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昏い。

思考が重い。

思考?体?感覚?

とにかく、重い、し、昏い。

自分が今、目を閉じてるのか

そうじゃないのか、分からない。

でも、

それすらどうでもよく感じるような

そんな昏さの中、また思考が、

沈んでいった。












「っ痛てーな…生きてるか、ナルト」
「…ああ」

掌が熱い。シカマルの声がする方へ首を動かすと口の端から血を流している姿が見えた。俺と同様、体は木に預けている。視線を掌に落とすと、しっかり掌を貫通した苦無が存在を主張していた。その苦無には俺特製の転移式の札が貼り付けられている。転移先の部分は嫌味とばかりに書き換えられていた。恐らく此処は国境近くの森の中だろう。状態を起こすと内臓に痛み。肋が折れている感覚もした。

「俺も肋イッてる」

シカマルの舌打ちが小さく反響する。掌の苦無を引き抜いて、シカマルの居る大木に移動して緩慢な動きではあるが肩を貸して起こしてやると呻き声を漏らしながらシカマルも立ち上がる。

「痛ッてー、増血丸持ってねーよな、ナルト」
「無い」
「あー、ヒナタが気付いてりゃいいけどよって…おい、ナルト止まれ」

シカマルの声を聞いて、里へ向かおうとした足を止める。シカマルの視線が俺の苦無が刺さっていた掌を見る。それに習うと、俺の掌からはまだ流血が治まっていなかった。九喇嘛のチャクラが流血を止めようとするが、チャクラがウネウネと波打っているだけで止血されていない。

「…」
「九喇嘛、なんか言ってんのか?」
「恐らく名前の右手の様な作用らしい」
「チャクラが通じねーってヤツか…なら止血してから向かうぞ。俺も止血しねーと」

今度は俺が舌打ちする番だった。シカマルをもう一度座らせてから其々止血をする。物理的にどうにか出来る分、まだ救いはある。止血をしてから影分身を先にヒナタの元へ向かわせる。此処から里までは恐らくこの状態なら丸一日は掛かる。影分身が半日で着くとしても、帰って来ない俺達を気にしてヒナタならアジトに行くだろう。術の痕跡が残っているのを見て俺達を捜索するだろうが、そこから逆算したって一日近くは掛かる。

「あの黒ずくめ、あんなに動けるとは思わなかったな」
「…気配も、無かった」
「名前とは違うな。本当に無かった。名前は薄いっつーか、視認して確実になる気配」
「あいつの声が無けりゃそのまま気付かず拉致られてた」

シカマルとそんな会話をしながらもう一度肩を貸して立ち上がり、里へ向かった。木々の間を飛んで移動するが、肋と掌の痛みと共にあいつの顔が思い出されて苛つく。あいつは異変に気付いて手を離そうとしていたが、間に合わなかった。咄嗟に黒ずくめを仕留めに掛かったがこの様。仕掛けは躱されるは、術は当たらねェ。体術に手応えはあったが黒ずくめのが地味に上だった。一瞬見えた落ちる直前のあいつの眼が俺を捉えた時の隙を突かれて国境近くまで飛ばされた。見るからに惨敗。苛立つ俺にシカマルが隣で溜息を吐いた。











「オハヨウゴザイマス。聞こえますか?」

「感覚はありますね。先程は手荒な真似をしてすみませんでした。とりあえず意識を保てて居るのなら一安心です。」

「今貴女は薄ら眼を開けています。焦点は合っていません。慌てず、確実に私へ意識を向けてください。」

「上手です。その調子で残りの感覚も取り戻してください。私はもう一人の邪魔者を無力化しなければなりません。」

「心配しないでください。殺しはしません。お察しの通り、ヒナタという女性です。ナルト、シカマルのお二方も生きていますが怪我は負わせました。」

「あまり怒らないでください。こうしなければ貴女と会うことも侭ならなかった。苦肉の策です。」

「今貴女は混乱している。私が戻るまでどうか冷静になり、意識を覚醒させ、感覚を取り戻すまでに回復していてください。」

「それではまたのちほど。」










「遅い」

一人リビングで待機している自分が馬鹿らしく思えてきた。最近は四人で夕飯を摂る事が日常となっていたから待っているのだけど、もう夜の八時を回っている。この時間にはとっくに夕飯は済ませて、交代でお風呂に入っている時間なのに。私以外の三人とも帰らないなんておかしい。日中、あの人が喜ぶと思って買って来た四人分の箸もあるのだから、私の羞恥心は最高潮に達したどころか冷めてきた。ナルトには狐、シカマルには鹿、私は猫、あの人は犬。揃いの絵柄で合わせた箸が未だ出番は無いのかと私を責めている気がして視線を逸らした。

