/残映


近親相姦ねたです
重家×幸村




自分の母に欲情しているのを自覚したのは、ついこの前の話で。早世した父親の顔は覚えていないが、母の言っている通り、俺は父親とそっくりな姿で生まれてきた様だ。母から受け継いだと感じられるものは、今の所無い。
ぎこちなく自分に接する母が母ではないように思えて、もしかすると母は俺を通して父の姿を見ているのではないかと思った。なら簡単な事だ、父を愛しているのなら、俺を求めれば良いだけなのに。母は気付かない振りをしていたけれど。



「重家、止めよ。この様な」
「何故ですか。父が恋しいならば、俺を"父"にすれば良い」
「何を言っておるのだ、お前はそれがしの」
言い終える前に口を塞ぐ。
かつて父が向けたであろう微笑を顔に乗せれば、忽ち母は動揺に瞳を揺らす。おんなの顔だった。


「幸村」
「重家、悪ふざけも大概に」
「愛している」

宥めるようにゆっくりと押し倒す。幸村は泣きそうにこちらを見ていた。逃れられない様きつく閉じ込めると、先程まで突っ張っていたか細い手が背中に回る。
服から湿った感触がする。母が泣いているのだ。昔事故に巻き込まれ、一人生き残ってしまった自分を責めている。



「ひっく、う、み、つなり、どの」
「泣くな、幸村」
「う、う、ごめ、なさ、ゆる、し」
死者に届く筈のない言葉を懸命に伝えようとする母が愛おしい。罪の意識なんて無かった。この身が何であろうと、母に愛されればそれでいい。






/三空去
幼少ネタ
鬱注意・R18


その晩、半兵衛に言われるまま部屋を訪れてみれば、長い髪を下ろした夜着姿の女が布団に座っていた。佐吉は訳も分からず、知らない女と交わう羽目になった。半兵衛の教育はシビアで、飛び切りの上玉を使い佐吉に性行為のいろはを叩き込んだのだ。誰もいない寝室で、佐吉はぼんやりと横になっていた。あの女の手が、自分の体の中心をまだ這い回っている様な気がして気分が悪かった。

「ここを触ると、女は皆狂ったように鳴くんですよ」と赤い唇が言っていた。
女なら皆。ならば、あの日頃からぎゃあぎゃあと煩いあの子供も、同様だと言いたいのだろうか。あの鼻タレが。佐吉は阿呆らしく思えたか、体を丸めとゆっくりと眠りについた。




 * * *




「み空行く、月の光にただ一目、相見し人のいめにし見ゆる」
「みそらいく、つきのひかりに…えっと、うー…」
「ただ一目?」
「んー……あいみし、、んん」
「何度言えば覚えるのだ、ばかもの」

本を縦にして頭を小突いてやれば、幸は「きゃん!」と犬の様な声を上げる。すぐ様ぷう、と頬を膨らますが、優秀勤勉な佐吉には全く効果がない。

「槍の稽古も結構だが、最低限の教養も身に付けぬと恥をかくのはお前だぞ」
「でもこの前、半兵衛様からお褒めの言葉をいただいたのです。『槍』という文字をかくのが上手、と」
「それとこれとは全く関係無いだろう、大ばかもの」

佐吉は頭を手で押さえながら言う。するとツキ、と僅かな痛みが広がった。思わず顔を顰めると、傍にいた幸が心配げに覗き込んで来た。



「佐吉どの?」
「…いや、何でもない。」

「そういえばお前、他の小姓の部屋に出入りしているそうだな」
「はい。たまにですが、遊びに付き合うてくださるので」
「私が居ない時は、刑部の部屋でも訪ねて遊んで貰え。いいか、いくら待遇が良くても人質の立場なら、無闇に人と仲を持つな」
幸は少しばかり唸った後、「はい」と渋々頷いた。






教鞭を振り終えた後、佐吉は廊下を歩いていた。
他の小姓達が談笑している部屋を通りかかり、偶然彼らの会話が耳に入ってきた。佐吉は秀吉が一目置いている存在の為、小姓仲間からはあまり良い評価はされていない。どうせいつもの陰口か何かだろうと彼は思い、そのまま過ぎって行った。



