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「へえ、この前の居酒屋の?」
「そ。佐倉ハツを捕らえるんだってサ。名前ちゃんが攫われたあの日に関わってたなんて確証も証拠も無いのに突然捕らえるなんて言うからホント大変だったよ。」
「で、先輩も一緒に出向く事になったんですか?」
「いーや。俺はまた別件で頼まれゴトあるから別行動。」
「はは、お疲れ様です」

あ、絶対今ざまーみろとか思ってるよヤマトの奴。ジト目を向けても何時もの笑顔で誤魔化された。なんでも昨日シカマルが例の名前ちゃんを攫った黒ずくめとやらと接触したらしい。少量の情報とオマケにナルトとヒナタを焚き付けて行ったらしい。余程自分達の実力に自信があって、且つナルト達の取り返そうとする気持ちを折ろうとしているのか…ただ単に愉快犯として殺し合いたいのか。
様々な考察を多方面から考えてみるけど、確定するにはこれと言った確証ある情報が無い為に全ての考察に可能性が生まれてしまう。思わず溜息を吐くとヤマトがさらりと大変ですね、なんて言うから更に心の中で溜息を吐いた。

「おいカカシ」
「あれ、どしたのナルト」
「今朝頼んだアレ、追加要件だ」
「うげぇ、嘘でしょ…」

あからさまな俺の態度にナルトが変なものでも見るような目を向けてくる。使えねェ奴だなって?それとも文句言わねーと仕事やれねーのかって?多分どっちも篭った目だ今の。

「今日は三人とも出払うけど、暗部は平気なんですか?」
「影分身を置いて行くから問題は無い。前の戦闘のように国境近くまで飛ばされる事があれば影分身が消えるからある意味分かりやすいだろ」
「二度は無いって信じてるよ、俺は」
「え、俺だって信じてますよ」

俺とヤマトの言葉にナルトが舌打ちをする。ナルトからしたらあんな経験は唯一の汚点なんだろう。激励の意味でも言ったんだけど、殆どは言葉通りの事しか思ってないんだけどなぁ。ヤマトだって純粋にナルトの事を慕ってるから同んなじだろう。ナルトが初めに追加要件と言ってきた内容が書かれてる巻物を受け取るとナルトはさっさと執務室の方へ向かってしまった。

「…なんか…」

ナルト本人は去ったのに、ヤマトが恐る恐ると口を開いた。まあうん、言わんとする事は分かるけどネ。

「大分人間味が出て来ましたね。」
「デショ。年相応、って言うと少し違うけど、充分感情表してくれるようになったよ。」
「……アンタら、それぜってーほか二人の前で言うなよ」

ふふーん、なんて笑った俺の隣から声がしてギョッとした。話の中心の一人のシカマルが呆れ顔で俺達を見ていて、ヤマトと二人して胸を撫で下ろす。

「特にヒナタの前ではな。」

そう言い残してシカマルも執務室へ消えて行った。あー、ホント気配消すのに集中しすぎでしょうよ、あの黒ずくめに対抗する為なんだろうけど。ヤマトとアイコンタクトを取る。うん、この話はやめにしよう。

「別に、気にしないわよ。そんな事よりカカシは頼んだ案件、絶対今日中にやっといてよ。」

ああ、もう驚くとかそーいう問題じゃない。心の状態と一緒に体から力が抜ける。さっさと言い放った言葉はそのままに、ヒナタも執務室へ消える。ヤマトに至ってはある種の恐怖からか笑顔になってしまっている。…それにしたって、いつからあの子達は名前ちゃんに全幅の信頼を置いてるんだろう。











「…おなか…すいた…」

グー、ギュルル。ウンソウダネ。なんてお腹が返事してきてるのかと思う位盛大にお腹が鳴った。昨日はあのまま個室に連れられて、強制的にお布団に寝かされた。扉の外にはどちらかの黒曜石の青年がいる。今はどっちなんだろう。さっきトイレに行きたいと騒いだら怒られたからよく喋る方の彼だったと思う。

「…誰か居ますか」
「んだようっせぇ」
「あらやだまだ君だったの」
「うっせぇ」
「ねぇ、君の名前なんて言うの?」

まだよく喋る方の青年だったので、暇つぶしに付き合ってもらおう。序でにモヤモヤしてる、昨日から不便だと思い始めてた呼び名。そう、名前。いい加減名前くらい教えて欲しい。

