時は流れ、山桜小学校に通っていた面々はブレザーやセーラー服を着る年になっていた。
アコ、レイコ、ショウはなんの因果か中学三年間同じクラスで、高校一年となった今年もその顔触れは見事に揃った。 腐れ縁ともいうべき関係性は全く変わらず、ショウがこんな話があるんだけどと口を開けば、最後まで聞いておいて、そんなことあるわけないじゃないとレイコがはねつけ、隣でアコがまぁまぁと宥める。 すでにお約束ともいえるまでになった一連のやり取りは一切変わることなく。
そしてその距離感にも変移はなかった。 離れることも近づくことも。
いつの間にか当たり前となったアコと三人での下校中──と言っても今日はアコは図書委員の当番でいないのだが──に、ショウはひと一人分離れた位置にあるレイコの横顔を盗み見た。 頭ひとつ分低い。
風に靡く髪の長さは変わらないけれど、出会った頃とは違うその目線の違いに、改めて時の流れを感じた。 そうして、これほど時間が経ってなお、変わらない距離。 その一定の距離感に不快を感じることはもちろんなかったが、けれどもなにがしかの──居心地の悪さとも言える──抱えるには重い何かが腹に静かにたまっていくのを感じていて。
なんとも形容しがたい自分とレイコの関係。
名を与えるなら──それこそ腐れ縁なわけだが。それが自分たちの関係を客観的に的確に過不足なく表現しうるものかと言えば、きっと違う。
不意にレイコが足を止めた。
不思議に思って同じく歩みを止めて気づく。ああ、もう分かれ道か。ショウは真っ直ぐ、レイコは右折。
「じゃあ、また明日」
そう言って、レイコが歩き出すのを見てから自分も帰ろうと待っていると、一向に動かない。
「レイコ? どうしたんだい?」
具合でも悪いのだろうか。そういえば学校を出てからこっち一言もしゃべっていない。 ショウが一歩、近づいたとき、レイコはパッと顔を上げた。
「ねぇ!」
距離のわりに大きな声。 なのに目は合わず、思わずショウが返事を戸惑っていると早口で、一気に。
「あさって…日曜日、空いてる? 映画の割引券があるんだけど期限切れそうなの。一緒に行かない?」
え? とまばたきをするショウに、ようやくまともに目線を合わせたレイコは口を引き結んで睨むように答えを促した。
「…あ、ああ。空いてるよ」
妙な迫力に圧倒され、戸惑ったようなショウの返事に、ほっと息をついたレイコが取り出した券は、2枚。 あれ、とショウは首を傾げた。
「アンコの分は?」
ぴく、とショウに渡そうとしていた指先が動いた。
「…叔父に貰ったものなんだけど、2枚しかなくて。最初はあんこを誘ったんだけど、今週末は家族で出かけるんだって」 「─…ふぅん」
なぜかレイコが泣きそうに見えた気がしたが、口調に変化はない。まぁ気のせいだろうと割引券を受け取った。 微かに触れた指が震えたような気がしたけれど、それも気のせいなのだろう。
「レイコと二人っていうのは初めてだねぇ」 「そ、うね」
いつもあんこと三人か、ユウマくんやマリとみんなでだったものね、と笑う。 その笑みに、何か胸がざわりとした。
「1時に駅前でいいかしら?」 「んー…どうせなら12時にしない? 何か食べてから映画観よう?」
挙げられた提案に、なぜか驚いたように目を見開いたレイコは──その反応に同じように目を見開いたショウに向かって──一拍置いてこくんと頷いた。
「─…じゃああさって12時に駅前で。気をつけてね」
ショウの言葉に、あなたもねと返して、レイコは背を向けた。
小さくなっていくその背に、思う。
これは何かあるのだろうかと。いつまで経っても平行だったものが、変わるのかもしれない。
思ったと同時に、いやそれはないなと頭を振った。 きっとこれからも自分とレイコとアンコの三人は、三人でずっと一緒なのだろう。
ショウは手の中の紙切れを無くさぬようポケットにしまった。
片道切符の行き先は (願う場所であるといいのだけれど)
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お待たせ致しました、フリリクのショウレイです
特に指定がなかったので、今までやったことのなかったショウ→←レイをやってみました このふたり、ショウくんが攻めないとなかなかくっつかないと思います。うちのレイコちゃんは基本的にショウくんを変態と思ってますし、ショウくんに惚れていても素直になれませんから デートにいきつくまで、4年かかったふたりです。でも学校ではこっそり(?)噂になってたりとか
10万HITありがとうございます!
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