12





「だからァ、殺してねぇって!それ以上暴れんじゃねぇよ!」
「…!…っ!!」
「あーあーうるせぇうるせぇ、声を取り上げてもまだ喚くか」

そう言って鬱陶しそうに私から目を逸らした目の前の黒曜石の青年はわざとらしく溜息を吐いた。私の体には蔓の様なものが巻き付いていて、身動きが上手く取れない上に、先程までは問答していたのに突然うるさいからと言われて声を消されてしまった。どういう原理で声を消したのかは全く分からない。けど、とりあえず現状を説明して欲しい。どうして私を攫ったのか、蒼達に危害を加える理由はあったのか、それも、私達から離れた場所に居た日和ちゃんにまで。青年を睨みつけると、鼻で笑われただけで、意図も簡単に流された。こんの根暗キノコめ!!

「今とンでもなく失礼な事考えただろ」

言わせた方が悪い。私は説明を願っただけで、こんな根暗キノコに声を取り上げられたり拘束されたりするいわれは無いんですけど!そう眼力で訴えると少しは伝わったのか、青年が私…の後ろに居る、全く同じ姿をした黒曜石の青年に説明はお前がしろ、と告げて突然姿を消した。蒼達がよく使う瞬身とやらだろうか。特に反応を見せなかった後ろの青年の方へ恐る恐る振り返ると、青年は無表情のまま笑うというちょっと怖い顔をしてました。

「あの人は酷いことをします」
「…?」

そう言ってから、拘束を解きます、と言葉にした通り彼は蔓を取り外してくれた。声も戻しましょう、と喉に手を充てられて少ししたら何時の間にか声も戻っていた。椅子に座らせられたまま私は拘束されていたから、必然的に立っている彼を見上げる形になるんだけど、彼は依然として私を見下ろしているだけだった。…怖いですよ、あなた。

「あの、」
「…私も酷いことをしました」

うん、掴めない。話の切り出すタイミングもそうだけど脈絡も何も分からないよ!困惑した私を気にする様子もなく青年は顔に掛かった髪すらそのままで、また無表情のまま笑った。

「強かったです、三人とも。でもナルト、シカマルには怪我を負わせました。ヒナタさんに至っては視力を奪わせて貰いました。私は酷いですよね」

一瞬、思考が止まった。日和ちゃんの、視力を奪った?じゃああの子は今、どうやって生活してるの?そもそも襲った場所は?病院から離れているなら、目が見えない状態で歩くなんてとてもじゃないけど無理だっていうのに、そもそも、どうして彼らは蒼達を襲ったの?

「貴女は私を、おぼえてますか」

様々な疑問が浮かぶ中、私の様子をやはり気にしない青年は新たな問いを私に投げた。おぼえているかどうかなんて、初対面の人に聞くのは可笑しい。訳がわからない、そんな顔をしていたんだろう。

「そうですか」

呟いた青年はまた、無表情に笑った。











「バァカ!何簡単にあの人を盗られてるのよ!見損なったわ本当に!!」
「うるせーな、安静にしてろ安静に」
「そうだよヒナタ、眼にも良くないって」

八つ当たりなんて、餓鬼臭い。そんなの自分が一番分かってるわよ。それでもわざと流して甘えさせてくれるシカマルが悪いし狡いんだわ。椅子に座りながらスルスルとリンゴを剥くカカシもお気楽過ぎてイラッとくるけど、今は確かに眼を治さなきゃ意味が無い。あの日現れた黒ずくめにまんまと視力を奪われた私は、3日前に目を覚ましてから何度も精密検査を受けては凡ゆる方法の治療を受けている。けど案の定どれも上手く行ってない。九喇嘛の言っていた通り、あの人の右手と同じ作用が起きているらしく、私の視力を奪い続けているチャクラが眼球に入り込んでいる可能性がある為、医療式も医療の為のチャクラも無効化されてしまっている。視認こそ出来ないものの、気配やチャクラを張り巡らせる事で生活に支障は何もきたしていない。寧ろ皮肉にもいい修行になってる。