「んなもん無ぇってアイツが言ったろ」
「えー、君にはあるって言ったよ?」
「…」
「うっそ、本当にあるんだ」
「うっせぇなてめぇは」

チッ、と舌打ちしたのが扉越しにも分かるほど聞こえてきた。お布団から起き上がって、扉の前に座る。ねえ、と催促するとイライラした様子で返された。

「お前には教えねぇ!」
「ケチだなぁ君はー」
「うっせぇボケが」
「酷いなぁ、呼ぶ時不便なんだよ、君とあの子をさー」
「じゃあ勝手に付けりゃいいだろ!兎に角お前には教えねぇ!」
「ちぇー」

頑として教えないと言い切られては、本当の本当に教えてくれる気はないんだろう。ここは観念して私が名付け親となるしかない。

「じゃあ君は一匹狼器質だから星っぽい名前にしよう。主張激しいし。」
「あ"ァ?」
「白雪姫の小人の怒りんぼでもいいけど流石にそれを名前にするのはねぇ…」
「てめぇ寝かすぞ永久に」
「だから別にしようって言ってるじゃん、星でしょ、じゃあ昴は?」
「…星雲じゃねぇか」
「あ、そうなの?」
「知らねーのかよ」
「星と言えば!と思って浮かんだのが昴だったから!」
「意気揚々とアホ晒してんじゃねぇ」

ハァ、なんて溜息を吐いた音が聞こえたけど気にしない。否定されてないから、多分それでいいんだろう。ありきたりでごめんね、と言うと無視された。酷い。もう一人の彼はどうしよう、と考えてると外に居る昴が動く音がした。ああ、交代なんだな、なんて思った私の顔に、思いっきり昴が開けたドアがぶち当たった。痛いよ普通に!!開けるなら開けるって言おうよ頼むよ!!

「お前…近すぎだろ」
「痛い!ん!ですけど!ね!?」
「あーはいはい」

何で主犯に流されなきゃならんのですかね!?ジンジンと痛む顔を押さえながら立ち上がって布団の方へ移動する。ドアの閉まる音がして、ガチャッと鍵を掛けられたような音が…しまして…

「え?」

疑問を感じて昴を見上げると、ぬっと手が伸びてくる。何をされるのかと身構えると、昴は私の右手首を掴んで手の平の方を口許に寄せて行った。訳が分からなくて何か言おうとするけど、私へ向けられた視線には何時ものような威圧的なものはなくて、逆に口を噤んでしまう。私が騒がないことを確認したように昴は目を伏せて、徐に右手の中指を、噛んだ。

「い、痛い、ですよ!?昴さん!?」

ガリ、と肉の凹む感覚がして背筋に冷や汗が流れる。さっきあんなに馬鹿にしたから怒った…!?制裁に指を詰められるのか私!!無理に動くと更に痛くなりそうなので動かないままでいると直ぐに指は解放された。痛みを誤魔化そうとして中指をさするけど、ジワジワと痛みが残ってる気がする。今度こそ抗議してやろうと顔を上げると、威圧的な何時もの目が私を見ていた。

「痛いんですけども!」
「恨みを込めて噛んだからな」
「くっそう…物理で返してくるとか昴は蒼と良く似てるなぁ…」
「あんなガキと一緒にすんな」
「あー、それも蒼言そう」

笑いながら言ったのがいけなかったんだろうか。今度こそ脳天にゲンコツされて私は強制的にお布団とお友達になった。そんな私を鼻で笑ってから昴が言った。

「今日、外に出してやる。お前の現状ってヤツを教えてやるよ」
「え、なんか嫌な予感しかしない」
「安心しろ、俺が直々に連れてってやる」
「それだ!それが原因だ!!」

薄っすら滲む視界に、やっぱり昴と蒼は似ているなと再確認した。こういう意地悪なところが本当ソックリ。そう思った私を見て察しが付いたのかただのエスパーなのか、思いっきり睨み付けつつ昴は部屋を出て行った。












