蝶々結びの朝顔(4)キミの小鳥になりたい

「……そう、か。ヒロに異能が……」
「とりあえずニケに検査頼んどくけどさぁ……液体に関する異能、ねぇ……」

 秘密基地のリビングで、私の報告を聞き終えた兄とタナトスが感嘆した。

「……あのさ。その異能……ダンタリアンで奪ったら……ダメ、だよね……?」
「さてなぁ。それを決めるのはモロフシくんだろ」
「とりあえず、精査してみない事には何とも言えないな。それでヒナ、工藤新一と宮野姉妹が島への渡航を希望していると?」
「うん」
「そうか。そうだな……宮野明美の監視目的での渡航として、ゼロたちの分も許可しておくか」


 * * *


 島の港で、お仕着せ姿の私と兄はフェリーの到着を待っていた。足元に転がるネコチャンをこねながら、紫煙を燻らせる兄に話し掛ける。

「ヒロの異能、どんなのだろ……」
「さぁな。それは調べてみねぇとわからん。ついでにフルヤくんも検査だなぁ」
「そっか……」
「タナトスも言ってたけど、異能の開花は雷に撃たれて死ぬ確率より低いんだから、自分の事責めたって仕方ないだろ。ウジウジすんなって」
「うん……わかってる」

 ハァ、と紫煙と共に溜息を吐き出した兄が、携帯灰皿に吸い殻を押し付け水平線を見た。

「そろそろ着くぞ、しゃんとしろ」


 *


 タラップを降りて来た五人を連れて、とりあえず宿泊施設へと案内して荷物を置いてきてもらい、二手に分かれる。

「新一くんと明美ちゃん、志保は私と一緒に牧場の方にある教育施設に行こう。ミヤは降谷さんたちに何か報告するんでしょ?」
「おー。後で合流する」

 三文芝居をしてから、三人を引き連れ牧場入り口を目指して歩く。

「……それがヒナちゃんの制服なの? 可愛いわね」
「そう? 会のお仕着せは全部ミヤが作ったから褒めると喜ぶよ」
「えっ!? あの人、裁縫まで出来んの?」
「出来るよ。編み物とかも上手だし、何なら出来ない事探す方が難しいくらいだな」
「ホント、完璧超人よね。妬むのも馬鹿らしくなるくらいに」

 そんな話をしながら三重になった牧場入り口のシェルターに私のIDをかざして中に入ると、ちょうど月夜が偶蹄類の散歩をさせているところだった。

「月夜おつかれ。わんころは?」
「猛禽類にエサやってる。見学なら勝手にしてろ」
「あいよ」

 ぶっきらぼうに言うと、月夜はそのまま放牧している偶蹄類の観察記録を電子カルテに記入し始めた。好奇心に溢れた眼差しで不思議な動物たち──羽とツノの生えた馬とか、足が八本ある毛むくじゃらの牛を眺めている新一と明美ちゃんに、一応の説明をする。

「今外に出てるのが、偶蹄類に分類されたキメラ。本当はもっとデカかったりするけど、管理が面倒だから、ロキが全部小型犬くらいの大きさにしたんだ。中に居るのも同じ。可愛いでしょ?」
「えぇ……可愛いわ……! あの子はユニコーンみたいね! 素敵……」

 キラキラと目を輝かせて、明美ちゃんが言う。実は明美ちゃんも、志保と同じくファンシーなものが大好きなのだ。女の子らしい、とでも言えば良いんだろうか。ちなみに私の推しはリコな辺りで察して欲しい。タナトスはネコ科のキメラが好きと言ってたな。うん、人それぞれ。新一は……と視線を移すと、何やら複雑な表情を浮かべている。うーん、まぁ、それもわかるよ。

「……これを全部、その……人間が、実験して作ったんだよな?」
「そうだね。この施設にいる九割は実験体だよ。残りの一割は昔からこの世界に居たんだって。人に見つからないように、ひっそりと生きてたのに、無理矢理連れて来られた生き物も居るよ」
「そっか……」

 神妙な面持ちで頷いた新一が何を考えていたのかなんて……私にはわからない。動物管理施設の中に入ると、頭の上にグリフォンを乗っけたわんころが出迎えた。

「あっ! いらっしゃいッス〜! もうちょい早く来たらエサやり体験出来たんスけどね? もう全部終わらせちゃったッス」
「そっか。まぁ、今日は見学だけだしそれはいいよ。おつかれさま」