「…まさか、整理が終わってない?」

ナルトが使えない事もないとは言っていたけど、あの量だもの。もしかしたらまだ書類整理してるのかもしれない…。少し様子を見に行ってみよう。そう思うと同時に座っていた椅子から腰を上げてホルスターといつも持ち歩く用具入れを腰に付けて隠れ家を出る。結界を組み直して死の森の中を移動する為に足を踏み込んだ瞬間、視界の端に光が奔る。感覚的にその場から大きく移動して干渉を受けないようにチャクラ膜を体面に張る。先程まで私のいた位置に苦無が刺さる。続けて苦無の雨が振るも躱せる範囲。ホルスターから苦無を抜き取って、眼前に構えた瞬間、腕に伝う衝撃と重み。目の前には黒曜石の眸があった。直ぐに重さは消えて、代わりに死角方向から掌底が打ち込まれる。顔面目掛けてくるそれを足で下から蹴り上げて軌道を逸らす。空を切る音の後に続けて肘打ちをまた顔面狙いで繰り出してくる。鬱陶しい。白眼を発動して点穴を探る、けど、それが見当たらない。一瞬の動揺に卑しく喰い付いて来る黒曜石の眸は何処までも昏く、繰り出される必殺を躱しながら大きく距離を取った。

「いやはや、女性なので手柔らかにしていましたが」

黒曜石が口を開く。昏い眼がゆっくり地面を伝い、やがて私を見た。

「それでは敵わない。やはり貴女も強い」

そう告げて、和風の服の胸元に手を忍ばせ、そこから見覚えのあるものを取り出して、それを被る。

「名前さんのものです」

オリーブ色の、キャスケット帽子。私が装いを変えなさいとあの人に告げて、その日の内に、一緒に買いに行ったもののひとつ。今日、あの人が被っていたもの。日中あの人の居た机の上に置かれていたそれが、どうして、

「見覚え、あるでしょう?」

小首を傾げて言う黒曜石が、初めて笑った。

ーー瞬間、気道の締まる感覚。ああ、首を締められている。反射的に喉を折られる、覚悟をした。ゆっくり体が持ち上げられて、足が地面から離れる。安定を失う前に横薙ぎ蹴りを繰り出すも簡単に防がれて、序でとばかりに太腿へ苦無を突き刺された後、更に首を締める力が強まった。指だけでなく爪まで食い込んでくる。痛みもあるけど、息苦しさに脳がアラートを鳴らす。

「その眼、邪魔ですねえ」

遠退く意識の中、黒曜石の左手が私の眼に近付くのを最後に、私の意識は途切れた。









「え!?」
「?先輩、何かありましたか?」

先に居酒屋に入ろうとしたヤマトの声を無視して、たった今消えたヒナタの気配に集中する。…消えてはない、ケドこれは落ちてるな。マズイ。反応が微弱過ぎる。佐倉ハツさんの知り合いが経営する居酒屋にまで来たけど、優先順位は生命の維持のが上だ。再び投げられたヤマトの疑問の声を無視して、瞬身しながらヒナタの元へ向かう。方向は隠れ家の方?…って事は名前ちゃんを狙った敵襲の可能性が色濃い。とりあえず分身に火影への報告を任せて、ヒナタを探しながらナルトやシカマルの気配も探るけど全く見当たらない。こんな時に二人は何してんの!そう思ったと同時に地に倒れているヒナタを発見した。

「ヒナタ!」

太腿からの出血が酷い。直ぐに止血をしながら増血丸を飲ませようとするけど完全に意識が落ちている為出来ない。口移しで飲ませてもいいけど、起きた後に殺されそうだからあと五分程度で着く医療班に任せよう。ヒナタの側を離れずに辺りの状態を確認する。近くには医療班以外気配を感じない。ヒナタの太腿の傷は苦無のものだったけど辺りに苦無は一つも落ちていない。ヒナタのものであろう苦無は一つだけ落ちていたけど、血は付着していなかった。視認した限り、首筋には手形や手刀を叩き込まれた後はなかったし、恐らく腹を思い切りやられたか幻術を喰らって落とされたんだろう。どっちにしたってなんなのこの状況。全くもって理解出来ない。

「どうなってんのよ…」

苦い気持ちで呟いた言葉は、存外重かった。







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ガッツリ戦闘シーン書いたのすごい久し振り。




bkm
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