■ 危うき理性(ダン)
「う、ぅぅ...」
どうしようもなく喉が渇く。
血、血が欲しい。
限界を感じ、部屋の輸血パックを飲もうとしたのだが生憎ストックが切れており、こうして今、テレンスや血をくれる同僚を探しているのだが、今日は出払っている者が多いらしくなかなか誰も捕まらない。
「も、無理...」
先程から理性が切れそうになる度に、ふらりと足がDIOの食事になる女性達のいる部屋へと向かいそうになる。
やべぇ...。
誰かいねぇの、マジで。
このまま意識が持っていかれてしまえば、大変まずいことになり兼ねない。
ならいっそ、もう女性達に血を分けて貰った方が...。
諦めかけたその時だった。
「カイリ...?」
「っ、ダン!」
漸く見つけた同僚の姿。
安堵する気持ちを隠しきれず表情を弛ませた俺に、ダンは訝しげに眉を寄せた。
「どうした」
「ダン、悪いんだけど血くんね?」
ちょっと限界っぽくて、と首を掻き切る真似をする。
「輸血パックは?」
「切れてた」
「用意が悪いんじゃないのか?」
「だよなぁ、悪い」
苦笑の表情を作るも、上手く笑えておらず、顔が引きつってしまっているのが自分でも分かる。
冷や汗だらだらの俺を見て、ダンが溜め息をつく。
「...貸しだからな」
「すまん」
胸元の開いた服を、吸いやすいようさらにはだけさせてくれるダン。
優しくとか、出来るだけ痛くしないようにとか、そんな風に気遣える余裕はとうに無くなっていて、俺は荒っぽくダンを引き寄せ、その首筋にかじりついた。
「い゛っ!?」
苦痛の呻きがダンから漏れたのを、ぼんやりと意識の片隅で聞いた。
だが、今の俺はダンから血液を全て奪ってしまわぬようにセーブする事に集中するので手一杯で、そんな事は気にしていられない。
「ぅ゛ ぁ、ひ ッーーー」
じゅるじゅると急激に血を奪われていく感覚に臆したダンが俺の腕に手をかけた頃には、俺はなんとか余裕を取り戻していた。
一度口を離し、大丈夫と告げて、また首筋に噛みつく。
「っ、カイリ、ぁ 」
ダンの血が喉を伝って、身体へと浸透していく。
渇きは満たされ、潤っていくのが分かった。
ダンから口を離すと、銀色の糸が引いてつぷりと途切れた。
唾液が残る傷痕の消えたその箇所を、親指で拭いとる。
「あー...、ダンがいてくれてマジで助かった」
貧血で崩れかかったダンを受け止めて礼を言うと、上目使いになる形で睨み上げられた。
顔が上気してるのもあって、凄い色気があるのだが、言うとリアルに死にかねない。
ここは黙っているのが賢明だ。
「聞いていたよりも随分痛かったんだが?」
「...すいませんした」
「...とりあえず部屋まで運んで貰おうか。カイリのお陰でまともに歩けもしなさそうだからなァ」
悪どい笑みを浮かべるダンに、悪寒が走った。
あ、これ俺一日扱き使われる感じじゃね...?
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