ショーソンオーポム


根なし草の兄が家に帰って来た。
帰って来たと言っても、またすぐにふらふらと出ていくのだろうが、それでも両親は息子の帰還をこれ以上ないくらいに喜んでいた。
電話の一本、二本で大はしゃぎするくらいの両親なのだから、帰って来たとなれば、それはもうお祭り騒ぎで、やれ今日はご馳走だのなんだのと騒々しい。

その両親の顔があんまり嬉しそうで、その兄も満更でもない顔をしているのが、なんとなく面白くなくて、適当な理由をつけて、俺は自室へと踵を返した。

なんだか急にくそ甘ったるい菓子が食べたくなった。
二日前に顔を覗かせた時、課題の納期がヤバイだとか叫んでいた彼を思い出す。
今もあの人は必死にレポートを打っているのだろう。

「おかえり、テレンス」

そんな事を考えながら開けたドアの先に、今しがた思い浮かべていた顔があったものだから、思わず瞠目する。

ふわりと香った甘い匂いに、机に目を移せばそこにはティーセットとアップルパイが置かれていた。

「課題は終わったんですか?」

「終わった終わった。途中から無性にアップルパイ食べたくなってきてさー」

頑張ってさっさと終わらせて、作ってきちゃったとにへらと笑うカイリの目の下にはくっきりとした隈が出来ていた。
徹夜でもしたのだろう、気を使って差し入れでもすればよかったかもしれない。
というか、どうしてこの男は寝ればいいのにアップルパイなんて作ってわざわざこっちにまで来ているのだろう。
馬鹿なんですね、知ってます。

「テレンス好きだろ、これ」

手際よく切り分けたワンピースを皿に乗せ、手渡してくるカイリ。
別に好きな訳じゃなくて、時々無性に食べたくなるだけですから。
皿を受け取って、一口それをかじれば、相変わらずの甘さが口の中に広がる。

「...美味しいです」

感想を求めんばかりの眼差しを向ける海里に、素直な批評を下す。
甘ったるいけれど、美味しい。

「よかった」

満足そうに笑って、ティーカップに紅茶をそそぐその様子を黙って見つめる。
目の前に置かれたそれを一口、口にすると、ストレートのダージリンがアップルパイの甘みをほどよく紐解いていった。

「はあ、美味い」

染みるわー、等と言って紅茶をごくごくと飲み干していく。
パイには手をつけず、彼は一言ベッド借りるなと言って、そのまま俺のシングルへとダイブした。

アップルパイが食べたかったんじゃなかったのか。
飛び込んで数秒、くうくう寝息を立て始めたカイリの顔を覗き込む。
大量に残された海里お手製のそれをもう一切れ掴みとって口に含めば、やはりそれは甘かった。









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