春の爛漫、華飾の朱の如し | ナノ

  この世は謎と不思議で出来ている




 ……男士たちからの報告を纏めると、だ。

「えーと、安室さんと銀髪の男は後ろ暗い組織の同僚で、コードネームは“バーボン”と“ジン”。コナンくんは毛利探偵に麻酔針打ち込んで眠らせて、変声機を使い推理を披露している、と……」

 もうどこからツっこんでいいのかわからない。拠点の居間で頭を抱えた私に、大倶利伽羅がため息混じりに問う。

「それで、どうするんだ」
「うーん……どうしたもんかな。引き続き様子を見てからじゃないと基点かどうかの判断が難しいんだけど……このままじゃ埒が明かないな」

 今のところ名前がわかっている『江戸川コナン』と『安室透』は、名簿には載っていなかった。
 しかし、名探偵である『毛利小五郎』やナイトバロンの作者『工藤優作』、その妻の元大女優『工藤有希子』、そして息子の『工藤新一』は名簿に載っていた。
 それを踏まえて考察するに、彼らのうちのいずれかが“基点”と接点がある可能性が高いのだ。

「……とりあえず、コナンくんと安室さんが共通して関わりのある人物も調べてみようか。工藤夫妻は外国に居るみたいだし……まず手始めに毛利小五郎探偵辺りからかなぁ」

 腕を組みつつ足りない頭で考える。名簿を虱潰しに当たるのも効率が悪い。けれど、時の政府と連絡が取れない今この状況ではそうするしか無いというジレンマ。あぁ、もどかしい。

「……基点さえ見付かれば、座標バグの原因も特定しやすいんだけどなぁ……」
「まぁまぁ、しょうがねぇって事よ。気長に行こうぜ、大将?」
「そう、だね。焦っても仕方がない、地道に行こう」

 そう言うと、男士たちは揃って頷いてくれた。大丈夫、私にはこんなにも心強い神様たちがついてるんだから。


 *


「あっ! 夜さん、こんにちはー!」
「……こんにちは、コナンくん」

 ポアロでコーヒーを飲んでいると、カウンターに座る私を見留めたコナンくんが元気よく挨拶をした。
 そして、コナンくんの後ろから店内に入って来た女の子──緩く波打つ赤茶の髪は、外国の血が混じっているのだろうか。その整った顔は日本人寄りだけれど、それでもはっきりとした目鼻立ちは幼さが相俟ってお人形さんみたいに愛らしい。子供特有の大きな瞳……だけれど子供とは思えない程理知的な、オリーブ掛かった綺麗な色の双眸が私をじっと見据えた。

 その眼差しを反射的に、深く見つめ返してしまう。

(……あれ、この子も……外見年齢と魂の歳月が合致しないな……?)

 類は友を呼ぶ。コナンくんもそうだった様に、或いは、この少女も。

 勝手な憶測を並び立てる思考を無視して、意図して柔らかい笑みを浮かべてから、なるべく優しく声を掛けてみる。何事も第一印象が大切だ。長い本丸生活で女子に飢えてると言ったら語弊があるけど、かわいい生き物を欲してしまうのは仕方がない。いや、乱ちゃんとか加州を見てれば満たされるけど、今居ないから仕方ないんだ。誰に言い訳してるんだ私は。

「……コナンくんのお友達? 可愛いね。羨ましい」
「羨ましい……? えっと、同じクラスの灰原って言うんだ」
「……こんにちは」

 ツン、と少し澄ました様子で挨拶を返した灰原ちゃんはまだ私から視線を逸らさない。おやおや、気の強い子なんだな。芯がしっかりしているとも言う。うん、嫌いじゃないよ。

 その眼差しを受け止めて、更ににこりと笑ってみせると、漸く灰原ちゃんは動揺の色を見せた。

(……成る程、この子も大概──“嘘つき”なんだな)

