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「反応遅過ぎ。ガードも甘い。眼が見えてないからって油断したわね?」
「も…もうし、わ…け…」


パタリ。部下の意識が落ちると同時に紡がれていた言葉も途切れた。ふう、と息を吐いて振り返るとタイミング良く部下を肩に担いだ蒼が森の中から帰って来ていた。私が部下達を早々に帰した事も気配が散った事で知っているだろうけど一応報告する。後ろの二人は、と問われたので蒼が戻るまで組手を手解きしていたと答えるとそうか、と短い返事が返って来た。その間担がれていた部下が涙を流しながら気絶していたのが印象的だったのだけれど、一体どんなトラップを張ったのだろうか。


「で、また気絶者が増えてる訳か」
「それについてはごめんなさい。けれどこの子達の班、中々連携が取れていて其々の能力の相性も良かった。その中に担がれている子も居たら良い線いってたと思うわ。」
「そうか、なら今度コイツらの班を主軸にした連携を考えておく」
「…殿には向いていないと思う、とだけは言っておくけれど」


気絶してる一班達のそう遠く無い未来が確定した会話をしながら、蒼が肩に一人、横に一人抱え私がくノ一を背中に負ぶって、演習場から暗部総本部へ向かった。今朝よりも大分落ち着いた蒼のチャクラに少なからずも安堵している自分に嘲笑が漏れた。


「日和」
「…どうしたの?」
「日和から見て、俺は何処か変わったか?」
「…」



驚いた。
蒼も、自分の変化に動揺していたのか、と。つい最近まで変わりましたねと言われていた私が彼の事をどうこう言えないけれど、蒼が変わったと敢えて明言するのなら、良く話すようになったとは思う。話す、と言うより声を出す、の方が表現としては正しい気もする。会話自体は指示以外基本的に暗部員の前ではしないのが当たり前だったし。そう考えると部下達は私達よりも割とお喋りな人が多い気がする。そんな事を逡巡して、考えた事と余り違わない内容を蒼へ伝えるとまた一言そうか、とだけ告げてこの会話は終了した。


「今日の夕方、今週末やる実験の打ち合わせをする」
「了解」
「場所は…ジジイに報告すんのも面倒だ、火影邸で良いだろ」
「一応後で三代目に伝えておくわ」
「ああ」



そんなやり取りをしている内に総本部へ到着。先に戻っていた部下達が私達が抱えた三人を見て安堵したように胸を撫で下ろしていた。手頃なソファーにくノ一を降ろすと、先程蒼の様子について話した部下から暗号解読班より届いていた書類が一束手渡される。確か…トラップが仕掛けられていると思わしきものや解読不可だっもの、だったかしら。


「ああ、丁度良い。その書類は期日を過ぎても構わないから、眼が治った時正常に機能するか試す時に使え」


そう告げると蒼はまた一言二言部下達へ指示を出すと今日のノルマである任務へ出掛けた。簡単に言ってくれるけど、重要機密書物をリハビリに使えだなんて、全く無茶を言ってくれる。けれど何故だか、以前とは違った感覚の含みを感じて自然と表情が緩む。それを見てか部下達の空気もまた穏やかになっていた。







「え、今週末?」
「おう。」
「そ、そっか。私のチャクラ?の性質がすっ昴達のチャクラと似てるから、わわ私なら日和ちゃんの眼を治せるかもしれないって事、ね!」
「無理しなくてイイよ名前ちゃん、気持ちはなんとなく分かるからサ」


ポンポン、と私の頭を撫でるカカシさんの優しさにうっかり涙腺が緩みかかった。目の前には佳鹿くんの食後のデザートを食べている蒼。これは今朝の出来事の所為で飯を食いそびれたと怒られたのでじゃあこれをと差し出したため蒼が食している現状に至る。佳鹿くんには今度またサンドイッチとポタージュを作るって事で話は付けたんだぜ!それを羨ましそうに眺めてたカカシさんは無視したけどね。


「んで、その実験内容っつーのが、まずはコイツの中身を"消せる"かどうかだ」
「コイツ…って…コレ卵ですよね、しかも生の。」


どっからどう見ても卵。もうすんごい卵。まかり間違えてちょっと歪なピンポン球ですよ〜とか言われてもいやこれ卵ですよね?って言えるくらいの卵。いやいや待て、動揺してもいいけど現実逃避するなカムバック私。こんな私の心境を垣間見た基、読心術かましたのか、蒼がデザートの白玉ぜんざいの白玉を咀嚼しながらつまらないものを見るような目で私を眺めていた。なんだよちくせう!!


