心配ご無用
「ははは げぼげぼげぼ やっぱり皆でするドッジボール楽しいねえ げぼげぼげぼげぼげぼ」
「ね、ねえカイリちゃん もうそろそろお家帰らない?」
「え、なんで?げぼげぼげぼ」
子供達の無垢な瞳に見上げられ、思わず首を捻る。
だって、と彼らの目が向かうのは私の血が飛び散った地面。
ううん、そういうことね。ああもうこの無駄な血液め。
「フレイキー 大丈夫だよ、カイリはこれでも一応問題ないから」
「そうそう大丈夫大丈夫、ちょっと内臓が荒れてるだけだけげぼげぼげぼ」
心配してくれるフレイキーの頭を血まみれの手でわしわし撫でてから、不意打ちとばかりに、敵陣地にいるランピーにボールを投げる。
「っと、もうー!あたるとこだったじゃ、ん!!!」
私が放ったボールは地に落ちる前に受け止められ、そしてランピーの振りかぶったその手で投げられた豪速球が。
お腹に。
「げぼぶりゃ!!!!」
「ランピーこれ大丈夫って血の量じゃないよね!!?」
「あ、あは…内臓破裂したかな…?」
「ランピー!!!」
「だいじょぶ、だいじょ、…」
「カイリちゃん!?」
「返事がない!!ただのシカバネのようだァー!!」
「もうナッティふざけないで!」
「そうは言ってもペチュニア、カイリねえもう息してねえよ」
「……」
「……ドッジボールの続き、しよっか」
ジリリリリリ。枕元で鳴った目覚ましに、体温で温まったシーツの中から手を伸ばす。ああ、今日も良くない夢を見た。いつもの定期吐血に加え、ランピーが投げたボールを腹にまともに食らって内臓破裂した末に、公園の端に寄せられ、横でドッジをされる夢。
お腹をさすれど、もうなんともなくなっていて、痛みのいの字もない。はあ、なんてアグレッシブな夢。
眠気の残る瞼をこすりながら、ベッドから体を起こし、その足で階下の洗面所へと向かうと、いやはや予想外。意外な人物とかちあった。
「あれ、おはようリフティ。今日早いんだね」
「ん…、はよ。用足しに来ただけだから、もうちょい二度寝してくる…」
言って、リフティが向かったのはリビングだ。まあた、ソファで寝る気だな、あいつ。今日寒いのに風邪ひくぞ、もー…。あとでブランケット持っていかなきゃ…。
ため息をつきながら顔を洗っていると、階段を降りてくる足音が聞こえた。
驚いて振り返ると、そこにはもう一人の同居人。
はよう、と溢してトイレの中へと入っていくその姿を見送り、頭を掻く。
シフティまでこんな時間に起きてくるだなんて珍しい。時刻はまだ、早朝の6時だ。今日は台風でも来るのだろうか。
荒れそうな天候はともかく、この分だと早めに食事を作る必要がありそう。
リフティにブランケットを被せ、早速私は朝食の準備に取り掛かった。
リフティ、シフティ。瓜二つの顔を持つ双子である彼らは、私の同居人。
とある事情により、生活を共にするようになって、もう幾日の時が流れただろう。時間というものは、あっという間だ。この街で暮らすようになってからは、そりゃ一層。死んで起きたら、次の日だ。
「もっと有益に日々を送りたいねえ」
トーストと、サラダ、目玉焼き、マーガリンとジャムの瓶をぼろっちい机に乗っけて、ケトルで沸かした湯をマグカップに注ぐ。
「カイリ、コーヒー…って、もう全部出来てんのか」
「ふふん、優秀でしょ」
「上出来だ。リフティじゃあこうはいかねえもんな」
「んん…なんかいい匂いする…」
「朝ごはんできたよリフティ」
「まじ…?ああ、今日の当番カイリか…。ん、食べる…」
のそのそと起き上がってくるリフティが最後に席に着き、全員揃っていただきますをする。
「もう肉ないよ、冷蔵庫ほぼすっからかん」
「昼の分は?」
「ない。盗りに行く?」
「行くしかないだろ」
「ですよねー」
「計画練らなきゃな、腹減らないうちにさっさとやろーぜ」
シフティの言葉に頷いて、コーヒーを啜る。
はあ、今日は早く一日が終わらなきゃあいいな。
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