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退屈からの解放…いや、孤独からの解放のがあの子達には合ってるのかな?

積みに積まれた書類の仕分けをしながら、つい先日対面した名前ちゃんの姿を思い浮かべる。感想としては、どこにでも居る普通の女の子だ。歳はナルト達と一回り以上も違うけど、彼らの思考についていける程度には頭の回転は良かった。別の世界から来たとかいうトンデモ設定には驚かされたけど、鞄の中に入っていたケイタイだとか言う電子機器…いや、精密機械?って言うんだっけ。アレを見せられたら信じる他無くなる。メール?だとかテレビ電話?とか、変なのも見せられたし。ま、極め付けは人一倍ナルトを護ろうとするヒナタが折れていた事実だ。まだ警戒はしていると口では言ってたけど、あの家でご飯だとか身の回りの世話をさせてるんだから警戒なんてしてないデショ。まだ自宅へ衣類を全て持ち帰ってるシカマルの方が警戒を解いていないと思う。ナルトはどうなんだか分からないけど、とりあえず信用はしてるんだろう。良くも悪くも、ナルトは器用になってしまったから。

「おいカカシ」
「ん?噂をすれば何とやらだねってああ、変な噂はしてないよ?」

後から付け足した言葉も何時ものように無視されて、一枚の紙を手渡された。紙には人の良さそうな老婆の写真と、その身辺の情報が暗号化された文字で書かれていた。素直に疑問符が浮かんで、適当に身辺情報を流し読みするも特に目立った人物ではない事を再認識する。この老婆の何を指摘したいのだと顔を上げると、ナルトが一言、もっと調べろと告げてきた。もっとって、こんないち里民を?俺の反応にナルトが鬱陶しそうに舌打ちする。簡易的ではあるが名前ちゃんがその老婆に会った日から元気が無くなったと告げられた。何かしら理由があるのだろうけど本人はそれを話さないし此方からも聞き出せない。だからお前調べろ、と。

「俺、この書類の山の仕分けしなきゃなんないんだけど」
「大変だな」
「手伝ってよ!それか変わってやるよの一言ちょーだい!」
「うるせェ黙れやれ」
「ねえ、俺の扱い名前ちゃん泣かせた時から酷くない!?」

叫んだ俺の声を無視して、ナルトは瞬身で姿を眩ませてしまった。酷いよ相変わらず。部下をなんとも思わないなんて!7歳に何望んでんだってシカマルにも怒られたけど!そんなレベルで文句言うなんて暗部の風上にも置けないわねとかヒナタにも言われたけどさ!

「ハァ…佐倉ハツさん、ね」










「え、カカシさんの手伝い?」
「ああ」
「んー、もう家事も済んじゃったし…お昼ご飯は蒼で最後だから大丈夫だけど、私でも出来るの?」
「書類の仕分けだから問題無いだろ。暗号の解けない奴がやるんだから情報の漏洩の心配も無い」
「あれ、なんかムカつく」

ご飯を食べ終わるなり私にカカシの手伝いをする気あるかと問うた蒼に返事をしただけなのに何故か貶された気がする。食器を全部洗い終わってから腰エプロンを外して、外に出る時用の身支度を開始する。日和ちゃんからの指令で、変装とまではいかないが装いを変えなさいとの指令が出されたのだ。普段下ろしたままの髪はポニーテールにして、普段は付けないヘアピンで右の前髪が落ちないようにする。化粧は得意じゃないからしない。服装はシンプルなものだけどボーイッシュを意識する。これは佳鹿くんの提案で、いざという時に即行動しやすい服装の方がいいと言われたから。基本的な防衛意識は元の世界と変わらないから少し安心したのは皆には内緒にしてある。最後にキャスケットを被る。支度の整った私を見て、蒼が瞬身という忍術を使ってあっという間に暗部のアジトとやらに到着した。そこからは歩いて書類の仕分けをしていたという部屋に向かった。到着した私を迎えた部屋を見て、思わず言葉を失う。いやぁ…本当にこれは山だよ。机の高さが腰の辺りまであるからだとしても、どうして私の身長くらいの高さまで書類が積もってるのかな?寧ろ絶妙なバランスで積む技術の方が凄いよ!

「俺も書類整理しなきゃなんねェから、分からん書類は新たに山作っといて良い。それはカカシにやらせる。」
「…了解でーす」

呆然としながら、道中教えて貰った暗号の法則を一番低い山のてっぺんから一枚ずつ取って照らし合わせてみる。確か山みたいなハンコと川みたいなハンコがあるのはお礼系ので、火と木のやつは重要事項系の。星型のが直接頼まれた任務とやらで、何も無いのは外部からの交渉系。拇印してあるのは急を要するやつ。バツ印のはクレームとか、なんて言うか物申す系のもの。…おお、全部分かる…!何が書いてあるのかは全く分からないけど本当に私仕分け出来てる!て言うかバツ印多いんですけど!クレーム系でしょバツ印って…!何してるの蒼達の職場の人!山と川のやつ、最初の一つしかないんですけど!!悲しいよ私は!うう、と偽物の涙を堪えながら仕分けを続けていると、幾つか星型のと、火と木のが出て来たので蒼へ渡しに行く。この二つは直接くれと言われてたのをさっきまで忘れてた。絶対チョップされるから何が何でも言わないけど。

