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両足を踏みしめると、みしりと床板が鳴った。
微かに不快に感じながらも、それより遥かに耳障りな音を発するものに銃口を向け、間髪入れず人差し指に力を入れた。

パン、と乾いた音がして、弾けとぶ。

「生き残れるのかしら」

また、一体の“人間であったもの”を肉塊にしたクレアは手を降ろした。だらりと垂れ下がった手に、鈍く光る銃器はひどく重たげに見える。
点滅する蛍光灯が照らす廊下で、それだけがやたら存在感を放っていた。

「…よく言えたもんだ」

クレアの隣で肩を竦める男は首を傾けて馬鹿馬鹿しいとばかりに目を細める。

今目の前の女子大生が手にしているハンドガンは、彼女自身のものではない。いっそ不釣り合いと言っていいそれを容易く扱い引き金を引く。
この街に起きている異常をあまりにも平然と受け入れ、的確に、無慈悲に、敵を排除するその姿には畏怖すら覚える。

腐臭と、それらが焼け焦げる臭い、音。
近くに遠くに聞こえるうめき声にズルズルと這い回る音。
果物が潰れるような音が何を示すかは明らかだが、正直考えたくない。
ガシャンと響くのは、またどこかが壊されたからに違いない。

レオンの勤務先であるはずの場所は見るも無残で──きっとこの街はもうダメだ。

「何が?」

ガチッと弾を補填しながら、周りに敵がいはしないかと警戒する女はレオンに目を向けはしない。半分割れた窓ガラスに映る顔が黒ずんで見えるのは、もう外がすっかり闇に堕ちているからだろうか。

「そんだけバカバカぶっ放しておいて、何が“生き残れるかしら”だ」

強いだろ、アンタは。

続けられた言葉は呆れを含んでいて、クレアはようやっと男へ顔を向けた。応じて、サイドの髪がさらりと揺れる。
うっすら汗をかいた頬に幾筋か張り付いたのが鬱陶しいのか左手が動いた。

じ、と見つめてくる女を、男もまた黙って見返した。
無言、無音、無言。
聞こえるのは紡ぐ呼気と、いつまでも止まない街の悲鳴。

やや経って、絡む視線にクレアは短く息を吐いた。喉からひきつるような音が漏れる。


『そんな心配はいらないだろう? 誰が死のうと少なくともアンタは生き抜いていくだろ』


──男の目が、そう言っていた。
出会って一日も経たない男は、しかし一分も疑っていないらしい。ただ事実を“そうである”と認識しただけのように、瞳に宿る光はごく平坦だ。

いすくめられたかのように、く、と息を飲んだクレアに、レオンの細められた目が不意に柔らかくなった。
平坦だった光が、踊るように瞬く。

「何今さらかわいこぶってんだか」

おどけた響きにクレアは緩慢に数度まばたきした。
正面で斜に構えて立つ男の口の端が上がる。にやつき。
クレアはまたまばたきした。レオンには長い睫毛のせいで、ぱちぱちと音が聞こえた気がした。

「──じゃじゃ馬が」

相変わらず持ち上がった口角、からかわれている。クレアはようやく理解把握した。
そうして、口調の軽さに、空気が変わった気がした。無論、未だ廊下には今まで二人が闘ってきた証がそこかしこに転がり、悪臭を放っているのだが。
どんよりと漂うものが、それでも幾分か減ったようで、肩から力が抜けた。

まだ敵はいる。そこかしこで蠢いている。
張り詰めていた肩は間違っていない。緊張は、死なないための、殺されないための、手段。

──けれど、この一瞬がとても救いになった気がした。疲れが溶けていく。
鈍くなっていた五感が回復した。


生臭い空気だが、ゆっくり深呼吸した。
吸って吐いて、もう一度吸う。

「……レオン」

顔を上向け、目を閉じる。
一、二、三秒。

その様子を興味深げに眺める男はまた口を閉じた。
噤み、身動ぎひとつせず、まるで眼前の女を見守るかのように。
先と似て非なる無言の時間。

クレアの瞼がひどく時間をかけて持ち上がる。
それを目にしたレオンはうなじに手を当てた。ごきりと首を鳴らす。妙に響いて、クレアの鼓膜を揺らした。

「──生き残るわよ」

強気に唇が弧を描く。勝ち気な瞳がレオンを見据える。
クレアが、笑った。
大輪が花開くかのように。不安や憂いや苦しみとは無縁な、陽の笑み。

初めて目にした笑顔に、レオンは一瞬目を瞠った。
一拍おいて、

「当たり前だろ」

返答は短く、その分意思が明確に伝わった。
ギシリと床を鳴らして、クレアは一歩レオンに近づいた。ハンドガンを左手に持ち変えて、右手を差し出す。
真っ直ぐに。

レオンは一度瞠目して、差し出された手とクレアの顔を見た。レオン、と再び呼ばれて肩を竦める。
と、同じように右手を出し、握った。確かにそこに存在する、人。

窓から生温かい風が吹き込んだ。緩く、空気を変えていく。

「改めて。よろしく、ね」
「─…ああ」

名残惜しげに手を離す。

今触れていたものが、ただの肉塊になることはきっとない。
否、させない。その生命の音がやむことは絶対にない。


クレアは空いた右手で再びグリップを握った。──なぜだか今は手に馴染んだ。

遠くでまた破壊音と雄叫びが聞こえたが、二人は臆することなく歩を進めた。






Bang,Bang,Bang!
(ねぇ、私が守ってあげましょうか)
(現役警察官ナメんなよ一般市民)







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そういえばレオクレちゃんと書いたことないなーと思って。ゲーム絵レオクレばっかなのにね


レオンとクレアはケンカップルだと思っています。嫌がらせでレオンがくっつき、全力で抵抗し本気で殴りかかるクレア

付き合ってないのに、わざとエイダとアシュリーの前でクレアにくっつくレオン

エイダとアシュリーに睨まれて「えぇ〜」となるクレアに超笑うレオン

まぁ結局レオクレはレオ→→→←クレ!



2011/10/04