 それから一通り施設内の見学を終えて、通路を通り学校施設の方へと向かう。リコと因幡、そしてジンは兄たちの方で待機させているので、出会す事は無い。

「んで、ここが保育施設と学習施設。明美ちゃんには明日、幼少部の研修して貰うね」

 説明していると、私を見つけたちびっ子たちが走り寄って来る。

「ユイおねーちゃん! 絵本読んで!」「ずるい! かけっこしよっ!」「ダメ! おえかきするの!」「志保おねぇさん! おべんきょ教えて!」「ねぇねぇこのニンゲンだぁれー?」「あそぼー!!」

 わぁわぁと口々に喋る、いろんな形の耳やしっぽの生えたちびっ子たち。うーん、可愛い。じゃなくてだ。このままだと収拾がつかない。パチン! とひとつ手を打つと、ちびっ子たちは揃って口を閉じる。うん、みんなおりこうさん。

「紹介するね、こっちの男の子は工藤新一くん、こっちは志保のお姉さんの明美ちゃん。二人とも私のお友達だから、みんな仲良くしてね。じゃあ、絵本見たい人は私、お勉強したい人は志保、お絵描きしたい人は明美ちゃん、サッカーしたい人は新一くん。はい、行くよー」

 きゃー! と嬉しそうな悲鳴を上げるちびっ子たちを連れて、運動場と体育館に別れる。あぁ……案の定、新一が元気なちびっ子たちにもみくちゃにされている。倉庫から道具を引っ張り出し、図書室へ絵本を取りに行かせ、勉強道具を持って来させ、それぞれちびっ子たちの相手をする。
 それからもう少し大きい子たちの施設を見て周り、学習方法の説明をしていると、あっという間にお昼を過ぎた。療養施設の食堂へ向かっていると、兄からメールが届く。

【昼食後、検査練に】

 結果が出たんだろうか。顔に出さないよう気を付けながらみんなで昼食を摂り、午後からの案内は丁度よく食堂に居た月夜とわんころに頼んだ私は、一度島の自室でダンタリアンに着替えてから、検査練へと向かった。


 * *


「……やぁ、結果はどうだい」

 検査練の相談室の扉を開けると、何だか重苦しい雰囲気が漂っていた。えぇ……やっぱり結果が思わしくなかった? と内心ドキドキしていると、眉尻を下げたニケさんが口を開いた。

「単刀直入に言うわねぇ〜。能力を簡単に言うと、ヒロくんはウォータージェットカッター、ゼロちゃんは熱量変換の能力じゃないかしらぁ〜。まぁ、育てればだけどぉ……今はまだ、芽すら出る前の種の状態なのよ〜。さすがエレ、よく気付いたわよねぇ〜」

 のんびりと言ったニケさんに、思わず眉根が寄る。

「……もしかして、双子の能力を見た結果かい」
「恐らくな。その中で一番記憶に残ったものを核に形成されたのだろう」
「異能の発露の可能性は?」
「わからない。が、能力阻害の魔具を作るから、突発的な発露で心身の危機に晒される事の無い様にしよう」
「そうかい。根本的解決なら僕の得意分野だけれど……タナトスがそう言うという事は、彼らは異能の排除を望まなかったんだね」

 視線を向けると、険しい顔をした降谷さんとヒロが頷いた。そう、か……それなら、私に出来るのは二人の意思を尊重する事だけだ。

「……それで、モロフシくん。ヒナにこの事は?」
「それは……俺から伝えさせてくれないか。ヒナにはちゃんと、自分の口から伝えたいんだ」
「あっそ。だってさ、ダンタリアン?」
「そうかい、キミの好きにするといい」

 ……ヒロの心情を想うと、現在進行形で騙し続けている不誠実な自分が情けなくなる。けど……正体を明かしたら、どうなってしまうのか。それを考えたら、どうしようもなく怖い。
 黙っていると、ヒロが私の方を向いた。

「なあ……前から聞きたかったんだけど、ダンタリアンは、その……ヒナの事、好きなのか?」
「…………何だって??」

 どっからそんな疑問湧いたの?? 思わず変な声が出てしまったけど不可抗力だ。降谷さんも怪訝な顔で私を見ないでほしい。ニケさんはキョトンとしながら首を傾げ、兄とタナトスは俯いて肩を震わせている。おいこら! 誰か助け舟出してよ! ちょっと!? 

