※ホラー注意
この間不思議な夢を見た。
昔の、まだ私がガキだった頃の夢だ。
スタンドという能力に恵まれる前の私は、生きるか死ぬかの日々を送っていた。
家族皆でぶっ倒れるまで働いてやっとその日暮らしが出来る、そのくらいの生活。
これでもまだ余所に比べりゃましだったが。
私も当然働きに行かされたんだが、そこの雇い主がまた糞だった。
やらされていた仕事は綿畑の綿摘み。一日のノルマが限界を越えたものの上に、ノルマを達成出来なければ手酷いペナルティが待っていた。
その過労故、ペナルティ故、死んだ者も多数いたが、誰も文句は言えない。親だって何も言えはしない。
雇い主からしてみれば、口減らししてやったんだ感謝しろというくらいだろう。
働かなければ死ぬのだ。端金でもそれで一日生きれるなら、それをくれる奴はどんなに糞でも神様に違いなかった。
まだ幼くて体力的にも精神的にも厳しかった私をなにかとフォローをしてくれた隣の家の兄さんがいた。
実の兄より私に優しかったカイリ兄さんは、雇い主に蹴り殺されて死んだ。
ノルマを達成出来なかった私に、自分が集めた分を分けたために。
あの日の雇い主は、賭け事に負けたのだったかなんだったかで非常に機嫌が悪かった。
ペナルティと言って、降り下ろされた足には初めから加減なんてものはなかった。
ベキバキボキと音がなる度に、その体が歪に曲がっていく。
その様を私は、黙って見つめることしか出来なかった。
ぱき、ぼき、ぐちゃ。
今でもあの音と、顔面にその足が下ろされる寸前に目があったカイリ兄さんのその顔を忘れられない。
血濡れの中、困った時に浮かべるあのいつものハの字眉毛で私に微笑み、次の瞬間、その顔は潰れた。
カイリ兄さんは最期の最期まで呪詛の言葉を吐きはしなかった。
私は初めて自分の弱さを認識した。
少しして、スタンドを発現し、その手であの雇い主を殺した。
仇討ちではない。
そうしなければ生きられなかったから、殺した。
それから俺は利口に生きた。
暗殺業で手に入れた金で家族を引き連れ首都へと移った。
そしてつい先日。
俺はその暗殺業で失敗し、生死の境をさ迷った。
その折に見た夢だ。
夢の中で、カイリ兄さんがあのハの字眉毛で俺を見つめていた。
「」
ぱくぱくと口を動かしているのが分かるが、声は聞こえない。
おもむろにカイリ兄さんに手を引かれて、前を向くとトンネルがあった。
トンネルの奥に薄らとした光が見ている。
カイリ兄さんは消えていた。
私は思った。振り向かずにトンネルを抜ければ...、みたいな話があるだろう。
きっとカイリ兄さんが、助けにきてくれたのかもしれない。
私はトンネルへと足を踏み入れた。
トンネルは思っていたよりもずっと長く、なかなか光の方へとたどり着けない。
何かを引き摺っているかのように足も重かった。
それでも私は歩き続け、もう少しでトンネルを抜けれるという所まで来て。
足下から鳴った地響きのような音に思わず、下を向いた。
ぐにゃぐにゃに曲がった何かがいつの間にか足下に絡み付いていた。
次の瞬間、腹部に鈍痛を感じて目が覚めた。
それは見舞いに来たらしいラバーソールが、すっころんで決めた肘鉄だったんだが、あの時歩き続けていたらどうなってんだろうなとは思う。
ラバーソールはとりあえずしばき倒した。
あ?ぐにゃぐにゃの何かは何だったのかって?
さあ、なんだったんだろうな。
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