「本当に、拘束もダメだからね!佐倉ハツの方から手を出して来ない限り傷付けたりしないコト!」
「あの黒ずくめの前にカカシを殺りそうだわ、私」
「辞めとけ、後で苦無の手入れをする時間が無駄だ」
「止めてる割には俺殺られてる話だよね?」

しきりに佐倉ハツへ手を出すなと言って来るカカシへ軽い言葉のジャブを放ったらこれだ。面倒な上に面倒で、何の実りもない。ヒナタとシカマルへアイコンタクトしてそろそろ時間だと言う事を伝える。とっくに二人とも分かり切っているが、やはりカカシが邪魔だ。俺が出した任務はさっさと終わらせてきたらしく、日の沈み始めた今の時間は暇らしい。

「もしもだよ?佐倉ハツが関係無かったとしたら、名前ちゃんが唯一心休ませられる相手になるかもしれないんだからサ!」
「あの人が…個人的に会いに行くとでも言いたいわけ?」
「だいじょーぶだよ、その時は君達の内誰かを頼るだろうからネ。どっかの誰かさんらが一人で出掛けるなってあれほど仕込んでるんだから。」

面倒だ。もう行こう。何も言わずにその場から瞬身すると後から二人も続いて来た。カカシはもうどうでもいい。

「しっかしまぁ、驚きだな。佐倉ハツの家が死の森の中にあるとはよ」
「これで手を出すなですって?カカシってやっぱり脳みそ溶けてるのかしら。常人じゃないのなんて分かり切ってるじゃないのよ」

口々に二人が話しながら移動する。シカマルが言った通り、例の婆さんは死の森に住んでいる。常人じゃねェのは確かだが、常人に近い暮らしをしてる可能性も捨て切れはしない。黒ずくめから負わされた傷はほぼ完治しつつある。心配は何も無い。ただここで、また新たな情報が無ければまた一から名前を探さなくてはならなくなる。黒ずくめの言い残した同じ異次元から来た、と言う言葉を信じるなら、名前が反応を示したこの婆さんが微かな情報を握って居る事は確かな筈だ。そこまで考えた所で、目的地に到着した。適当な木の枝に着地する。

「結界も無し。辺りに式が居る気配も無し。口寄せの印も周辺にはないわね。中には人一人の気配がある。恐らく佐倉ハツで間違いないわよ。」
「間違えても殺すなよ。」

俺のその一言を皮切りに、チャクラ膜を体面に張ったヒナタ、シカマルが結界と言う名の檻を展開する。同時に俺が瞬身して屋内へ侵入。特に何のトラップも無く侵入成功。だが、予想していなかった展開が、目前に広がっていた。

「てめェ…」
「お久し振りですね」
「あらあら、どなた様かしら?」

血色の悪い顔が此方を向き、淀んだ目が細められた。黒ずくめの直ぐ横には椅子に座っている婆さん、俺らの本丸の佐倉ハツが居た。状況を察したらしいシカマルとヒナタも屋内へやって来た。それを確認するかのように黒ずくめは俺、シカマル、そしてヒナタへと視線を順に送った。

「この方にはお世話になっていますので、乱暴はしないでください」

当然の事のように吐かれた言葉にやはり反応したのはヒナタで、チャクラが一気に練り上がり、外の結界がより強く強化されて行く。特攻をかまさないように手をかざして制するがこれが効くのは次のやつの出方に寄るだろう。

「この方、記憶が無いそうです」
「な、」
「あらあら、あなた達も私のお話を信じてくださるの?」
「どう言う事だ」

混乱と挑発が目的なんだろう。黒ずくめの瞳は以前現れた時よりも昏さと淀みが深いものになっている。ヒナタもとりあえずは落ち着く方向へ決めたらしい。何時でも体術へ移れるようチャクラをコントロールしている。

「ではお婆さん、貴女からお話しして差し上げて下さい。私だと争いが生じます」
「そうなの?じゃあ私が話そうかしら。」

婆さんは俺らが現れた時と何ら変わらない、落ち着いた微笑みのままそう告げた。

「ここが私の知る国、日本でない事と、名前だけは知っているの。でも、それだけ。それ以外を忘れているの、私。ああでも、この前に会った女のこにはなぜか…みおぼえが…あって…」

