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「ふ、ん、ぎィィ!!!」

またもや失敗。折角蔓を解いてもらったので、さっさとここから退散しようと私が捕らえられてた部屋から出ようとするもその扉は開かなくて、黒曜石の青年は依然として私をただ見ているだけだった。質問をすれば返してくれるし、じゃんけんしようなんていう下らないリクエストにも答えてくれたけど、この部屋からは出してくれないので行動にしてみたらこの結果。多分、30分はずっとこの扉と戦ってる。力ずくでもダメ、体当たりでもダメ。逆にこれ押すんじゃなくて襖みたいに引くんじゃない?!と思って見たけどそれもダメ。じゃあシャッターの要領で下からだ!とやってみたのが先ほどの踏ん張りだったんだけど、私の無い頭を捻ってみてもこれ以上の発想は湧かない。降参の意味も込めて黒曜石の青年にふりかえると、彼はまだこちらを見ていた。

「…君の名前は、なんていうの?」

ただ本当に見ているだけなのに、何故か私は青年の瞳に責められている気がして質問をした。すると青年はふ、と意識を考える方に回したらしく、一瞬目を伏せた。

「明確な名前はありません」
「うん?」
「名前を考える、という機会も概念も中々生まれませんでしたから。片割れからはよくお前、アンタ、と呼ばれるので、恐らくそれが名前なのでしょう」
「へっ…」

それは多分違うと思う!!心の中で叫んでも、面食らった私はアホみたいな顔をしたまま、如何にもアホそうな声を上げてしまった。黒曜石の青年は自分がおかしい事を言ってる、と言うような顔もしてないし、訂正する気配もない。ただそれが普通のことなのだと、私に答えただけで。でもこれってそれは名前じゃありませんなんて言ったらあなたには名前がないんですよーって言ってるようなものだよね…!?これは…これは言うべきなの?どうしよう私!考えて私!

「…貴女は名前という名前があるのですね」
「え、あ、はい!」
「片割れにも名前があります。でもそれは言ってはいけない事だと教えられました。なので言えません」
「え、そうなの?」
「片割れですから、私の名前も半分はあれなのでしょう」
「あれ、えっと…お前とかが名前じゃない事、ちゃんと分かってるの?」
「はい」

や ら れ た よ !
彼は私で遊ばないと信じてたのに!!悲しみに暮れる私に、彼は変わらない昏い瞳のまま視線を送ってくれた。








「ま、そう怒んなって。名前は無事っつーか、元気有り余ってるから安心しな。あいつ元から元気と料理だけが取り柄だしさぁ」
「…」
「怒ってるー?やっぱそうだよなぁ。でもお前らと同じぐらい俺らも怒ってるよ?自分達の領域から、あいつを奪われたんだからさ」

ニィ、と笑顔を浮かべたまま、黒ずくめは机の上から降りて俺へ視線を寄越した。ナルトに影を飛ばして連絡はしたが、俺が一人でコイツを相手出来るかが問題だ。術は効かない、純粋な戦闘力がものを言うだろう。その点で考えんなら、まず俺じゃ役不足だ。なら引き出せるとこまで情報を掠め取るしかない。

「訳わかんねぇよな。俺らだって訳わかんねぇよ。いきなりあいつ居なくなんだもん。で、死力尽くして追って見たらお前らと仲良く暮らしちゃってんじゃん?腹立つだろ普通に。てめェらもちゃっかりあいつの世話になってるしよ、ちょっと待てって、落ち着いて考えてみ?あいつ、異次元から来てんだぜ?」
「ほー、じゃあアンタらも異次元から追ってきたって事か」
「当たり前だろちょっと考えりゃ分かる事だっつーの」

怒りの篭った殺気が送られて来るが、殺気には慣れてる俺からすりゃ可愛いもんだ。ナルトの殺気には及ばないのは分かった。この黒ずくめは、ただ純粋に強いだけだろう。

「ああでも、勘違いすんなよ?あいつも人間で、お前らも人間だ。俺らはそうじゃねぇ。」
「…は?」
「安心しな。神だとかいうトンデモねーヤツでもない。識らなくていーんだよ、てめェらみてェな連中は特に。」
「おい、その不気味で信用のカケラも無いてめーらと名前が、どう関係あるっつーんだよ」

