首を吊ってやりたい。コンビニの前で意気がってる奴等に無謀に挑んだばかりで体中が痛い。鼻血が出てる。つらい。死にたい。なんでこんな事になったんだろう。なんで俺ばっかりこんなんなんだろう。親からも見放されて。兄、3つ上の兄弟。あれだよ。あれは一体なんだ。なんの努力もせずに才能って奴だけで恵まれて。そのせいで俺は見比べられて馬鹿にされて。ふざけんな。ふざけんな。くっそ体中が痛い。痛い。口に入ってきた鉄の味がクソ不味い。俺の事いっつも見下しやがって。お前の人生は失敗だ?よく言うよ。なら、お前の人生は一体どんなもんになんだよ。ほら言って見ろよ。クソ、クソ、クソ。皆、皆アイツばっかり。もうやだ。死にたい。死んでやりたい。そうだ死んでやろう。死んで痛い目見ろよどちくしょうめ。世間様に蔑まれろ。電車に飛び込んでやる。お前が一生かけて借金払い尽くせ。お前の人生は失敗だな。あはははははははははははははははははははははははは「あれ、倉井(くらい)くん?」ははははははははははははははははははははははははははははは「倉井くんだよね?どしたの大丈夫?」ははははははははははははは「倉井くんってば!」...ハッ!

「どうしたの?こんな線路脇に座り込んで」

ふと見上げればちょっとの間部活の先輩だったカイリ先輩がいた。
二つ上の先輩。一年間しか、っていうか先輩、三年でもう受験だったからちょくちょく顔出ししに来たくらいでほぼ接点ないけど。それでも人付き合いの少ない俺にとっては、話の出来る数少ない人間の一人だ。

俺の顔を心配そうに覗き込む先輩。

ああ俺ひょっとして今先輩の事スルーしてた? 俺サイアクじゃん。クソ、死にたい。ああああああああ。

「ちょっとホーム上がってベンチで話そうか」

差し出された先輩の手を掴んで、重い腰をあげる。ああ、こんな所先輩に見られた。クソ、死にたい。

先輩に腕を引かれるまま、外灯がポツンポツンと三メートル間隔で置かれているホームに上がり、促されるまま時刻表前のベンチに座る。こっちの終電はもうさっき行ってしまったから、此方側のホームにはもう誰も人はいなかった。
向こうにはぽつぽつと居はするけど。

ガコン。音がして、そちらを見る。ピッ。ガコン。

「ほら。奢り」

渡されたのは、レモネードのあったかい。ハンディサイズのペットボトルのやつだ。
先輩も同じのを買ったらしく、蓋をきゅっと回してごくごくと勢いよく飲んでいた。

「これ好きなんだ。甘くって」

そう言われ、俺もキャップを回して蓋を開けてみる。
ほおっと白い湯気が出て、甘い匂いが香った。

生まれてこのかたレモネードというものを飲んだことがない。
レモンというぐらいなのだから酸っぱいのだろうかと、恐る恐る口をつければ、熱いそれが甘ったるさと共に口内にじんわりと滲んだ。

...あったかい。

ぼろりと涙が目から溢れ出す。

「っ」

あ、やばい。先輩に。先輩の前で。うわ、死にたい。嘘だろ、なんで。

ぼろぼろと、自分の意思とは反対に止めどなく溢れる涙に絶句する。

「ぅ、うう、すいま、せ 先輩 な、なんかおかしくって、ふっ あれ、なんでっすかね ふ、ぅ ゛」

「ん」

なんとか抑えようと必死で目を拭っていると、ぎゅう、と身体を抱き締められた。

「大丈夫。泣いたらいいよ」

耳元でそう言って、背中を撫でてくれる先輩に、ますます嗚咽は止まらなくなる。

「う、うえ せんぱ、カイリせんぱいいいいいい゛い゛」

「うん、うん、よしよし」

子供みたいに泣いて。鼻水垂らして、先輩に抱き付いて。ああ、馬鹿みたい。でも、先輩も、手に持ったレモネードもあったかくて。

どれ程だったか。
先輩に背中をさすってもらって、しゃっくりは残るもののなんとか涙は収めることが出来た。

「も、大丈夫です」

「ん、そっか」

背中の手が頭へと移動する。ぽんぽんと頭を撫でて、その手は離れて行く。

ふと気づけば、向こうの終電も行ってしまったらしく、この駅にはひとっこひとり自分達以外にはいないようだった。

「せ、先輩。終電、あれ乗る予定だったんじゃ...!」

「ん?ああ、大丈夫。私、車」

ほれ、と指差す先に赤い軽自動車が止まっているのが見えた。

「先輩、免許取ったんすか」

「うん、高校出てすぐにね。倉井くんも乗せてってやろう」

親御さんきっと心配してるよ、と柔らかく微笑むカイリ先輩に、胸がきゅうと締まる。
心配なんか、してるものか。

そう思えば、帰りたくない、という思いが押し寄せてくる。
でも、先輩に心配をかける訳にもいかない。
仕方なく立ち上がろうとすれば、腕を取られた。

「ねえ、倉井くん、もしかして帰りたくない?」

図星をつかれて、なんて答えればいたいか分からなくて思わず黙ってしまう。

すると先輩は、間髪いれずに。

「帰りたくないなら帰らなくてもいいよ」

そう言った。

「しばらくうちおいで」

大胆不敵に笑って、チャリ、と車の鍵を片手に掲げるカイリ先輩。

「...いいんですか?」

「おうとも!大事な後輩だもの!」

ああ、また目頭が熱くなってきた。





自暴自棄エンカウント







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