/センチメンタル重低音 家♀幸 幸村が人質として豊臣に送られてしばらく経過した後。 「おうい、真田」 豊臣の配下である徳川家康が幸村の元を訪れた。手には幸村が好む甘味が入った包み。 彼は幸村が好きだった。まだ彼が豆狸と呼ばれていた頃、他の武将達は戦国最強である忠勝ばかりを評価していたが、唯一幸村だけは家康と本気で向き合い、戦ってくれたのだ。彼女の逞しく実直な性格に数多の武将が骨抜きにされ、彼もまた例外ではなかった。 「こんな暑い時期でも鍛錬か。偉いな真田」 「はい。少しでも体を鈍らせたくはないのです」 家康が気を利かせて差し出した手拭いをありがたく受け取り、幸村は答える。今の幸村の上半身は胸当てしかなく、家康は内心目のやり場に困っていたが、なるべく平静を装った。 最近は幸村も女らしくなったというか、年相応の色気が出て来た。 出会った頃はまるで少年の様に明朗活発な少女だったのに。信玄公の容体が優れないと聞いたから、大将に相応しい器となる為に苦労しているのだろう。そう彼は思った。 「徳川殿は変わりましたな」 「えっ?」 突然の言葉に家康は驚く。 幸村はどこか気まずそうな表情で続ける。 「昔のようなやんちゃではなく、教養も豊かで、背も伸びて、顔つきもすっかり大人びて………」 「さなだ、」 「某は思うのです。お館様の意志を継ぐ資格があるのは、もしかしたら貴殿なのではないかと」 「覚えているか真田」 「え?」 「忠勝なしでお前と刃を交えた時。儂はお前に負けた」 「勿論悔しかった。だからあの時決めたんだ。もっともっと強い男になってやるって」 此処まで大きくなるまでにかなり苦労したんだぞ、と家康は言う。 「だから今言おう。真田、今の儂を見てどう感じる?」 「…………」 幸村は困ったように顔を火照らせていた。 「………っこいい」 「?今何て」 「格好良すぎるのでござる!何度も言わせないで下され恥ずかしい!!」 幸村は家康を強く突き飛ばす。その拍子に転げそうになるが、幸村の包み隠さない率直な感想に、家康は笑顔を零す。 「嬉しいぞっ!真田ぁ!!」 「ひゃっ」 幸村の柔らかな体を強く抱き締める。良い匂いが鼻を擽り、嬉しい気持ちになった。 「真田は儂の運命だな」「運命、とは」「戦の世が終わったら、真っ先にお前を娶るからな。大好きだ、真田」 「はは破廉恥にござる!!」 /大ぱぱ時みつ01 現パロ 「そこの娘御。 こんな遅くに何処へ行きやる」 「おじさんだれでござるか?」 「失礼な、我はこう見えても年は二十三よ」 「今戻ったぞ三成」 「遅かったな刑部……… って、誰だ。そいつ」 「港付近で拾った。 確認したら捨て子だった、のう幸」 「おーたにぱぱどの、 ふくありがとうでござう」 「気にするな。これから主はこの家の一員故。目の前にいるのは我の従兄弟で三成だ。よろしゅう頼むぞ」 「三成にいですな! それがし幸ともうす、以後みしりおきあれ」 「話が飛躍し過ぎだあああ!」 おーたにぱぱ(23) 我が家で一番年上。有名デザイナーで知られる。病気持ちで親に見捨てられた過去あり。幸を連れてきた張本人。 三成にい(18) 剣道部兼囲碁部。滅茶滅茶頭がいい。おーたにぱぱの従兄弟。女子供が苦手だが、幸の面倒をみる羽目になる。 幸(5) 捨て子。武士言葉を使う謎の幼女。おーたにぱぱが好き、二番目に三成にい。 /大ぱぱ時みつ02 その2です。シリーズ化しとくか 今回は大谷さん出て来ない 「みつにいどの、おーたにぱぱはいずこへ」 「刑部は仕事だ」 「みつにいどのはどちらへいくのでござる」 「私は今から学校だ。貴様は留守番分かったな」 「るすばん…」 ドタンバタン 「やあああああでござるうううううう!!!」 「聞き分けの悪い!!貴様を連れて行く気はないのだ、放せがき!」 ピーンポーン 「おーい石田ぁ?迎えにk…」 (まずい…。長宗我部が来た…っ!) 「このちっこい子誰だ?お前の親戚かよ?」 「みつにいのおともだちにござるか?」 「おう、俺はちょうそかべ、もとちかってんだ。 ちびは何て名前だ?」 「ゆきにござるちかにいどの!」 (きゅん)「そうかそうか、めんこい奴だぜ。石田、連れてってやれよ。可哀想だろ?」 「連れて行くって…学校にか!?」 「応よ」 結局学校に連れていく事になった。 「まさか本当に許可が下りるとは思わなかった…」 「おっきなたてものいっぱいでごじゃる」 「楽しいかゆき?ここはな、学校って所だ」 「楽しいでござるううう」 「くぁーッ!こんなめごい子供が石田の親戚なんてよぉ」 (頭が…痛い) 「あっ元親先輩。