キラキラ光る、スポットライト。


ヒラヒラ揺れる、華やかな衣装。


ニコニコと笑うわけじゃない、でも時たま見せる勝ち気な笑顔に目が釘付けになる。


ボクだけじゃない、沢山の人が
テレビの中のあの人に夢中だ。


ボクの…ううん、みんなのアイドル。サニーさん。











アイドルに、
バースデーケーキを










彼を知ったきっかけは、忘れもしない。

ボクがホテルグルメの料理長を任せて頂くようになってすぐのこと。

あるテレビ局の人から、料理番組に使うレシピの作成を依頼されたんだ。


今話題の超人気グルメアイドルが、歌やトーク、ミニドラマなどを交えながら料理を作るバラエティー番組だと聞いたボクは
そのアイドルを、レースの沢山ついた可愛らしいエプロン姿の女の子で想像していた。


でも

『簡単にできて』
『美容に良くて』
『見た目も華やか』

そんなレシピを依頼されれば、ボクの勘違いだって仕方ないって思うんだけども…。とにかく。


提出したレシピがどんな風に調理されているか、少しワクワクしながら
仕事上がりに録画していた番組をつけたボクは、数分後にはテレビ画面に釘付けになっていた。


すらりとした長身。
色とりどりの華やかな長い髪。

切れ長の目は凛として、あまり愛想のいいタイプではないかもしれない(アイドルなのに)けど
時たまカメラに向ける
挑発的な笑い顔に、何故か胸がドキドキした。


おい、ドキドキって…おかしい。おかしいぞ、ボク。


だっていくら人の目を惹き付けるアイドルって言ったって、この人は、サニーさんは…男の人、なのに…!












とは言え、ドキドキしちゃうものはしちゃうんだし、サニーさんはすごく素敵なアイドルだもの、男のファンがいたっていいじゃないか…!

そうやって開き直ってからのボクの生活は一変した。


ファンクラブに入会は勿論のこと、リリースされているCDやDVD、関連書籍に至るまで網羅し
テレビ、ラジオの出演情報も漏らさずチェックし、録画保存。

暇さえあれば彼の姿をぽーっと眺めて時を過ごす。


そんな日々を送っていて仕事が疎かになった…かと言うとそうでもなかった。

むしろ、彼の出演する料理番組に、次はどんなレシピを使ってもらおうか─彼に一番調和して、引き立てる魅力的な食材はないか─
真剣に考えることで、仕事に対するモチベーションも上がったし、以前とは違った発想もできるようになった。


男のクセに、男のアイドルの追っかけなんて…自分でそう思わないでもなかったけれど、やっぱり彼の魅力には抗えなかったし
彼を知ってから、職場と家の往復しかなかったボクの生活に
新しいスパイスが加わったのは否定しようもない事実だった。





『バースデーケーキの調理をお願いしたいんですが、頼めますか?小松シェフ』


残暑もまだ厳しい8月の夕方、いつもレシピの依頼をくれるテレビ局のADさんから電話をもらったボクは
それが同僚達の目がある、仕事場のロッカールームであったにも関わらず、興奮の声を上げてしまった。


「…ええええ!!?ば、バッ…バースデーケーキ!?」


一体誰の!?


聞きながらも、ボクの頭の中にはもうすでに、大きなケーキを前にして不敵な笑みを浮かべるあの人の姿しかなかった。もちろん、ADさんもそんなことは百も承知だったんだろう、おかしそうに笑いながら
『もうわかってるって声ですよ、小松シェフ』
勿論、サニーさんのバースデーケーキ以外ないでしょう?


ADさんの確定的な言葉は、ボクの耳でまるで天使の吹くラッパみたいな声音で響く。



ボクが、あの、サニーさんの!バースデーケーキを!!焼ける!!
…………………………………………!!!!

うわぁぁぁ!神様仏様アカシア様!!!!


料理人で良かったって、こんなにも思ったのは生まれて初めてかもしれません…!!










で、それからのボクと言ったらもう言わずともわかっちゃうんじゃないんでしょうか?


仕事の合間を縫って、どんなケーキがいいかアイディアをまとめたり、職場のパティシエに意見を聞いたり。


仕事が終わったら試作品作りに明け暮れた。










そうして、ついに決戦の日─。


ボクは例のサニーさんの料理番組の収録現場にいた。



どうしてこうなった?

そこらへん、ボクもふわふわと浮かれていたんで曖昧なんだけれど…。










ケーキを作ってくれないか、と依頼してきたADさんはさらに付け足して言った。


『サニーさんの誕生日当日に、ちょうど収録があるんです』

『ケーキは、収録後のスタジオでサプライズとしてプレゼントする予定なんですが─小松シェフにはぜひ、プレゼンテーターとしてスタジオに来ていただきたいんです─』










それを聞いたボクは一も二もなく飛び付いた。


だって当たり前でしょ!?

皆さんだって、自分がすっごく憧れてる大好きな人に会えるって聞いたら…喜んで食いつくでしょう!?









…そうして、サニーさんの記念すべき24回目の誕生日に、ボクはノコノコとお祝いの場にやってきたというわけなんだけど…。










人の話し声や、機材の作動音、道具類の搬入出音などでざわめくスタジオの片隅で、今日の為におろした新しいコックコートに身を包んだボクは……正直、萎縮していた……。



収録後とは言え、サプライズの場面はしっかりカメラに納め、番組の裏場面的扱いでなんらかの形で放送する予定だというのを聞かされたのもあるけど
一番の原因はアレだ。サニーさん。

いざ憧れの彼を肉眼で目に映す緊張もさながら、彼がボクに会うのをいたく楽しみにしてくれているらしい、と聞いたからだ。




それはつまり、こういうこと─。






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