段々と声が小さくなって行くと共に、婆さんの目から光が失せて行く。俺らへ向けられて居た視線も、突然虚空を見つめている。その顔からは表情がすっかり抜け落ちていた。とても正常とは思えない反応にヒナタが試しに殺ってみる?と言わんばかりに俺を見た。精神異常者の類と間違われそうな反応を見せる婆さんを一瞥すると、黒ずくめが一言呟いた。

「これが、次元を超えた人の反応です」
「あ?」
「…異次元の人間が、異世界で平凡に受け入れられ、平凡に生きているとお思いですか」
「…」
「そんな夢物語が叶う訳が無いのです。この方の在り方は正しい。此処からすればこの方は異物。不純物。必要性の無い物。言うなれば存在すら許されていない。なのに存在出来ている。いえ、語弊がありますね。出来ているのではなく、出来てしまった。」

昏い瞳が俺を捉えた。相変わらず焦点が合っているのか分からない。突然饒舌になった黒ずくめに警戒の色を強めたシカマルからヒナタへの抑止が掛かる。確かに下手に動いてまた飛ばされるのは面倒だ。その上、今は異次元、異空間、そして名前が何故この世界に来てしまったのかが掴める程の情報を話している真っ最中だ。黒ずくめの瞳へ視線を返してやると、また口を開き、話し始めた。

「そもそも、次元を超える事など到底起こり得ない事です。それがこうも頻発している。それは何故か?原因、要因があるからです。ですがその原因、要因は?どちらの次元が先に引き起こした?此方の次元へ行きたい、彼方の次元へ行きたい、そんな思想、どうやって持ち得ましょう?ヒトは必ず一度は想像し、時には願うでしょう。"此処ではない何処かへ"と。しかしそれは双方が双方の存在を認識出来ていなければ絶対的に叶わないのです。片方が認識していてももう片方が識らなければ片方の世界には片方の世界が存在していない事になる。現に貴方達もそうだった。名前さんの世界を識らなかった。」

「然しここで問題が生じます。名前さんも此方の世界を識らなかった。ここで名前さんが一方的に此方の世界を認識していれば前に言った片側の認識に当て嵌まる。然しそうではない。双方の認識の無いままに、名前さんは次元を超えてしまった。そして偶発したかのように、この方までもが。さあ、出題です。双方の認識の無いままに次元を超えたヒトは、一体如何なるでしょうか?」

昏い瞳が俺の眼を覗く。隣のヒナタも、シカマルも動揺している。手に取るように分かるまで、明確な答えが導かれる。

「存在が、認識されない」
「及第点です。正しくは許されない。そこに在る事が異常なのです。この通りこの方は晴れて精神異常者への仲間入りをしました。自分の存在を見失ったのです。何も知りません。世界も景色も人も言葉も。最初の数日間はまだうろ覚えでも記憶はあったようです。見慣れない景色と聞きなれない単語達。微塵も見知らぬ人の蔓延る世界へ放り込まれた哀れな老人です。」

無感情な声が、婆さんを哀れむ。相変わらず昏い瞳は俺を捉えたままだった。思わず夢のような話をしている感覚に陥りそうになる。認識されない。それを聞いて、僅かに思い当たる節がある。だからシカマルもヒナタも動揺を隠せない。初めからだった。出会った頃から、名前の存在感は薄すぎた。視認して確かになる存在。そしてどのチャクラ質にも属さない、それはある種、俺達の世界からしたら黒ずくめの言う"認識されない"と言う事なんだろう。何よりヒナタの医療忍術も受け付けない。それが何よりの証拠となって、鉛のように重くのし掛かる感覚を覚えた。ヒナタの方へ意識を向けると、思った以上の衝撃だったんだろう。ショックからか、チャクラコントロールが先程より綿密なものでは無くなっていた。シカマルはまだショックは浅い方だ。頭が切れる分予想は出来ていたんだろう。それが今現実となっただけで。