三成先輩もおはようございます」 「…ああ」 「よぉー鶴の字!」 「ちょ、何ですかその地上に舞い降りた天使は」 「石田の親戚でよぉ。名前は幸ってんだ」 「このきれいなひとだれでござうかー」 「かわいすぎますうううううっ三成先輩とは大違い」 「聞き捨てならんぞ貴様」 「幸ちゃん私の事は鶴姫お姉ちゃん、って呼ぶんですよ」 「つるひめおねえちゃん」 「かわいいいいいいいいいい」 「だよなだよな」 「さっさと教室に入るぞ馬鹿の二乗共」 イカ解説 長宗我部(18) 石田の友達でヤンキー上がり。同じ運動部。黒歴史のせいか可愛いものに目が無い。 鶴姫(16) かわいい後輩。弓道部。長宗我部とよく意思疎通する。 /楽園に最後の華 三幸♀←政 関ヶ原の後の話。死ネタ 「真田幸村の首にございます」 部下が一部血が滲んだ白い布に包まれた物を、大将である政宗の前へ据え置いた。 「足軽二人程が廃寺で休んでいる隙を狙い討ち取ったようです。かの赤備えを纏っていたそうで、間違いは無いかと」 「OK.実検は俺がやる。下がっていい」 部下が下がるのを見届けた後首台に置かれた白い包みに暫し目をやると、結び目に手をかけた。 「くっ……」 「悪ぃな。一本取らせて貰ったぜ」 季節は秋頃だろうか。 上田城の手入れの行き届いた広大な庭の真ん中で、かの奥州の竜と武田の若虎が手合わせを行っていた。立ち合っているのは若虎の部下の忍である猿飛佐助で、何とも微妙な表情でその場を見つめていた。 幸村は地面に刺さった二槍を一瞥し、悔しそうに顔を歪める。 「流石は独眼竜、」 「あんたもなかなかだぜ。今までの敵なんかとは、桁違いのthrillを楽しませてくれる…」 慣れた手つきで六爪を鞘に収めると、膝をつく幸村に歩み寄る。 「なっ、」 無骨ながら長い指が幸村の丸みを帯びた頬を撫ぜる。端正な政宗の容を至近距離で見つめる羽目になり、幸村の顔が朱に染まる。 「政宗殿っ、何をなされ…」「なに、今からとって食う訳じゃねえ。だがいつか泰平の世が訪れたら、俺はアンタを正室にするつもりだ」 余裕綽々といった表情で、幸村の髪を結んでいた紺の紐をそっと解く。亜麻色の髪がぱさりと彼女の肩に広がり、武将としてではなく姫としての顔が姿を現した。 「政宗、殿ぉ…や、やめ」 髪を一房手にとり口付ける政宗の姿を見てさらに羞恥を煽られた幸村は、双眸を潤ませながら制止の声を上げる。 目が届く範囲内にいる佐助から殺気が迸るが、当の政宗はそんな事お構いなしといった様子で、幸村の反応を楽しんでいた。 「cute…アンタ本当可愛いな」 「そ、某の何処が可愛いと云うのですか……武術以外は空きし、女子の振る舞いすら充分に出来ませぬし」 幼き頃に槍術に魅せられ、武家の娘の作法を禄に学ばず育ってきた彼女は、槍捌きの力を信玄に見込まれ武将となり戦功を収めてきたが、やはり今になって怠ってしまった事を後悔していたようだ。 「complex感じてんのか?俺はそんな事どうだっていいのに」 「政宗殿……」 「それに、こんな上等なモン持ってるなら、充分女として機能してるぜ」 政宗は幸村のあらん場所を遠慮なくすくい上げるように持ち上げた。 「は、は…、は………破廉恥にござるーッ!!」 秋の空に、拳で頬を打つ音が響き渡った。 「一応こっちも手裏剣構えてたけど手間が省けたわ。ざまあないねえ」 「………黙れよ猿」 「そうだ。あんたに云っておきたい事が幾つかあるんだよ」 「An?」 政宗はゆっくりと体を起こす。 「最近、お館様の体調が優れないみたいでさ。次に誰が武田の総大将を継ぐのか話し合われてる最中だよ」 「何…?」 「豊臣の残存勢力が力を蓄えてるらしくてさ、近々また大きな戦が起こるかもね。旦那はウチの軍じゃかなり重宝されてるから、嫁入り所じゃないと思うんだけど」 「Shit,何が言いたい」 「………もしものことがあったら、だけど。旦那を宜しく頼みたい訳」 「ったく。………まるで後悔してねぇみたいな、面しやがって」 首だけの姿となった幸村の頬を、あの頃と同じように触れながら政宗は言う。 西軍の大谷吉継ら重鎮は今し方討死したとの報告が入り、総大将である石田三成は未だ行方知れず。 恐らく徳川とやり合っている可能性が大きいが、今の徳川に勝てるとは思えなかった。泰平の世は、やはり彼を必要としているようだ。 薄らと開いた瞳は誰かを思うように遠くを見つめたまま、時を止めていた。しかしその瞳に映るのはきっと自分ではないのだと、政宗は悟った。 「どうして、あんな奴の下に着こうと思ったんだ……?」 答えは分からない。 もどる/とっぷ |