「クレーム系が抜きん出て多いんだけど」
「テメェ等が依頼してきた癖にイチャモン付ける奴等が増えたんだよ。やれもっと静かに見張れ、もっと静かに殺せ、依頼受理されるのが遅いとかくノ一を指名したのに男だったとかな」
「うわ…ドン引きっすわ…」
「だからクレーム系は日和に一発で視させて、参考になるもの以外は焼却処分」

さぁ!続きをやろう!とワザとらしく声を張ってまた書類の積まれた机へ戻る。ある意味蒼達の職場の裏を垣間見てしまった。もう無心で仕分けを進める事にして、自分を奮い立たせた。











「ねえ蒼!これだったらあの人気に入ると思う?」
「本人に聞け」

あれから二時間ほど経った今、約半分くらいの山々を捌き終わっていた私の耳に聞き慣れた声が届いた。あれ、この声は間違い無く日和ちゃんの声だ。蒼の言葉の後に書類の山から顔を出すと、こっちを振り向いた日和ちゃんが信じられないようなものを見る目で私を見つめていた。え、ちょっと悲しいよ?

「カカシに調査を依頼したから代わりに頼んだ。使えない事も無い」
「…ッ!!」

蒼の言葉の後にかぁっと頬を赤くさせて、日和ちゃんが部屋を出て行ってしまった。え?私避けられた?ショックだよ?心に傷を負ったよ今!状況が飲み込めなくて蒼に視線を送ると、早く作業に戻れと言われてしまった。どうする事も出来ないので、心に傷を負ったまま私は仕分けに戻った。

「それにしても本当クレーム多いね」
「手ェ動かせ」
「そろそろ飽きてくるよ蒼くん」
「この無能が」
「酷い。辛口がロイヤルストレートだよ」
「意味が分からん。あと何時間掛かる」
「んー、一時間ぐらいかな」
「三十分でやれ」
「鬼畜!」

叫んだ私の頭上を何かが掠めて、後ろの柱に突き刺さった音が聞こえた。木屑みたいなのが落ちてきてるって事は苦無かな?と思って振り向いてみると、予想通りの苦無が三本ほど刺さってて自然と涙が溢れてきた。即座に書類整理戻った。


結局書類整理は三十分で終わる訳がなく、途中やってきた佳鹿くんが手伝ってくれて、一時間半で終わった。結局私が分からなかった書類は佳鹿くんが済ませてくれたのでカカシさんの仕分け仕事は残らずに済んだ。手伝ってくれた佳鹿くんには今度気に入ってくれたポタージュスープを更に改良した私流スーパーポタージュスープを作ってあげよう。

「そういや家で日和が何かブツブツ呟いてたけど何かあったのか?」
「さぁな」
「あ、さっき私の顔見て走って帰っちゃったから私が何かしたのかも」
「あー、名前関係か」
「うん?」

良く分からなくて曖昧に答えると佳鹿くんが気にしなくていいと気を遣ってくれた。本当にスーパーポタージュスープ作ってあげよう。そう決心した私に蒼が帰り支度をしろと告げる。書類は分かりやすく区分けしたし、要らない書類はもう焼却部屋に持って行った。軽く机周りも掃除出来たし大丈夫かな。キャスケットを被って支度出来ましたと返すと佳鹿くんと蒼が出入り口に向かう。私もそれに習って最後に扉を閉める。その後佳鹿くんが扉に触れた瞬間、文字の羅列が円を描きながら拡がって、最終的には封という字になって動かなくなった。忍者式の鍵かけみたいなものらしいけど便利なのかそうじゃないのかイマイチ分かんないなぁなんて思っている内に二人ともスタスタと歩いて行ってしまった。早いんですけど!競歩ですかっていう速度!

ちょっと待ってよ、なんて言う暇も無く二人を小走りで追い掛け始めた瞬間、廊下の曲がり角から青年らしき人物が現れて、当然避け切れなかった私は青年に思いっ切りぶつかってしまった。ひぃい!とか変な声を上げた事は忘れてしまいたい。

「相変わらずトロいのな、お前」
「あ、よく言われ……相変わらず?」

青年から差し出された手を握ったと同時に言われた台詞に違和感を覚えて顔を上げる。その先には後ろ髪は首筋まであって、前髪で顔半分は隠れてる黒髪の間から黒曜石の眼が私を覗いていた。服も黒、爪も黒、唇と肌の色の色素がやけに薄くて不気味さを際立たせていた。瞬間、咄嗟に青年の手を握った自分の手を見る。あ、右手じゃん。言い表せない程の悪寒を感じて、何か言うより先に青年の手から逃れようと腕に力を入れようとしたけど、電流みたいなものが体の中に流れて痛みを感じるより先に意識が遠退いていった。ビリビリする感覚の中、蒼が私の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。





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またしても急展開^o^
こっからシリアス&展開続きの予定。




bkm
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