「そんな不確かな存在となってしまった名前さんを仮にも貴方達程度の人間が此方側へ引き留めようと?…ああ本当に、」

反吐が出る

そう呟いた黒ずくめの唇が弧を描いた。蒼白な程の肌に不釣り合いな紅い舌が覗いて、違和感を最高潮に主張させる。

「貴方達は名前さんを不安要素及び最重要人物、兼監視対象として側に置いて居ます。それはこの世界観に則っていて宜しい。違和感は有りませんが。何故不安要素を抱えたままの彼女を庇い続けるのでしょう、何故生かしておくのでしょう、拷問の一つや二つされても可笑しくない名目なのに。彼女は不安で一杯なのに。識らない事だらけなのに。この世界に埋れそうになっているのに。貴方達は嘸かし嬉しかった事でしょう。笑顔を浮かべても逃げられない。疑われない。そして疑う事無く腹を満たし身を清め身体を休められる。至極の一時でしょう?全て名前さんの不安の上に成り立つ安心です。どの世界に於いても、表裏一体の理は崩せません。貴方達の幸福があるから別の誰かに、不幸がーー」

唐突に黒ずくめの言葉が途切れた。その筈だ。当たり前だろう。黒ずくめの顔に初めて表情という色が浮かんだ。それも、動揺、後悔の色。

「やめてよ」

ここ数日間、聞き慣れていなかった声が屋内に落ちる。その声は震えていて、泣き出す手前のものだと分かるのに時間は必要無かった。ただ普通に、奥の部屋から名前が出て来た。それだけだった。婆さんの後ろにあるドアから、丁度黒ずくめが言葉を詰まらせたタイミングで。どれ程前から聞いていたのかは今は後回しだ。名前の声を聴いた途端にコントロールを持ち直したヒナタと、即座にチャクラを練り上げ行動に移ったシカマルを確認して俺も行動する。

「お願いだから、もう誰も傷付けないで!」

悲痛な叫び、なんだろう。どちらへも向けているのだろうそれは、慈悲など与える気が微塵も無い俺からすれば、聞き入れられない言葉だが。動揺したままの黒ずくめの顔面へ正掌を叩き込む。当然回避されるがシカマルとの挟み撃ちを仕掛けている為、続けて苦無での連撃を特攻する。全て急所を狙うが間一髪で全て躱された。辛うじて首筋の薄皮を裂いた程度だ。

「名前さん、戻ってください!」

その傷すら最初から無かったかのように、黒ずくめが名前へ振り返り、声を荒げる。そしてそれは、新たな違和感を生んだ。…この黒ずくめは、名前を自分の元から離される事を怖れている。そんな事が以前まで無感情だった奴に起こり得る事なのか?余計な思案だとは分かっては居るが、突然の違和感を払拭出来るほどの理由は見付からない。思案している間にもシカマルの連撃も躱されている。

「おー、白熱してるねぇ」
「…!早く彼女を!」
「させるかっての!」

続いて名前の後ろから現れたもう一人の、名前を攫った黒ずくめが嗤いながら傍観していた。すかさずヒナタが名前へ当たらないギリギリの角度で蹴りを放つ。見切ってました、とばかりにヒナタの脚が受け止められたかと思った瞬間、もう片方の手でガッチリと脚を掴まれていた。それを見た名前が徐にヒナタの脚を掴んだ黒ずくめの手を剥がそうと引っ掴む。

「昴もやめてよ!ド阿呆!」
「馬ッ鹿…!余計な事しないで!」
「おまッ俺に予告無く触るな!!」

口々に叫んだかと思った瞬間、パンッと渇いた爆裂音が響く。と、同時に名前を抱えたヒナタが背中から床へ吹っ飛んだ。名前に昴と呼ばれた黒ずくめは名前に掴まれた箇所を抑えながら舌打ちをした。

「こンの…ド阿呆はどっちだボケ!!」

言いながら、直ぐに回復したのか苦無が数本、ヒナタ目掛けて放たれる。が、それをシカマルがヒナタの前に立ち捌いた。思わぬ好機に俺もシカマルの隣へ瞬身し、非番の日に一日掛けて書いた特級の転移札を発動させた。転移の瞬間、昴が名前を見て僅かに安堵の色を見せたのを、俺は見逃さなかった。

「っ名前、さん!」
「…来ないで、遥!」

それと同時に聞こえたもう片方の黒ずくめの声に、名前が反応する。その言葉に、また黒ずくめの表情が揺れた。最後に見えたそれは、悲しみの色をしていた。








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今回は久々に長かった。




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