■ 君との距離(ヴァニラ)
「ヴァニラ」
DIOの食事後を掃除していたらしい、奴の後ろ姿を見かけて声をかける。
ヴァニラのクリームによって消失していく女の亡骸。
館にいる以上は必然的に見る光景だ。
最初の内こそ抵抗を覚えたが、もう慣れてしまった。
「お疲れ様」
「...DIO様はお休みになられた」
「ああ、別にDIOに会いに来たわけじゃねぇよ」
ちょっとふらふら徘徊してただけだから、と言って込み上げた眠気に欠伸をひとつつく。
寝ているDIOを思い浮かべたからか、こっちまで眠くなっちゃったじゃないか。
しかし昼間から寝て、時間を棒に振るのはあんまり性に合わないし...。
「ヴァニラなんかまだ仕事残ってない?俺に代われんのあったらやらしてよ」
眠気覚ましに手伝いを申し出る事にした。
DIOからの命令ならば絶対俺に譲る事はないだろうが、テレンスから頼まれている用事も少なからずあるはずだ。
ヴァニラは俺が手伝いを申し出たのが意外だったのか、少しばかり目を丸くしている。
え、なに、そんな意外な事?
「...明日は雨が降るのか?」
「え、なにそれ酷い」
俺だってたまには自主的に手伝いくらいするよ!
いつもふらふらしてるだけのニートだなんて思わないでくれ。
本気で雨の心配をするヴァニラにむくれながら、何かないのかと訊ねると、奴は少し考えて草むしりを挙げた。
「草むしりならお前にも出来るだろう」
「うん、ホントに酷いねヴァニラさん。俺の事なんだと思ってんの」
「馬と鹿の合産物ではなかったか?」
「バカって言いたいのか、コンチキショウ」
人が手伝うって言ってんのに、不躾すぎんだろ。
俺を一瞥して一笑をくれるヴァニラに、口を尖らせてズボンのポケットに手を滑り込ませる。
「言い出したからにはしっかりやれ、カイリ」
「わかってますよーだ」
内頬を引っ張ってイーッと歯を見せると、俺は中庭へと向かうべく、足を反転させた。
...そういや最近、ヴァニラの奴、俺がDIOのことDIOって呼んでも反応しなくなってきたなぁ...。
俺の様無し呼びはDIOの命によるものなのだが、当初はヴァニラの琴線に触れるようで俺がDIOと口に出す度にをこめかみをひくつかせていた。
DIOの意向である事は知っているから何も言っては来なかったが、まあ敵意は滲み出ていたわけで。
あの頃はまさか奴とこんな風に会話するようになるなんて思ってもみなった。
少しは親しくなれたってことか...。
そう思うと嬉しい。
俺は人知れず口許を綻ばせた。
君との距離
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