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信じ難い、その一言に尽きる。
意識を失っていた間、四代目に会って名前ちゃん自身の状況とその事の発端、その他諸々を説明された、だなんて…そんな事をサラッと昨日まで寝ていた子に言われるモンだから驚きを隠せない。

ホント名前ちゃんって台風の目タイプだよネ。本人は穏やかだけど周りに起こる暴風雨は半端無いって、ホント。溜息混じりにそう言うと、目の前に座る名前ちゃんは褒めてないのに照れたような顔をして頭に手をやった。あーあ、そんなことすると隣にいる蒼から脳天チョップが飛……んだね。うっすら涙目になりつつ恨みがましい目を蒼に向ける名前ちゃんを無視して蒼が口を開いた。

「どうも信じ難い話だが、あの親父だ。考えられねェ事も無いだろ」
「まーね。」
「ま、コレについては昴が姿を現さない事には確認も取れねェ。ジジイにもそう報告した。」

そう言って蒼はまた名前ちゃんから聞いた四代目との会話内容を俺に話してくれた。名前ちゃんの右手の能力と言うより、歪み自体はあれから発見されてないし調律自体も発動されていない。一応名前ちゃん本人に確認は取ったけど、歪みを調律してしまう予兆の様なものは無い、と言うか本人にも分からないらしく、物に触れようとする度ビクビクしている姿を見るのは珍しい事じゃなくなった。

「それで今は、今後の話をする為に火影様待ちと」
「そうですー」
「確か今は会議中でしょ?直ぐには終わらないんじゃないの?」

俺が疑問の声を上げると、蒼が片手に持った書類をひらひらさせながら、暗号を覚えさせる。と一言告げた。なんでも、今回の様に攫われる事は無くても、今後離れて暮らす時に迷子になり兼ねないからいつ何処で消えても何処かしらに証拠を残せるようにだとか。その為名前ちゃん専用の暗号を作ったらしい。…うん、やっぱ蒼も例に漏れず名前ちゃんに懐いてるよネ、これ。態々こんな事までするなんて流石に思わなかったよ。

なーんて、表情に出ちゃってたんだろう。蒼、と言うかナルトからの視線が痛い。ハイハイ分かってます、分かってますよ!ナルト以外の二人が名前ちゃんを心配してるんでしょ!分かってるからジワジワ殺気込めないで!

「え、ちょっとやだ…カカシさん顔色わる…ちゃんとご飯食べて寝てます?あ、お風呂とかは?」
「…ダイジョーブ」


うん、君自身の話でこんな状態になってるんだけどネ。








「副隊長、例の書類をお持ちしました」
「おー、そこ置いとけ。んで入り口んとこの書類全部解読し終わったモンだから燃やしといてくれ」
「御意」

返事をした俺の部下は直ぐに書類の処理に取り掛かった。次々と送られて来る暗号書や巻き物を一瞬放置して、部下の持って来た書類に目を通すと大体予想していた内容が綴られていた。

「こんなモンか」

一人呟く。書類には名前の精密検査の結果が記されている。体調面では大して着目する点は無いが、チャクラが希薄過ぎて感知出来ないにも関わらず、変則的なリズムでチャクラが変質しているとの内容が記されていた。一番下の備考欄には、変質時のチャクラの場合、負傷時に医術対応が著しく左右されると付け加えられている。

だとすれば、だ。
この報告書と俺の憶測を照らし合わせてみると、名前のチャクラが変則的に変質しているっつーのは要するにあの黒ずくめ、昴と遥。あの二人と同じ性質のチャクラなんじゃねーのか?名前が医療忍術を受け付けないのと同じ様に、彼奴らは俺と蒼の攻撃…正確には、チャクラを纏わせた体術や忍刀を全て無効化していた。勿論術なんて効いて無かったしな。チャクラ抜きの純粋な体術でさえかなりの腕だった為に分析が遅れたが、そもそも名前は日和の怒りに任せた大技を消した事実がある。
そして更にそっから枝分かれして考えを進めてくと、名前の変則的なチャクラとやらで日和の視力を元に戻せる可能性も出て来たっつー事だ。

