/エレウサ 幼少。wistariaの続きみたいな とある日の話だ。 佐吉は書物を持ち幸姫の部屋へ入ると、いつもにこやかに出迎える筈の幸姫が、背を向けたままでいた。 鼻をすする音を聞き、佐吉は泣いているのだとすぐに気付いた。 「なぜ泣いている」 「…ひっく、えっく。う…」 「申してみなければ、分からぬぞ」 佐吉は書物を置いて、幸姫の肩を掴む。幸姫の顔は涙でぐしょぐしょになっていた。 「庭で、桜が咲いておりました…」 「それでどうして泣く」 「ずるる、…ゆえに。ゆえに、父上が死んでしまったのを、うっく、思い出してしまい……」 父が死んだのは、ちょうど桜が咲いていた頃。幼い少女にとっては哀しすぎる出来事だった。 佐吉は理解したのか、少しばかり困った顔で幸姫の顔を見た。 「泣くでない」 「…うぇ、?」 「泣くなと言っている。武家の娘ならば、簡単に涙を見せるな」 佐吉は少女の涙で濡れた頬を、両手で拭う。幸姫は呆気にとられた顔だった。 「お前が泣けば、死んだ父上も悲しむぞ」 「…どうすればよいのですか…?」 両手で掬い上げるように頬に触れる。少年の手は白く冷たいが、幸姫はそれが心地よく好きだった。 「笑え。わたしはお前の笑った顔が、いちばん好きだ」 幸姫は一瞬躊躇うが、やがて照れたように笑った。 「分かりもうした」 「あの子がもし真田じゃなかったら…佐吉君の元へ嫁がせたのになぁ」 ふたりの見えない場所で、ひとりの大人は小さくため息を零した。 /幸村の日記 端折ってます 鬱展開注意 性的描写有 九月二日 「お館様ぁあぁ!!!」 「幸村ぁぁぁあ!!!」 今日はお館様が朝の鍛錬に付き合って下さった。共に良い汗を流しました。 十月十一日 今日は佐助と城下へ行きました。城下はたくさん人で溢れておりました。農民の子供が、店先にある飴をずっと眺めていたので、某は買った飴を子供にあげました。一緒にいた佐助がなぜかにやにやしていた。 それと団子を買って帰りました とても美味しゅうござった。 十月末日 お館様が倒れられた。 その日は皆走り回っておられました。某はずっと側に看病につきました。 お館様は大した事かと笑っておられた。何故早くに気付けなんだ、幸村。兎にも角にも、早く病状が快復に向かえばと願っている。 十一月十五日 お館様の采配を代わりに握る事となった。某に出来るかどうかも判らぬが、果たす以外に道は無いだろう。 だが、今暫し覚悟を決める時間をどうか。 十一月二十日 (墨で塗られている) 十二月三日 徳川との戦に対抗するべく、石田軍の元へ兵を率い訪れた。結果、良い返事を賜る事が出来た。本当に安堵している。 十二月十日 佐助に痩せたかと問われた。 疲れはあるが、 そこまででもない。鏡を見ると、少しだけ窶れていた。 十二月十八日 石田殿とまともにお話したのは初めてだ。冷たい物言いをなさるが、悪いお方とは思えなかった。ただ少し、哀しい顔をされていたのは分かる。 (墨で塗られている) ぱたり。 三成は日記を仕舞うと、幸村が起きない様に足音一つ立てず褥へ戻った。 同じ褥の上で、幸村は背中を晒して眠っている。量のある長い髪が枕元に散らばっていた。 一房掬い、口付ける。 背中には噛み付いた様な赤い痕があった。それが扇情的に映え、三成はその痕を舌でゆっくりと舐め上げる。火を消して横になると、しなやかにくびれた細腰を引き寄せ閉じ込めた。 もどる/とっぷ |