「あの才槌頭が世話してる娘を招き入れたのか」
「最初は断られたけど、茶菓子をちょいとちらつかせてやったら簡単について来た」
「うわ、どれだけ卑しいんだか」
「それでどうした」







「まず裸に剥いて、犬の遠吠えの真似をさせるだろ」
「本当かよ」
「はは、えげつないな」

「それで目隠しさせて、無理矢理――を――に捻じ込んで揺さぶるたんびにいたい、いたい、って。面白かった」
「おい、それまずくないか」
「平気だって。慣れてくると、たまに色っぽい声出すんだぜ?」
「なあ…今度他の奴等も誘って行かないか」
「あの子供(がき)、口は堅いからな」


/518
戦争パロ
鬱展開注意


とある国がまだ戦争の惨禍にあった頃の話。その国は"共栄圏"という、他国を含めた大陸全てを統一するという目標を掲げ戦争を続けていた。
まず最初に隣国が植民地となった。隣国の民間人達の一部がその国へ強制移住させられ、男達は徴兵され、残された女達は軍需工場へと働きに出された。その中には親を失い天涯孤独になった子供達も混じっていた。薄ら寒い中、粗末な着物を身に纏った女の集まりが朝早くから工場へと足を向けていた。ラジオから、この国の戦況は有利だという報告音声が延々と流れていた。







「幸姉ちゃん、その子だあれ?」
「今日から此処に住むお友達にござる」
行く宛がないと知り孤児院に連れて来た少年は青緑の傘をぎゅっと抱いたまま、下を俯いて動かなかった。

「わたし、つるっていうの。あなたのおなまえは?」
「………」
「きゃっにらんだ、こわいよ幸姉」
「ずっと橋の下にいたのだ、きっとお腹がすいているのでござろう。佐吉、"つる"はいい子だから仲良くでござるよ」
口を固く噤み終始無言の佐吉の肩を抱いて、孤児院の保母である幸村は部屋へと案内した。

その佐吉という少年は――名前自体はこの国のものだが――首に提げた名札を見る限り彼は隣国の人間だった。汚れていたが、佐吉の持っている傘は明らかに女物だった。母親を戦争で亡くしたのかも知れない。きっと怖い思いをしたに違いない、幸村はそう思った。





佐吉は幸村が必死に面倒を見てきた甲斐もあって、ある程度は人と話すようにはなったが、他の子供と一緒に遊ぶような事は殆ど無かった。幸村以外の大人はその事で心配する事もあったが、幸村はそれが佐吉の本質なのだと考え何も言わなかった。勉学では優秀な佐吉を子供達は慕っているし、素直で嘘をつかない佐吉は近隣の人にも好かれていたようだ。

そんな彼が唯一弱々しい姿を見せるのは、幸村以外に誰もいない時だった。夜中布団を抜け出して己の膝上で縮こまる姿を、幸村は可愛らしく思った。佐吉にとって幸村は母親代わりのような存在だったのだ。




佐吉が十五になると、軍の命令で彼は強制労働の為遠方へと旅立つ事となった。。
勅令には従わなければ監獄行きになるので、仕方のない事だった。幸村は佐吉を、本当にわが子の様に抱き締め別れの言葉を告げた。行ってらっしゃい。
絶対に帰って来るのでござるよ、とそう聞こえたような気がした。佐吉は彼女に伝わるよう、「はい」としっかり答えた。

それから何年か経ち、国は戦争で負けた。




劣化ウラン弾を使用した爆弾を二発落とされ、国は甚大な被害を蒙った。多くの民間人が無差別に死んだ。隣国も植民地から解放され、人々は大いに喜んだ。強制移住させられていた隣国の民は暴動を起こし、人々を襲い家屋には火を放たれた。幸村達のいた孤児院も、例外では無かった。

その頃佐吉は名前を変え、雑賀という女の家で世話になっていた。
そこで隣国の民による暴動が起こっていると風の噂で聞き、彼女の元を離れすぐに孤児院のあった場所へ戻った。そこには、孤児院ではなく瓦礫となった木材やレンガがあちらこちらに転がっているだけだった。


