番組に提供していたレシピの案は、そもそもサニーさんの希望が大多数だったらしい。


毎回ボクが提案するレシピに、彼はすっかり満足していてくれたらしく
時がたつにつれ

「んな美しいレシピ考える料理人も美しいに違いないし!」

って言って、料理人
─まぁ、ボクのことだよね─
に会わせろ、と最近はそればかりだったそうで…。



…そんなこと聞いて、いくら楽観的なボクでも

「わぁ、サニーさんがボクに会うのを楽しみにしててくれたなんて〜!こまつ、感激ですぅ〜」

なんて喜べるほど、おめでたくできてない。


美しい料理を作る、美しい料理人…。


サニーさんはそう言って期待してるんだ。


それなのに、実際のボクときたら…………。



「小松シェフ、サニーさんがいらっしゃいました!」


「えっ!?あっ、あはいぃっっ!?」


唐突にADさんに声をかけられて、ボクの思考は一時停止をよぎなくされる。


サ、サニーさん…が…来たーッ!!!?

スタジオの中心が、わっと賑やかになり
拍手や歓声が聞こえてきても、ボクは顔をあげることさえできなかった。



美しいものをこよなく愛し、また自らも美の化身のごとく美しい人、サニーさん。


一体彼のなににそんなにも心惹かれるのか…とにかくボクは彼に夢中だった。

今だって、彼と同じスタジオの空気を吸っていることが震えるくらい嬉しい。

でも、彼の言う“つくしい料理人”なんて、どこにもいない。

ここにいるのは、チビで、冴えない残念なボクだけ。


こんなにも憧れの人の期待を打ち砕きたくない。

なにより、ボク自身が嫌だよ…


なーんだ、美しいって思ってたのに…不細工じゃん。期待外れだったな…!

なんて、がっかりした顔されるなんて…!







「…小松シェフ、お願いしまーす」


スタジオにバースデーソングが流れ、ボクの背中をさっきのADさんがとん、と軽く押した。

えっ…


鬱々と沈みこんでたボクはなんの心の準備も整わないうちから
一際明るいスタジオに、配膳台に乗せた大きなバースデーケーキを押しながら
呆然としながら進んでいく。


あ、あ、あ。




サニーさん、だ。






ボクの世界から、音が全部消え失せた。











キラキラと強気な光りを宿す、切れ長の瞳。

白皙の、という頭文字が何より似合うその美貌。


人を魅力する為にこの世に生を受けたのだ、と魅惑的な薄い唇で語られたら、きっと信じるほかないだろう。


あんなにも憧れた人がそこにいる。

すぐ目の前に、どこかきょとんとした目で……あ、こんな表情もするんだぁ…なんか、あどけない感じもして、新鮮…………………………………………………………………………………ってぇ!?


なにをボーっとしてんだっ!ボクはっ!?


「あっぅわっ…サ、サニーさん、あのっ」


もう頭がぐちゃぐちゃになって、どもりまくるボクを、やっぱり不思議そうな顔で眺めるサニーさんは………うぅぅっ!カッコいいよぉぉっ!

なんでこんなにカッコいいんだろう?

反則だろぉっ!?



自分で自分の思考も、言動も制御できなくなったボクは
ぐるぐると目が回る心地でそれでもなんとか「お誕生日おめでとうございます」とお祝いの言葉を贈った…んだと思う……多分。





って言うのも、次に気づいた時はボクはすでにスタジオの外に出されてて
サニーさんの姿なんて、影も形もなかったから─。














ぽかん……



まさにそんな擬音が、今のボクにはもっとも相応しいだろう。


呆然自失ってきっとこんな感じ。



せっかく、会えたのに………。




こんなチャンス、きっともうこれっきりだったのに………。



今さらどうにもならない自分の顔形の事なんかで考え込んで、テンパって、結局ろくなお祝いも言えないまま、さよならの挨拶もできないで……!


じわり…。
視界がゆらゆら、涙で滲む。

…ボク用にって、スタッフさんが好意で用意してくれた控え室の壁面の鏡から
ひどい顔した涙目の男が、しわくちゃのコック帽を抱えてこちらを見ている。


なんて情けない顔だ。

ああ、もう消えてしまいたい…!









パイプ椅子に座って、備え付けの簡易テーブルに俯せて
しばらくの間涙をこらえて息を詰めていた。


自分の腕の中、隠したボクの顔は湿った暗がりに覆われて、網膜の向こうには、キラキラと眩しいあの人の姿─。



─ああ、そうだ…。


確かにボクは、いい年こいて子どもみたいな態度をとって
憧れの人の前で失態を演じてしまったかもしれない。

でもだけど、本当はあの人は、テレビの中でしか見れない人で。
みんなのアイドルで。


そんなあの人の生まれた日に、それを祝うケーキを焼けて、自らの手で贈ることができた…。


それはなんてたとえようもない奇跡なんだろう─?



キラキラ、キラキラ。


瞑った目の奥で、暗がりを押しやるように、眩く輝くあの人は
さっき見た少しあどけないような、きょとんとした顔をしていた。



クールな美貌のアイドルのあんな表情見れただけでも、ボクには充分な果報だよね。













そうして、いつしか俯せたまま
うつらうつらと眠り込んでしまったボクが
次に目を覚ました時、思いもかけない人が部屋に訪ねてきていて
天地が逆さまになるくらい驚いたのは、また別の話─。




























「ハァ…いつまで固まってんだし…」

「しゃ…………喋った」

「そりゃ喋んだろ!おま、俺をんだと思ってんだし!?」

「あああああ!おたんじょうびおめでとうございますぅぅ〜!!?」


「…それ、もー5回目だし…」


「あああああ!すいませんん〜っ!?」

(…まともに話せるよーになるまでどんくらいかかんだ?コイツ…)






































Happy Happy Birthday!



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