 そっと心の中で納得してから、梓ちゃんに声を掛けて二人と共にテーブル席へと移動する。向かいに並ぶかわいい少年少女を満喫しながら、一緒にケーキを食べる。うーん、しあわせ。やさぐれた心が癒されていく様な気がする。今のところ根本的な問題解決は、何一つしてないんだけど。

「……そう言えばさ、夜さん。今日は誰とも一緒じゃないんだね?」
「あぁ……今日はみんな用事があるんだよ。じゃなくて、やっぱりコナンくんも知ってるのか」
「結構噂になってるよ? 日替わりでイケメンを連れてる女の人が居る、って」
「何だかそれだけ聞くと私が悪い女みたいだねぇ。笑える」
「……その様子だと、アナタはあまり気にしていないのね」
「そうだね。慣れてるから」

 私がそう返すと、二人は少しだけ驚いた顔をした。まぁ、審神者やってると当然そんな事を言われるのには慣れてしまう。言いたい人は好きなだけ言わせておけばいい。本当の事を知っているのは自分自身なのだから、堂々と胸を張って居るのが最適解、ってのは随分前に私が初期刀に言われた言葉。
 そこまで考えて、その思考を追い払う。やっぱりホームシックだなぁ。話題を変えようと、ソファー席に座るコナンくんの横に置かれたランドセルを指差して、にやりと笑って見せる。

「それより、コナンくんも隅に置けないね。学校帰りにこんなに可愛い女の子と喫茶店デートなんて……あれ、もしかしなくても私、お邪魔虫だったね?」
「えっ!? ち、違うよ! 今日は毛利のおじさんも蘭ねーちゃんも帰りが遅くて……灰原も、博士が学会に行ってて夕方にならないと帰って来ないから、それで」

 慌てるコナンくんの横で、灰原ちゃんは澄まし顔で紅茶を飲んでいる。わぁかわいい。でもそんなに良い反応されると、もっとつつきたくなっちゃうなぁ? 

「仲良しなんだね。いいね、そういうの」
「えっと、その……夜さんは、子供の頃どんなだった? 聞かせて欲しいなぁ?」

 無理矢理話題をすり替えたコナンくんが、あざとい上目遣いで私を見た。仕方がないなぁ、乗ってあげよう。

「私の子供の頃かぁ……まぁ、変わった子供だって評判だったよ。勉強はあまり得意じゃなかったなぁ」
「へぇ、そうなんだ。でも……変わってる、っていうのは何だかわかる気がする」
「でしょう? 私もそう思うよ」

 肯定すれば、コナンくんは「あはは……」と乾いた笑いを漏らした。灰原ちゃんが、ほんの少しだけ眦を緩めて私を見る。

「……おかしな人ね。悪い意味では無く」
「本当に? ふふ、褒められちゃった」

 戯けて見せれば、「褒めてはいないわ」と素気無く返された。あれ、残念。

「さて……私はそろそろ帰ろうかな。今日は私の奢りだから、また今度一緒にお茶しようね」

 そう言って席を立つと、二人は揃って行儀良く「……ありがとう」と言ってくれた。お礼が言えて偉いなぁ、と思いつつ、彼らの外見と魂の年齢の齟齬について考えながら家路に着く。

(……喩えば、霊力が強いと外見を変えるのは容易いけれど……そういう訳でも無かったし、あと他に可能性が有るとすれば……前世の記憶を引き継いだか、器を取り違えたか。うーん……でもなぁ、齟齬は有るけれど相違は無いんだよなぁ)

 不思議な子たちだ。何か手掛かりになるだろうか。もっと仲良くなったら……その謎が解けるだろうか。

(……急がば回れ、か……そんな柄じゃないんだけどなぁ)

 幼い頃から、ヒト付き合いは苦手だ。

(……私もヒトの筈なんだけどなぁ)

 この世界は、わからない事だらけだ。

(……兎に角、地道にコツコツ。それが一番でしょ)

 そんな呑気な事を考えながら、私は帰路を急いだ。



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