novel | ナノ






コト、と置かれたカップに口を付けて、少女は目を見開いた。

「……おいしい」
「どうもっす」
「─…ま、まぁ兄貴のには敵わないけど」

なぜか妙に張り合うてつこにローライズ・ロンリー・ロン毛は笑った。
そのままソファーに膝を抱えるように座ったてつこの隣に腰を降ろす。

「─…まぁおれがてつこちゃんにいれてあげたいのは紅茶だけじゃないんすけどねー」

投げ出した長い脚に肘をついて、ぼけっと言われた言葉にてつこが顔を向けた。

「なに?」

んー、と言っててつこに向きなおった男の唇がくっと上がる。

「上の方でも別のトコのでもいいですけど、てつこちゃんの可愛いおくちにあっついのいれてあげて思い切りかきまぜて悦ばせてあげて、最終的にはミルクをたっぷり注ぎ込んでやりたいっス」

頬杖をついて斜め下から言われた台詞に少女はまばたきした。意味がよく分からないらしく、小首を傾げて男を見つめる。

「あたし、コーヒーは飲めないわよ?」
「大丈夫っすよ〜黒いけどコーヒーじゃないんで。…まぁミルクをかけるだけってのも中々乙だしおれはどっちでも」

ニコニコというよりニヤニヤとした笑いを浮かべて自分の頭をよしよしと撫でる相手にてつこは益々首を傾げた。全く意味が分からない。

「デザートとかなんかの食べ物の話…?」
「まぁそんな感じですかね。美味しく頂きたいっス」

ぺろ、と舌で唇を舐めた所で、不意に声がかかった。

「てつこ、とりあえずソイツから離れろ」
「あ、さくら。…? 離れるってなんで?」

いつの間にかリビングに桜がいた。
腕を組んで立つ隣人は、えらく不快げだ。てつこの不思議そうな視線に桜はしばし沈黙して、口を開いた。

「…………姉貴が話があるってよ」

てつこは、なんでそんな機嫌悪いのよ、と思わないでもなかったが雪に呼ばれているのなら早く行かねばなるまい。ローライズ・ロンリー・ロン毛に紅茶の礼を述べてから、未だ温かいカップを持って隣家へと走った。
少女がいなくなった途端、静まりかえるリビング。
と、ローライズ・ロンリー・ロン毛が口を開いた。

「──嘘は紳士的じゃないスよ」

ま、特に理由が思いつかなかったんでしょうけど、と続ける男は、しかし興味はなさそうで桜の方を見もしない。
脚を組んでソファーの背にだらっと凭れた男に桜は目を剥いた。

「んな座り方してる奴が何言ってんだ。大体11のガキにセクハラかますおっさんに言われたくねぇ」

不機嫌極まりない桜に対して男は飄々としている。

「おや意味判ったんすか。最近の子どもは早熟というかませてるというか」

全く食らっていない相手は相変わらず桜に目をやることすらしない。

「てかキミむっつりスか?──いや男なら仕方ないか」

うんうんと勝手に納得する男に桜は益々目つきを鋭くさせる。

「黙れよロリコンが」
「やめてくださいよ、幼女だの少女だのに食指動きませんよ。たまたま好きになったのが11歳の女の子だっただけっす」
「じゃあさっきのはなんなんだ」
「てつこちゃんに言ったっスけど“今の”にじゃないす。最終的に、て話」

軽い調子ではあるが明らかに本気で手に入れると宣言されて、桜の怒気が増すのを男は面白そうに眺めていた。