「……何をどうすればそんな考えに至るのか、説明して貰えるかな……」

 肩を落として訊ねると、ヒロは真面目な顔で話し始めた。

「だって、ダンタリアンに俺がヒナの事を聞くと、いっつも不機嫌になるだろ」
「……そうかい? 自覚が無いな」
「それに……前言ってたじゃないか、ヒナは悪魔と相乗りする勇気があった、って」
「それは……言葉の綾と言うものだよ。全く……僕が横恋慕? 想像力逞しいのは結構だけれど、僕とて馬に蹴られたくは無いよ。勘弁してくれるかい」

 ハァ……と溜息混じりに言えば、眉根を寄せたヒロが「そう……なのか?」と言葉を濁す。いやいや、知らなくて当然だけど自分に惚れる自分って、字面からしてヤベェわ。ようやく顔を上げたタナトスが、少し涙目でヒロを見た。

「……ふっ、ヒロ。同じ事をヒナにも聞いてみるといい。はぁ……笑い過ぎて苦しい、攣りそう」
「相変わらずツボがナゾねぇ〜、みゃ〜ちゃんもだけれど」
「いや、マジウケるんだけど……モロフシくん、そんな事考えてたの? ヤバ……っ!」
「俺としては、笑い事じゃなかったんだけどな……でも違うんだよな?」
「だからそう言っているだろう、いい加減にしたまえよ」

 思わず項垂れていると、降谷さんが神妙な面持ちのままで「ヒナは妙なのに好かれるからな」と呟いた。待って? 降谷さんの中では幼馴染みであるヒロも“妙なの”に入ってんの?? 


 * * *


 再び着替えた私は、今度はリコたちを待たせている療養練へと向かう。ジンの部屋に入ると、リコと因幡が飛びついて来た。

「ごめん、お待たせ! おやつ持って来たよー」
「ヒナ! 遅かったなー? 待ちくたびれたぞー?」
「ごめんごめん、今みんなも来ると思うから、先におやつ食べて待ってよ?」
「やっタ! ドーナツ!」
「ジンは……また寝室に立て篭もってんのか。おーい、ジンー? ピロージナエ・カルトーシカ(ジャガイモケーキ)作ってきたよー? 食べないのー?」

 ローテーブルにドーナツやジャガイモケーキ、クッキーやらが乗った皿を置きながら寝室の方に向かって声を掛けると、少ししてからシーツおばけ……いや、シーツを被ったジンが出てきた。

「ジン、シーツは置いてきな」

 ヌッと手だけ差し出したジンに呆れていると、コンコン、とドアがノックされた。リコに出迎えを頼みつつ、とりあえずジンの手を引いてソファーに座らせる。

「またシーツおばけかぁ?」
「そうみたい。あ、新一くんと明美ちゃん、こっちに座って」

 紅茶でも淹れようとキッチンに向かおうとすると、志保に「私がやるわ」とリビングへと戻された。ソファーに並んで座ったリコと因幡、そしてシーツおばけを反対側から不思議そうに眺める二人に、私から説明をする。

「紹介するね。この子たちはリコ、元ラムの因幡、それから……ジン」

 シーツを捲ると、仏頂面のジンに睨まれた。

「……なっ……!? えっ、嘘だろ……!?」
「そんな……どうなってるの?」

 そのまま絶句した二人に、兄が溜息混じりに口を開く。

「……ロール。成功(success)、新一と明美に精神分析を実行」
「え、そんなに? マジか」

 兄が精神分析をかけると、ハッと気を持ち直した二人が何度も私たちとちびっ子組を見比べた。

「な、な、な、なんで……?」
「何でかぁ。んー、まずリコは、人型義体の魔具をしてるから。リコは應龍(おうりゅう)って云う龍なんだ。次に因幡……元ラムは、人身売買で前のラムに教育されて、ほとんど強制的にラムをやらされてたんだ。それから、ジンはね、APTX4869を三錠服用して死ななかった代わりに小さくなったんだ」
「三錠!? あの薬を!? うっそだろ……」
「うるせぇ。殺すぞ」
「あら……全然怖くないわね」
「チッ……オイ、グレーテル。宮野明美は知ってるが、こっちのガキは誰だ」
「もー、昨日説明したよね? 工藤新一、取引見られたジンとウォッカが、遊園地でアポトキ飲ませたでしょ!」
「…………、…………?」
「はっは! こりゃ思い出さねぇな!」