「…」
「副隊長、書類の処理終了しました」
「おー、んじゃこれ俺の代わりにやっといてくれ。ちょっと蒼んとこ行くわ」
「こっ…この量を、ですか…」
「修行だ修行。一応最後は目ェ通すから巻物も書類もそのまんまそこに置いとけ」

俺の言葉にまだ何か言いたそうな部下を置き去りにして、さっさと火影室へ向かう。まだ三代目と蒼が約束していた時刻じゃねーから邪魔にはならない…事を祈る。この結果と俺の推測を蒼には報告しておくに越したことは無いし、何より俺が休憩を挟みたい。部下には悪いが人柱になってくれ。

じゃ、よろしく。そう言って背中越しに片手を挙げると、了解しました…と随分沈んだ返事が聞こえた。







「えええ!私この火影邸に住むんですか!?」
「うむ。その通りじゃ。」
「ちょっ…えっ…いや、確かに其処に私の使ってた日用品やら置いてありますけども!」
「お主の部屋も既に用意してある。其処に他の持ち物も置いてあるぞい」

アイツの視線が、面白い程に泳ぎまくっていた。

「あの、えっと、私が聞いていいことか分からないんですけど…!」
「何か気になる事でもあるかの?」
「気になるというかなんと言うか……コチラの、蒼や佳鹿くん、日和ちゃんの日常生活がどうなるのかが気に…あ、気になってますね私」

余程動揺しているのか、訳の分からない事を言い出しているが、ジジイは何が言いたいのか分かった様子で苦笑いを浮かべていた。ソレについては何の問題も無い筈だが、本人に俺達が新たな隠れ家を作るのではなく、元の暮らしに戻るという話はしていない。だから俺達の食生活やら洗濯やらその他諸々の事を気にしている、というより、心配とやらをしているんだろう。

「うむ、それについてはお主が心配する必要は無い。蒼も佳鹿も日和も、一人前の忍じゃ。」
「うーん…食生活についてはあんまり信用出来ないんですよね、三人とも…自分の事放っておくスタイルですし…」

俺の隣でうんうん唸る奴をそのままに、俺はジジイへアイコンタクトを送るとジジイもそれに頷いて応えたのを見て、視線をアイツへ向ける。

「蒼は食自体に興味ないし…佳鹿くんは補助食品ばっか、日和ちゃんなんてご飯食べない時もあるとか言ってたし…うわ、やっぱ心配、気掛かり、気になる」
「ハゲるぞその内」
「相変わらず失礼な7歳児め…」
「その7歳児に世話になってたんだ、そろそろ俺の言うことぐらい聞けよ」
「あれ?何で怒られてるの私」

そう言って漸く俺の方へ視線を向けた奴と目が合う。出会した当初からの変わらない、普通の目だった。特に何を企んでるわけでも無いし、求めているわけでも無い。ただ俺との意思疎通を図る為に、こっちを見てるだけ。俺の言葉を待っているのか、間を置いて何度か瞬きを繰り返す。

「おーい、蒼さんやーい」

黙ったままの俺に痺れを切らしたのか、俺の目の前で手を振った。その手を掴んでみても、何時ものようにトボけた顔をするだけで何の動きも無い。ほんの数秒、ジッと掴まれた自分の手を眺めて、また俺と視線が合う。

「…あの、火影様」
「む?何じゃ?」
「私が蒼に話したい事があるので、少し火影邸を出て良いですか?」

奴の言葉にジジイは渋々ながら頷いた。それにありがとうございます、と頭を下げてから俺が掴んでいた筈の奴の手が、何時の間にか俺の掌を握り返していたのに気付く。驚く間も無く奴がーー名前が、俺の手を引いて火影室から出る。芋蔓式に俺も出て行くことになるが、最後まで俺の様子を眺めるジジイの視線が気に食わなかった。





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ここからやっと日常(?)編が始まるかもしれない




bkm
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