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久々の休日、だというのに皇毅は邸で書簡と向き合っていた。



──その周りで、

「長官、これなんですか?」

朝っぱらから押し掛けて来た皇毅の部下は、皇毅の室を興味深げに眺めていた。

「人の邸を荒らすな」
「荒らしてませんよ!ちょっと見てちょっと質問してるだけじゃないですか!」
「ただの調度品だ。じゃれるな鬱陶しい」

一言で斬り伏せ、再び書簡へと目を落とす。



「長官、この資料見ていいですか」
「──丁寧に扱え。さもなくばクビだ」
「わ、分かってますよ!」

いかにも面倒そうに答える皇毅に秀麗はやや不満げであるが、そんなことを気にかける男ではもちろんない。

「何か手伝うことありますか?」
「驚くほど程度の低い貴様如きに理解対処できるような薄っぺらいものは至極残念ながら──一つもないな」
「…ぐ」

言いたいことは山とあるが、皇毅の言い分は悔しいけれど当たっているだろうし──そもそも口で勝てるとも思えないので──秀麗は諦めるしかなかった。



「ちょーかんお茶とか欲しくないですか」
「要らん。飲みたいなら勝手にしろ」
「私淹れるの上手いですよ?」
「要らん。くどい」
「喉を潤した方が仕事捗ると思いま」
「要・ら・ん」



「あ、墨減ってきましたね。これどうぞ」
「……」
「少し暑いんで窓開けていいですか?」
「……」
「ていうか開けますね空気入れ替えたいんで」
「……」
「わ〜!来たときも思いましたけど綺麗なお庭ですね〜!」
「……」
「ちょうかーん、あの木はなんの木ですかー?」
「……」

いい加減皮肉ることはおろか返事をすることすら投げ出した皇毅だったが、全く意に介さない秀麗についに再度口を開いた。

「─…おい」

窓枠から身を乗り出していた秀麗は瞬時に振り向いた。

「はい!なんですか!?」
「煩い黙れ」

これ以上ないほどの低音で唸るように言われた言葉に秀麗は押し黙った。

それを見た皇毅は、秀麗に聞こえないくらい小さな溜め息をついた。



──秀麗が構って欲しがっていることには気づいている。

墨など普段から何も言わずに補充するのに、わざわざ皇毅に伝えてきたのも自分はここにいるという訴えなのだろう。



皇毅としても相手をしてやりたいと思わないでもない。が、しかし如何せん仕事がある。

かといって項垂れる秀麗を放置するのは──さすがの皇毅も──気が引けた。



一度目を閉じてから、

「私の邪魔をするな」
「…はい」
「何も喋るな」
「…はぃ」
「以上を遵守することを前提に……隣にいることを許可する」
「え…?」

目線は紙面へ向いたままの皇毅だが、たちまち秀麗の顔が輝いたのは気配で気づいた。

けれどもそれについて何か言うのもなんだか癪に障るので、敢えて無視して筆を硯の墨に浸した。

その間に秀麗は煩くない程度に小走りで皇毅の座る長椅子に駆け寄り──皇毅の左隣にちょこんと座った。

「……ふん」

相変わらず秀麗を見ることなく筆を滑らせる皇毅に何を思ったか秀麗は距離を詰めた。

一瞬眉を潜めた皇毅だが、特に言及することなく別の書簡へ手を伸ばす。

それに気を良くしたのか、はたまた調子に乗ったのか(皇毅は後者だと当たりをつけた)、秀麗はぴたりと体を寄せた。

やはり何も言わない皇毅であるが、少し動きづらそうである(当たり前だが)。

これはもしや先の“私の邪魔”とやらになるのだろうか、と首を傾げた秀麗は数秒頭を巡らせて結論を出した。



そして早速行動に移した秀麗に、皇毅は息を飲んだ。

「──何を、している」

己の膝──正確には所謂膝枕というやつを氷の長官にやってのけた秀麗──を見下ろして、なるべく普通に聞こえるように言った。

当の秀麗はにこにこと笑ったまま、そこにすっかり落ち着いてしまった。



「…………秀麗」

たまらず滅多にしない呼び方をすれば、嬉しそうに顔を綻ばせる。

──けれど、返事をする気配は全くなく(大方“喋るな”というお達しを従順に守っているのだろう)。

この娘の頑固なところは嫌というほど見て来た皇毅である。確かに邪魔にはならないというのも手伝って、何を言っても無駄と判断し、新たな巻物を手に取った。



大きく溜め息をつきつつ開けば、今まさに皇毅の膝を占拠している人間からの上申書である。

思わず見下ろせば、きょとんと見返してくる。

何とはなしに頭を撫でると──断じて可愛いなどと思ったわけではない──気持ちよさそうに目を細めた。

「─…まるで猫だな」

喉をくすぐってやると、喋らないようにしているのもあるのだろうが、

「みゃあ」

と鳴いた。



(……手の掛かる拾いものをしたものだ)

秀麗から見えないようにふっと笑って、再び綴られた丁寧な字へと目をやった。







(仕事をしながら恋人を構う方法)






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大変長らくお待たせ致しました…!すみませんごめんなさい仁様ぁぁあ!!


多分付き合ってる二人の話です

皇毅には泣き顔を見せまくって抱きつきまくって弱みを晒している秀麗ですから、きっと皇毅には甘えまくるに違いないと思って書き始めました

ギャグに走りそうになりながら軌道修正して(そうか?)なんとか形になりました(そうか?)


えーと書き直しは随時受け付けておりますので!

改めまして、相互して下さりありがとうございます!

こんな幽斎ですが末永くよろしくお願いします。



2009/09/04