でも、心は子供の頃のまま。
主の死を受け入れられず、もう幾千の時が流れていた。
主の事を思い出しては紅い瞳が潤む。
その時、背後から気配。
もしかして、主様が帰って来たのでは?
そう思い振り向くと、そこにいたのは1人の人間の少女。
「あ……」
主ではない事に落胆し、瞳に溜まっていた涙は限界を越えぽろぽろと床を濡らした。
分かっていた、もう主が此の世にいない事も、ここで待っていても無駄だという事も。
それでもロマは此処から離れられなかった。
留守を任されたからというのもあるが、此処には主と過ごした沢山の思い出があるから。
ぽろぽろと涙を流すロマにそっと手を差し伸べる。
差し伸べられた手は涙を拭い、驚きで顔を上げると少女と目が合った。
少女は何も言わず、ロマの頭をなでる。
その手が、温もりが、主と重なった。
「うぅ、あ、っうわああああああああああああ!」
少女に抱き着き、彼女の胸の中で声を上げて泣き叫ぶ。
何も言わず、彼女は頭を撫で続けた。
もうどれ程時間が経っただろう。
ロマは泣き疲れ、少女の膝で眠っていた。
彼女は家に帰らず、己の膝で眠るロマの寝顔を眺めていた。
そして気づく。
彼の目の下に酷い隈が出来ていることに。
あまり寝ていないのだろうというのは一目瞭然だった。
「可哀想な竜……」
小さくつぶやき、そっと頭を撫でる。
幼い頃から廃城に住む竜の話は聞いていた。
『あの城には、主の帰りをずぅっと待っている竜がいるんだよ』
だから少女は此処に来た。
何千年も独りぼっちで待ち続けているなんて悲しいから。
少しでも彼の寂しさを取り除けたら───その思いで来ていた。
「どうか、もう彼が寂しい思いをしませんように」
少女の言葉は静かな城内に響き、消えたいった─────
end.