 首を傾げるジンを見て爆笑し始めた兄に胡乱な視線を送っていると、トレーに紅茶のカップを載せた志保が戻ってきた。

「とりあえずお茶にしましょう?」

 それを合図に菓子皿へ手を伸ばし、おやつを頬張るちびっ子組を複雑な表情でじっと見ていた新一と明美ちゃんも、そっと息を吐いて紅茶に口をつけた。


 *


「この二人も、あの悪魔が助けたのか……フン、酔狂な事だ」
「ジンだって似たようなもんでしょ。意地悪言わないの」
「なぁ……その、この事、降谷さん達も知ってんだよな?」
「もち。ただ、この二人に事情聴取は出来ないから、その系統の情報は俺とヒナで補填してある」
「そうだったのね……第二の人生を歩んでる、ってところかしら? ……私たちみたいに」

 そう言いながら優しく志保を見た明美ちゃんに、志保がそっと瞠目した。新しい人生、か……。

「そう考えると、ダンタリアンって色んな人の命の恩人……いや、人じゃねぇか、悪魔だったな。やる事無茶苦茶だけど、案外いいヤツなのか……?」

 そんな事を呟きながら熟考モードに入った新一を眺めていると、他の全員からの視線が私に向いていた。まぁな、今この場で知らないのは新一だけだ。

「……悪魔の気まぐれの意味を考え出したらキリが無いから、やめた方がいいよ」
「んー……それもそうか。機会があったら、ゆっくり話してみてぇな」
「本気で言ってる? やめた方がいいよ」

 心からのアドバイスをすると、新一はキョトンと海色の瞳を瞬かせた。


 * *


 そしてその後、夕食をみんなで食べたり温泉に行ったりして、あっという間に就寝時間になる。時の流れは無慈悲だ。

「うぇ……」
「ちょっと、いい加減にして。ウダウダ悩んでないでさっさと行って来なさい!」
「ふぇ……」
「もう! 早く行って来なさいったら!」
「ひぇ……」

 志保の部屋のベッドを占領して人語を放棄していると、志保が読んでいた書類で私の頭をベシッと叩いた。おこである。そしてデジャヴ。

「……ヒナ。ヒロは一見誠実そうに見えるが、案外打算的で腹黒いヤツだ。だから安心して行って来るといい」
「待って、タナトス。安心材料なくない?」
「確かに……タナトスの言う通りだわ。絶対に外堀を埋めて退路を絶ってきそうな人よね」
「ちょっと? 志保までなんていう事を……ヒロはそんな事しな……くもないな。たぶん」

 あの降谷さんと共に公安のツートップポジにいる時点でお察しである。風見さんの胃が心配だ。いや、八割がた私たち双子のせいかも知れないけど。

「うぅ、でもさ。やっぱり不誠実でしょ? こんな時どんな顔すればいいかわからないの、って志保に言って欲しいんだったそうだった。……言ってみて?」
「ハァ……“こんな時、どんな顔すれば良いかわからないの”……これでいい?」

 ヨッシャ我が生涯に一片の悔い……ありまくりだわ。とりあえず携帯端末で録音した志保の音声にグッと親指を立てると、呆れ顔の志保にまた頭をはたかれる。

「笑えばいいと思うよ……もしくは切腹だな。介錯はタナトスに頼む」
「任されてもいいが、楽に死なせると思うなよ」
「こわっ……!」

 ニコリと作った笑みを浮かべたタナトスに慄いていると、コンコン、とドアがノックされた。ドア横の壁に寄り掛かっていたタナトスが、腕を組んだまま指先だけを動かすと、施錠されていたはずの扉がひとりでに開く。そこに立っていた兄が、ベッドにうつ伏せになっていた私を呆れ顔で見た。

