1.無題
政宗の弟+幸♀


名は小次郎政道。
政宗の三つ下、つまり幸村の一つ下という事になる。年が離れているにも関わらず政宗とよく似ており、眼帯に、髪が兄より少々短いのを除けば双子のようであった。

「兄がよく貴方の話をしてくれるのです。武人としても、人としても素晴らしきお方と聞きました」
「左様な事はありませぬ。しかしこの幸村、かの独眼竜の好敵手となれた事は誇りに思っております」

やがて甲斐と奥州は同盟を結び、こうして使いとして赴ける様になって幸村は嬉しくもあった。独眼竜――政宗が掲げる思想をこの地に訪れ、肌身で感じる事が出来たからだ。

しかし目の前にいる男はどうだろうか。佇まいは似ていても、好戦的な鋭い目は無く、目尻はやや下の穏和を示す顔付きだった。戦を好むような性質とは思えない。



「此方の方も、政宗殿と貴殿の仲の良さは有名だとお聞きしました」
「ううん……たまに将棋を打ったりはするのですが、兄弟仲は良い方なのでしょうか」

兄弟間で権力争いなどよくある事だが、幸村は噂が本当だと分かり少々驚いた。


「でも幼い頃はよく喧嘩をしました」
「はあ」
「お互い、高い確率で好きなものが被って取り合いになったりしていましたから」

政道はにこりと微笑み、上座を降り幸村の目の前に座した。

「折角此処までいらして下さった、もっと話をお聞かせ願いたい」
「は、構いませぬが…」


その瞬間、廊下に面する襖がパンと小気味良い音を立て開かれる。開いたのは政宗張本人で、その顔は如何にも機嫌が悪いと訴えている。

「何処にも居ねぇと思ったら此処か」
「政宗殿?」

政宗は幸村の腕を引き立ち上がらせる。


「小次郎。テメェは人の所有するモンに手を出す程、野暮な奴じゃねえだろう?」
「………」

幸村は訳が分からず、二人の顔を交互に見る事しか出来なかった。



(しかし本当によく似ておる……)






2.黄昏みたい


「早く来い」と促す。はい、と控えめに聞こえる声。立つ場所は丁度橋の上で、やや冷たい風がそっと頬を撫でた。同時に濃紅の袴の裾が揺れる。遠い向こうでは、日が沈もうとしていた。


馴れ合いは嫌いだ。だから手を延べる事はしない。睦み合いなど下らぬから、時折振り返るなどと女々しい真似など出来ない。

それでも満ち足りていた。これ以上自分には過ぎた感情だと知っていたから。どうせなら何だって与えてやりたいと思うが、もう自分には無理だろう。この世の無情さを儚む程に、この身はすっかり擦り切れてしまった。


不器用ながら願っている。
共にあれる時間を、少しでも長く。








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