「中身を消すって、あの、卵白とか黄身とかそういうの?」
「ああ。殻は残せ。」
「オーケーオーケー。要するに中身が日和ちゃんの視力を奪い続ける遥のチャクラって事ね!」
「ま、簡単に言えばそういう事だ」


うーんでもさぁ、私が今まで消してしまったものって現物丸々消しちゃってるじゃん?中身消すとかどうやるの?なんて久々に心の中で純粋な疑問を投げると物凄くナチュラルに修行あるのみと佳鹿くんに告げられる。うん、やっぱり読心術は健在なようです。ていうか前々から分かってたけど割と佳鹿くんて感覚派だよね!助けを求める様にカカシさんに視線を向けても、俺は今回ノータッチだし…と。成る程。カカシさんにはまた熱湯を注いどく。


「悪いが俺も週末まで出張任務なんでな。」
「悪いとか思ってる人の顔じゃないですよねそれ貧乏籤引かなくて良かったって顔ですよね」
「うるせェ」


ご馳走さん、と白玉ぜんざいを平らげた蒼にこの野郎と思いながらも適温のお茶を淹れる。熱湯にしたら後が怖いからね!ていうか、カカシさんも佳鹿くんも蒼も予定があるって事はつまり…


「今回の貧乏籤は日和だな」
「言ったよこの人!」


今貧乏籤ってハッキリ言いましたよね!



















「…と言うわけで、貧乏籤の商品ですこんにちは」
「今日は素直に拗ねてるのね」


そりゃあ拗ねもするよ!

心の中で大絶叫。所変わり此処は暗部の待機室らしい。前にも書類整理の時にお邪魔したことがあるからか皆さん私の事を覚えてくれていた。あっどうも〜なんて会釈をしてみると同じ様に会釈し返してくれた。なんかアットホームな雰囲気ですね暗部待機室。前は人が少なかったから鬱々とした感じが室内を占めてたけど。


「と言うか、自分の眼の治療する人の修行見るって…複雑だわ」
「うん、私もそう思う!」
「元気の良い事で……けど、チャクラの概念も良く分かっていない貴女にどう修行を付けたものかしらね」


あ、そこやっぱり蒼達と打ち合わせしてないんだ。丸投げなんだ。アハハ、スミマセンと乾いた笑いを隠す事なく垂れ流すと、仕方無いわね…と日和ちゃんが口元に手をやって何やら思案する。いや申し訳ない。私の所為…って言うのかなコレ。私自身ですら修行するとか思いも寄らない展開になってるよ!佳鹿くんの一言でこんなとこまで話が進むなんて!


「確か、前々から物を"消す"時に前兆の様なものは無いって言っていたわよね?」
「うーん…無いねぇ」
「なら、先ずは意図的に"消せる"様にしなきゃね。」
「おお、成る程!」
「そもそも"消す"時に"消した"感覚はあるの?」
「いやぁそれが全く…ね!」


ハァ、と溜息が一つ、アハハ、と乾いた笑いが一つ。何これ絶望的。
じゃあこれ、手に持って。と日和ちゃんから手渡されたのは何処にでもあるような細筆。こっちの世界って基本物を書く時筆だもんね。書道に自信の無い私からすれば軽い拷問のようだよ。墨がまだ乾いていないからポタリと滴が滴った。言われるままに手に持つと日和ちゃんが細筆を指差して、その筆を"消す"イメージを頭の中で描いて。と言い放つ。上手く理解出来なくて疑問符を浮かべる私に日和ちゃんがもう一度噛み砕いた説明をする。


「今まで貴女が物を"消した"時の状況を考えてみると情緒が安定していない時に発生していた事が多いと思うのよね。あくまで憶測だけど。けれど修行する為に態々情緒を乱すなんて阿呆らしいでしょ?だったら情緒に問題が無い状態でも"消す"事が出来るようになれば"消す"能力のコントロールも出来る訳だから、コレが最善に繋がる筈よ。」
「確かに気分的に凹んだりした後に消してたかも…!」
「昴と遥の時は意識下で四代目に会っていたと言うか…気絶していたから物を"消す"に至らず済んでるけれど」


む、確かに日和ちゃんの憶測で考えると、今後私の情緒が揺らぐ度に何かしら"消して"たらキリが無いし、その内隠し切れなくなることも有り得そう。…そうか、じゃあ今度からはこの得体の知れない能力のコントロールを意識してかなきゃなのか…!そう考えて日和ちゃんに視線をやると、そういう事。と微笑まれた。で、その手始めに意識して"消す"練習の前の練習がイメトレって事ね!


「今日一日くらい掛けた良いわ。貴女素人だもの。」
「ごもっともです…正直消すイメージとか種類有りすぎて…」
「あら、それは使い方によってはとっても良い事じゃない」
「えっ」
「何種類かイメージが湧かせるって、私達にとっては僥倖よ。その種類の数だけ"消し方"を増やせるでしょ?」
「な、な〜る!」


考え方が非常に好戦的です!
これが現役忍者の思考傾向なんだろうなぁなんて思いながら、今日一日を注ぎ込むイメトレを思いながら細筆に視線を降ろした。








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