「まーだグダグダしてんの。モロフシくん外でずっと待ってっから、早く行ってやれって」
「……うん。わかってる、けど……」

 言い淀む私を見兼ねたのだろう、タナトスが口を挟む。

「ヒナは、ヒロが秘密を明かすというのに、自分の正体を明かさないのは不誠実だと言っているが?」
「うん? 何で? 何処ら辺が不誠実なんだよ。不可抗力だろ」
「ヒナは変なところで真面目よね。だとしたらあの悪魔はその反動かしら?」
「あのさぁ……俺だってプロメテウスの事まだフルヤくんたちに言ってねぇけど、そんな罪悪感なんてひとつも沸いてこねぇぞ?」
「それはミヤの性格でしょ。何かあれば『いつ気がつくかなー、って』で済ませるじゃん」
「あぁ……言うな、確かに。悪気の欠片も無く。ミヤのそれは昔からだな、諦めろ、ヒナ」
「まぁ、それについては否定はしない。けどさ、言う言わないのメリットデメリットを考えた場合、万が一にでもダンタリアンの正体が露呈してみろ。面倒臭くなるのはヒナ、お前だけじゃなくなる。違うかぁ?」
「それは……そう、だね。うん……わかった。行ってくる」

 のそりと起き上がると、志保に「髪の毛くらい整えて行きなさい」とおこられた。


 * * *


 三日月が照らす埠頭の先に、ひとつの影があった。波がきらきらと月光を弾く。ゆっくりとその影に近付きながら、最初の言葉を考える。ダメだな、やっぱり迷ってばかりだ。

「……お待たせ。少し歩く?」

 振り向いたヒロが、少しだけ驚いた顔をしたあと、いつものように優しく笑った。立ち上がったヒロがそっと私の手を取り、そのまま海岸の方へと歩き出す。手を引かれるがまま、ヒロの半歩後ろをついて行く。さくさく、と砂浜が小気味良い音を立てた。波の音と、砂を踏む音。

「……雀、海に入りて蛤となる。最近はどう? ヒロ」

 私が訊ねると、足を止めたヒロが振り向いた。数秒見つめ合って、ヒロが躊躇いがちに口を開く。

「……あのさ、ヒナ。聞いて欲しいことが……言わなきゃいけない事が、あるんだけど……」
「うん。聞かせて?」
「…………もしも……俺も、異能が使えるようになったら、ヒナはどう思う?」
「うーん? いいんじゃないかな。割と便利だし、ヒロのお仕事の役にも立つだろうし。まぁ、能力によるけど」
「……例えば? どんなのが良くて、どんなのが悪いとか、ヒナには基準があるのか?」
「基準かぁ……そう言われると難しいな。そもそもの話、異能って、言ってしまえば乗り物とか武器みたいなもんでしょ。近距離長距離精密さ、バイクで海は渡れないし、拳銃で二キロメートル先のスナイプは出来ない。私やミヤの能力は狭い空間では不利だし、ニケさんは何でも癒せるけど戦う事には向いてない。でもそれって、普通の人間でも同じでしょ? 私は機械関係サッパリだけど、絵本は作れる。エレさんはタナトスと同じで万能だったのに、ミヤの阿呆のせいで声を喪くした。そんな感じで、使い方次第でどうにでも出来ると思うな、私は」

 珍しく喋る私を、ヒロがじっと見つめる。

「……私は、例えヒロにどんな異能があったとしても……ヒロが好きだよ」

 形の良い猫目。長いまつ毛。通った鼻筋に、薄いくちびる。
 それを指先で順になぞり、背伸びをしてそっと口付け、波打ち際に一歩退がる。

「……ヒロが、私を受けいれてくれたみたいに……今度は私が、ヒロを守るよ」

 今までも、これからも。ずっとずっと、ヒロの側に居たい。

「……私のわがまま、きいてくれる?」

 問えば、答えのかわりに唇を塞がれる。

「…………ヒナが望むなら、何でも叶えるさ」

 俺の命も、何もかも、全部使ってやる。

 潮騒に掻き消えそうなくらい微かに囁いたその言葉は、呆気ないほど簡単に闇に溶けた。

「……私も。ヒロがそう、望むなら」

 いつか、(悪魔)の総てが暴かれる、その日まで。


 塞がれたくちびるは、悲しいほどに熱かった。


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