その光景を呆然と見ていると、後ろから声をかけられた。

「鶴?」
娘はこくりと頷いた。あの頃に比べすっかり背も伸び、顔つきも大人びていた。


「戻ってきたんですね、良かった…もう此処には誰もいません、みんな逃げちゃったから…」
「……幸村は?幸村は何処にいる」
鶴は黙り込んで、両目には薄らと涙が滲み始める。風呂敷を抱える彼女の手が、かたかたと震えた。






玉音放送の途中で、隣国の人達がシャベルや鈍器を持ち始めて、私たちの家に押しかけてきたんです。
幸姉さんも連れてかれて……私、怖くて、どうすることもできませんでした。遠くまで逃げたので、様子は分からなかったけど、きっと…、きっと惨い仕打ちを受けていたんだと思います。戻ってきた頃には家は焼け落ちていたから、骨はこれ位しか見つからなかったけれど……あなたもどうか…挨拶してあげて下さい。きっと幸姉さん、喜びますよ


鶴は遺骨の入った風呂敷を彼に渡す。約束を果たせなかった事に対する後悔と共に、仄かに漂う線香のにおいが彼の鼻を掠めた。



/Drop in the parm of the hand.
現パロで幼少
ふたりのこどものはなし


この蒸し暑い時期に、どうして俺たちは外を歩き回っているのだろう。
考えても仕方がないように思えて、隣にいる妹に麦藁帽子を押し付けた。妹は"サクマドロップス"と書かれた缶を大事そうに両手で持っている。今時子供が食べるとは思えないものだった。ワンピースと同じ水色の飴を舌の上で転がしながら、妹は俺の方を向いた。飴を口に含んだまま、「どこへいくの」と問うてきた。もごもごしてて、何を言ってるかあまり分からなかったが多分そうだと思う。

見上げてくる顔は呆れる位母さんにそっくりだった。俺と妹に血の繋がりはない。けれどもこれから一緒に住んでいく以上、せんなき事だと思った。とりあえず俺は父さんの言うとおり妹と思うことにした。何の因果か両親はそれぞれバツイチで、連れ子がいるタイミングも一緒だった。俺が離婚した母親の子供であるように、妹もまた離婚したどこかの父親の子供だったのだ。


「おかーひゃんとおとーしゃんは?」
「今忙しいからだめだ、兄ちゃんが連れてってやる」
「じゃあ、ゆうえんちがいい」

「遊園地?ここから何時間かかると思ってんだ。電車賃だってバカにならん」
「おかーさんとおとーさんにいおうよ」
「だめってば、忙しいって言ってるだろ」

「じゃあどこいくのお」
「駅のデパート」
「やーあ、おもしろくない…」
「我侭言うな!分かった、後で甘いのご馳走する」
「いくー!」

両親にも言わずに家を出て行く理由。父さんと母さんは今"お楽しみ"の最中だったからだ。この間出張でだいぶ空けてたもんな。とにかく、ここからなら駅につくのに10分もかからないだろう。二人に心配されない程度に時間を潰せば良いだけの話だ。






「かわいー、子供のカップルだ」

女子高生の集まりが俺たちを通りすぎ様にそう言った。無理もない、似る筈の無い顔だからだ。夏のせいか、少しだけ眩暈がした。この蒸し暑い時期に、どうして俺たちは外を歩き回っているのだろう。ふと妹に目をやるが、相変わらずだった。デパートの2階で売っているクレープの事でも考えてるんだろうか。かと思いきや、妹は慌てたように飴を噛み砕くと、俺の服をくいくいと引っ張った。

「きいてきいて、さきちにい」
「何だよ」
「ゆきね、おおきくなったら、デパートにすむ」
「はぁ?」
「いっぱい自分のすきなもの売っておかねにするの。おうちはとおいもん」

妹は得意気に笑っている。やっぱりガキはガキだと再確認させられた。けど同時に安心した、そりゃもう色々と。後は俺たちが父さんと母さんのようにならない事を密かに祈るばかりだ。







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