自分でも分かる程に、焦った。しくじったのは理解してる。が、あんな平凡すぎる名前がこんな連中と、俺らの知らない世界でだって繋がる訳がねーんだ。今黒ずくめも言ったように人間じゃない。ならどうやってコイツは名前を知った?そして何故監視していたんだ?コイツらが原因で、名前は右手にあんな爆弾みてーな訳の分からねー能力を持たされたのか?思考だけがグルグル回って、疑問ばかりが湧いてくる。そんな俺の様子を見て、黒ずくめは至極満足そうに笑った。

「さァね、てめーらで考えな!」

そう吐き捨ててから、黒ずくめは瞬身したのか、そこから消えた。相変わらず気配は無ぇし、追いようも無い。思わず舌打ちをするが、後ろに現れた気配に振り返る。案の定珍しく不機嫌なのが分かる程、表情を歪めたナルトと目に包帯を巻いたままのヒナタが居た。

「直ぐに情報の整理だ。明日は必ず佐倉ハツを捕らえる。全くの無関係でもないだろ、その"異次元"とやらの人間と瓜二つなんだからよ」

そう告げる間にもナルトの表情は段々とニヒルな笑みに変わっていっていた。隣のヒナタも、今は包帯によって目こそ見えていないが猫のようにそれは細められてるんだろう。序でとばかりに形の良い唇が孤を描いている。黒ずくめの野郎、完全にこの二人のスイッチを入れて行きやがった。その処理すんの誰だと思ってんだよ、そう愚痴を溢す俺の顔も、今までにない怒りのお陰で笑えるという表情を形取っていた。








「…あのさぁ、お前ら何してんの」
「いや、こっから出れないなら暇潰しにトランプか何かしようよって言ったらこんなに沢山持ってきてくれたから一つずつ消費してるだけですよ?」
「遅かったですね」

ハァ、と態とらしい溜め息を吐いてよく喋る方の黒曜石の青年が指パッチンした。次の瞬間には静かな方の青年が持ってきてくれたトランプやオセロ、ウノなどなどの娯楽ゲームが消えてしまう悲劇が繰り広げられたけど、自分が一緒に遊べなかったから拗ねたんだな、と思ったら舌打ちされたので違うらしいけど逆に考えてみても一緒に遊べなかったから機嫌悪いんだなって事に落ち着いた。

「落ち着いてんじゃねぇよ馬鹿が。あんたの大事なカワイー三人組にワザワザ情報流してやったんだよ」
「アンタまたあの子達になんかしたの!?」
「してねぇよボケが!情報流してやったっつってんだろ!つーか直接あいつらに手ぇ下したのはさっきまであんたが相手してたソイツだろうが!」
「…、」

彼からの正論に、私は押し黙った。確かに日和ちゃんの視力を奪って、佳鹿くんや蒼に傷を負わせたのは私と一緒に居た彼だ。初対面の頃から変わらない態度のまま、彼は私に接し続けていた。相変わらず無感情なのかと疑心を抱きながらの会話よりも、彼のように感情のままに話す姿を見て安心したのか、私は訳の分からない現状の不安を八つ当たりという形で彼にぶつけてしまった。

「…それでも、それでも君が私を攫った事は変わらない。引き金を引いたの、君でしょ?」
「…」

私の言葉に、先程までの怒りは見えないけど鋭い視線のままの彼が小さく ああ、 と答えた。モヤモヤ、グルグル、また行き場に困った黒い不安が生まれて来る。そんな私の肩に、後ろから伸ばされた黒曜石の青年の手が触れる。

「今日はもう、休みましょう」

聞こえた声に振り返ると、変わらない昏い瞳が私を捉えていた。






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少し進展!




bkm
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