「ま、ヒナタ自身のチャクラに黒ずくめのチャクラが干渉してなきゃいいんだ。要はその邪魔なチャクラを取り除けりゃ視力は自然に回復する筈…って言うのが俺の読み」
「それにしたってシカマルの太腿の傷だって治りが遅いじゃない。少なからずも黒ずくめのチャクラに触れられると人体に影響があるって判断は無いわけ?」
「これは俺個人のスペックだろうと踏んでる。実際ナルトの掌の傷はもう癒えてる」
「初耳だわ」

リンゴを剥き終わったらしいカカシに爪楊枝を刺したリンゴを手渡される。どうやら私が苦労しないよう一口大に切ってる辺りカカシの人の良さが出てるけど、私からすると主夫にしか見えないわ。口に運んだリンゴの味を楽しんでいると、シカマルが話を続けた。

「今ナルトは黒ずくめの情報を洗ってる。全く収穫は無いがな。それと同時に佐倉ハツの件も進めてる。本人に何故か中々お目に掛かれないのが謎だが」
「…ナルトに、無理をしないように言っておいて」
「明日辺り来るだろうからそん時に言えよ。悪いが俺はお前達ほどショックは受けてない。確かに名前には世話になったし、任務の為の重要人物だから奪還には精を出すが」
「シカマル」
「…」
「後の報告は俺がするよ。もうナルトの所へ戻っていい」

有無を言わせないカカシの声が病室に落ちた。少しの間を空けてシカマルは病室から出て行った。今ばっかりは、この眼が視力を失ってて良かったと思う。首を窓の方へ動かすと、カカシの手が私の頭を優しく撫でた。

「…仮にも暗部では上司なんだから、気を付けなさいよ」
「だいじょーぶ。年長者として君を守っただけだよ」

だから何も気にすることはないよ、そう言ってリンゴをまた手渡してきたカカシを、視力が戻ったらぶん殴ってやろうと心に決めた。










「うるせェぞ、シカマル」
「何も言ってねーだろ」
「うるせェよ」

そう言って書庫室で禁術の巻物を読み進めて行くナルトの後ろ姿に溜息を吐いた。何が言いたいのかは分かるが、今の俺は冷静になれそうにない。読心術に長けてるナルトは意識しなくても不意に聞こえてしまう事も多々ある。別に何を聞かれようと困った事はねーけど、今までの中で名前に対してこの焦れた感覚を覚えるのは初めての感覚で。それをナルトに読まれるのは少し気恥ずかしいものがある。

「佐倉ハツは?」
「見付け出した。だが明日にならないと自宅には帰らないらしい」
「…明日か」

ナルトの言葉を聞いてまた、ジリジリとした感覚が奔る。

「シカマル」
「うるせー、だろ。分かってる」
「アイツが事を起こした訳じゃねェし、アイツ自身は裏切ったつもりはないだろうな」
「…」
「餓鬼臭ェのは認めた方が幾らか楽になる。心配なら心配で、自分から行動を起こせ」

ナルトの言葉には返事をせずに、俺は書庫室を出て、名前が連れ去られた現場の執務室前に向かう。ナルトの言う通り、何時までも信用していないフリをするのは疲れる。心からの信用とは言えないが、名前の作る飯を疑いなく食べたり、部屋の掃除に入られても腹が立たなかったり、服まで洗わせるのは気恥ずかしくて持ち帰ってるが、たまたま忘れたそれが綺麗に干されているのを見た時は死ぬ程後悔したがそれ以来もう疑うのがどうでも良くなった。いつの間にかすっかり毒気を抜かれてる事に気付くのが、餓鬼臭い我儘で嫌だった。

「…やっぱり痕跡は残ってねーな」

壁や床にチャクラの残滓が残っていないか確認するが塵程も残っていない。執務室の鍵代わりの封印を解いて中に入ると、薄暗い部屋の中に人が一人、部屋の中心にあるナルトの机の上に座っていた。

「…本当にテメーは、一々腹が立つな」
「やぁどうも。先日はお世話になったね」

清々しいまでの笑顔を浮かべた黒ずくめが、そう言った後に口端を上げて笑った。






----------
一話完結が出来ない虚しさ。
次から少し進展していきます。




bkm
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -