小さいなぁ…。


寝台に横たわる人をじっと眺めていると、とにかくしみじみとそう思う。

小さいなぁ、小松くん。












ホテルグルメのシェフ・ド・キュイジーヌを勤めるだけあって、小松くんはとかく忙しい。


加えて、ただでさえ少ない休みのほとんどをトリコとのハントに費やしている現状で、彼の姿を目にすることすらまれなのは自明の理なはずだったんだけど…。


どういうことだか、小さなシェフは僕の自宅の寝室、長年使い慣れた大きなベッドの上に、ちんまりと身体を丸めて横になっていた。












たべられたいの
たぬきくん




















こんな体質のせいで、そこらへんの人間と接触することがひどく億劫になっていた僕だけど、小松くんの反応を見ていると、人付き合いも悪くないって、そう思えてくる。


とにかく彼は親しみやすい。

裏表なく感情をストレートに出してくれるから、“目を使う”必要もなくて、一緒にいることがひどく楽だ。
しかし…元から小柄な彼だけど、僕の体躯に合わせたベッドに寝ているからか、対比効果でより小さく見えてしまう。


ホントに成人男性かい?君は。
大体そんなに小さく丸くならなくたっていいだろうに。






事の起こりは至極単純で、仕事絡みで少し相談したいことがある─まぁ、つまりは占いの依頼ということ─と、小松くんらしい丁寧さと少しの図々しさでもって、僕の仕事場に彼が訪れたことがきっかけで。


お互い仕事絡みとは言え、せっかく訪ねてくれたわけだし、ゆっくりたわいもない話もしたい。


それとなく自宅に誘うと、彼は大喜びでついてきてくれた。





─…それでどうしてシェフが寝台でおやすみ遊ばす事態になったのかと言うと…それが僕にもわからない。


ちょっと雑用があって、リビングから席を外している数分の間に、彼は姿を消していて。

お手洗いかとも思ってたけどなかなか戻らないものだから、そう広くもない家の中をあちこち探してみたら─こんな有り様だったというわけ。


正直ちょっと意外だったな。

小松くんは、丁寧な口調や物腰に似合わず、あまり遠慮をしない─良く言えば物怖じしない、悪く言えば図々しい─タイプの人間だ。

だけど人の家を家主の許可なく歩き回ったり、あまつさえ寝室に勝手に立ち入るどころかベッドに横になるとか、そんなどこかの誰かさんのような無法な行いをするような子じゃないと思っていたんだけど…。

具合が悪いのかな、と最初は思ったけどそんな兆候はいたって視えないしね。


視えるのはひどく不安定な気持ちの揺れ。

発熱も若干、呼吸と脈拍も通常より大分振れてる。

それも感情の昂りによって引き起こされている症状だ。

小さく丸まった猫みたいな小松くんの瞼は、しっかり閉じられてるけど、時たま緊張に耐えきれないようにひくひくと震えていた。


なんだかなぁ…
声をかけたほうがいいものか…
ベットサイドで膝ついて、彼の顔を眺めながら僕はさっきからずっと迷っている。

なんでかってこの状況。

彼は寝たふりをしている、らしいから…。

ただ悪ふざけとか、そういうんじゃない。

それなら僕だって、その特徴的な鼻のひとつもつまんで

「こら、なにたぬき寝入りしてるんだい?」

ってたしなめるさ。

そしたら彼はぷはっと吹き出してこう笑うだろう。


「あはは!バレちゃいましたか?」って。でもどうやら違うらしい。

それはもう、こちらが心配になるくらいに乱れた彼の電磁波をマジマジ視るまでもなく伝わってくるから。


小松くん、君はなにをそんなに緊張してるの?

それで一体、なにが怖いの?

それからちょっとの不安と後悔と。

あとは…ものすごい、期待感。


…それって、もしかしなくても、僕に向けられてるんだろうけど…僕は一体どうすれば君のご期待に沿えるのかなあ…?




















教えてよ、
ねぇ真っ赤な顔の
たぬきくん?














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