『おぞましき客あり。避けるが吉』
なんだ…?これ。
易学の街グルメフォーチュンの人気占い師ココは、自らに差し迫る危機の暗示をふいに視て愁眉を潜めた。
面倒事ならばトリコだろうかとも思うが、さすがに『おぞましい』までは行かないだろうと考え直す。
「…イヤ〜な予感」
思わず呟くと
「コ、ココ様…!やはり今回の先物取り引きはマズかったんですか!?」
それを耳ざとく聞きつけたテーブルの向こうに腰掛けた初老の男が、今にも泣き出さんばかりに声を震わせている。
やべ。占い中だということを忘れてた。
「いやいや、失礼。今のは僕自身の…まあちょっとした愚痴に過ぎないのでお気になさらず」
あからさまな作り笑顔の裏で、ココは胸中ぼやいた。
あ〜あ、めんどくさ。
おぞましいとまで出た面倒事がどんなものか、若干の興味もあったココだったが
自身の先見には一定の信頼を寄せてもいる。
特に怖いもの好きというわけでもないので、おぞましい某とのご対面は遠慮させて頂くことにした。
占い屋の店先に
《暫時臨時休業致します》
の貼り紙をし、しばらくぶりにハントにでも出ることにする。
“客”と言うからには訪ねてこれなくすればいいだけのことだ。
家の施錠を済ませ、キッスを呼ぼうと崖の向こうへ視線をやる。
「ア゛ー」
「キッス…?」
遥か遠く、常人であれば通常サイズ程の烏にしか見えないであろうキッスの背に
並外れた視力のココの目は、よく見知った人の影を捉えた。
「…あれは…リンちゃんじゃないか」
飛び抜けた飛行速度を誇るココの家族は、すでにかなり距離を近くしており
その背に乗った女性の朗らかな笑顔も、今なら一般人の視力でもなんとか視認できるだろう。
「コーコぉ〜遊びに来たんだし〜!!」
巨大な鳥の羽音に負けることなくよく届く朗らかな声に
珍しいこともあったものだと、いささか戸惑いつつも
わざわざ訪ねてきてくれたであろう知己の妹分に
歓迎の意も込めて大きく手を振って見せるココであったが─。
彼はまだ知らなかった。
おぞましき客あり。
避けようとしていた卦が、今まさに目前まで迫っていることを─。