/クンストメンタルヘルス
現パロかつ
君はペッ(ryパロ


仕事から戻って来たんだけれど、何だか訳が分からない。
その日は雨が降っていた。帰りがけいつも横切る公園のベンチで男がひとり、ベンチの上でびしょ濡れになって眠っていたのを発見した。

(…死体!?)
スーツやらストッキングに泥水が撥ねるのを構わず、某は駆け寄る。口元に手を近づけるとまだ息はあったようで安堵するが、まずは安全な所へ運ばなければならない。意外と軽くてびっくりした、それとも自分の怪力のお蔭だろうか。



男は息はあるが、ぐったりと死んだように眠っていた。
まじまじ見てみると、鼻筋がしゅっとしていて綺麗な顔立ちをしていた。伊達先輩と張り合える位のイケメンである。
とにかく、熱や外傷もなくてよかったと思う。とりあえず水を含んだ服を脱がせ、毛布で包んでソファで寝かせた。病院へ連れていくのは…本人が起きてからでも大丈夫だろう。



***



目が覚めたら朝で。
何故か見たことも無い天井があった。これまでの記憶が全く思い出せない。体を起こし周囲を見渡せば、やはり知らない他人の家にいた。時計は9時をさしている。自分を運び込んだ人間は、おそらく外出している。


テーブルの上には作り置きのサンドイッチ。ラップの上に貼り付けられた紙には、
『朝食を作ったので食べて下さい。調子が悪いようでしたら、いつまでも休んでいて結構です。家の鍵は開けておきます』


「………」
文字からして、多分女だ。部屋があまりにもシンプルなせいか、全く気付かなかった。わざわざ自分の体を背負って家まで帰って来たのだ、さぞ大変だったろうに。

というか。そもそも、自分は一体何をしていたのだろう。
まず、自分の名前からだ。…自分の名前、名前は、

「思い出せ、ない」















「只今ぁ」

昨晩の男が気になったので、いつもより早めに切り上げた。
ばたばたと靴を脱いで上がると、リビングのソファは蛻の殻で。テーブルのサンドイッチは一個だけ減っていた。自分以外の気配はないし、帰ったのだと信じ込んでいた。




とりあえず風呂にでも入るかと、着替え場の扉を開く。
中には全裸の男がいて、こちらを振り返った。

「ぎゃ――――ッ!!」
「帰って来たのか」
「い、いるならいると言って下されぇッ!!」
「貴様が突然開けたんだろう」

男は全く気にしていない様子で、某の横を通り過ぎて行く。某はすかさずバスローブを投げつけた。男は器用に受け取り袖を通すと、訳ありのような顔をしてこちらを見てきた。






「記憶喪失?」
「ああ」
男は頷いた。

「何故そんな事に」
「分からん。自分が何処に住んでいたのか、何をしているのか、名前すら思い出せんのだ。」
それが本当なら面倒な事だ。話に寄れば、ソファで目覚める以前の記憶が全く無いらしい。

「一人称は何だったか…僕?違うな。私……ん、それとも俺だったか。もういい。記憶が戻るまで、俺を此処に住まわせてくれ」
「ええっ!?」
「都合が悪いのか」

都合が悪いというか。



「そ、そういう訳ではありませぬが」
「別にペットでも構わん」
「ぺっペット!?」
「ああ。犬らしい名前でも付ければ、変な噂も立たなくて済むだろう」

この男は一体何を言い出すのだ。





「主人はお前だ。名前を付けてくれなければ困る」
「………う…。で、では」















「"三成"?」
「某が幼い頃に飼っていた犬の名前にござる」
「……分かった。」

三成と(某が)名付けた男は、僅かにだが小さく微笑んだように見えた。


「俺は犬だからな、主人の命令には忠実に従う。」
「本当にござろうか」
「嘘などつくものか」
「では、お手!」

三成はしれっとした顔で、某の掌に握る手を乗せた。それがどこか少年っぽい雰囲気を漂わせる。大人びてる癖にこんな一面もあるのかと思い、無意識にぼうっと顔が熱くなった。


某は今日から三成という名前の"犬"を飼うことになった。







/名前をつけて下さい
現代チックで幸村が人形という設定です


「これが百年前の技術かぁ…凄いよな」
「前の代が病気で亡くなられたから、そのお弟子さんが跡を継いだんだってよ。若いのに大したもんだ」
「若いってそいつ、年はいくつだよ」
「えぇっと……多分二十かそこらだったかな」








師匠が残した作品は数知れない。
それだけ人形を作る事に対しての情熱と意欲があったという証拠だ。展示会に出されたのは子供用の愛玩人形や玩具、小物ばかりだが、それらは全て"表向き"に誂えたもの。依頼されて作られたものとは別に、個人の意思で作ったものが"何体"も部屋に眠っている。

それらは全て生きた造形で、限り無く精巧な人間の生き写しだった。豪奢な和服を纏ったそれは時を止めている。その中にたった一体だけ、外気にすら触れていない人形を見つけた。木箱の中で布にかけられた人形。人形は上半身から下が存在しなかった。赤味を帯びた髪が白い肩にかかり、どこか少女めいた丸い輪郭に、硬く閉じられた双眸。



俺は一つの考えに行き着いた。素材を揃え、その未完成の人形に命を吹き込めば良いのだと。そう考えた。その無垢な顔に似合った小さな脚、緩やかな腰を。ようやくの事完成した頃、一睡もしていない自分に気が付いた。散乱した道具の隣に横たわる人形。ただの人形であると分かっているのに、他の人形とは違う何かがあるような気がした。その理由は分からない。引き結ばれた口が、ほんの僅かに綻んだように見えた。

(疲れた)
何日もの徹夜を乗り越えたのだ、仕方がない。脱力してその場で寝転がると、俺は誘われるまま眠りについた。








薄らと目を開ければ、そこには初めて見るものばかりが沢山散乱している。
体を起こそうとしたがこれがなかなか難しく、隣にあるものを掴みやっとの事起き上がった。四つん這いになり辺りを見渡す。ぼんやりと見えたのは、煌びやかな衣装を纏った人間と見間違うばかりの人形、人形、人形。

きしりと、自分の体が悲鳴を上げる。
掴んでいたものが柔らかくて、眼下を見ると男が一人すうすうと息をたてて眠っている。整った容姿だった為同じ人形かと錯覚したが、人形が寝息を立てるなんておかしいだろう。自分がどうしてここにいるのかは分からないが、男の存在が気になって思わず近付いてしまう。



「きで んは どなた でござい ます か」

男は少しばかり唸って、やがて瞼をゆっくりと開ける。
某の姿を目に入れた途端切長の目を見開かせ、まじまじと見つめてきた。何がそんなに変なのか、皆目分からなかったけれど。







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