07





コトコト、鍋から僅かに振動する音が聞こえる。因みに後ろからは視線が二つ。そんなにジロジロ見られると味付けに失敗しそうで怖い。振り返ると案の定、蒼とカカシさんは私を見ていた。

「あとちょっとだから、本当に」
「時間がかかりすぎだろ」
「料理舐めてるでしょ蒼って」

ため息交じりに言うとカカシさんがさぁっと顔色を青くして蒼の方を見た。え、なに今更、寿命が縮まる事に恐怖なんてありませんよ?足はガタガタ震えますけどね!

「ハイハイ分かった。味見ね味見。それがしたかったのね!」

そう言って小皿二つにお手製肉じゃがをすこーしだけよそって二人に渡す。爪楊枝も添えたからじゃがいもも食べれるよ!なんか怖い雰囲気とオロオロする雰囲気が流れてくるけど気にしない!気にしたら私が色んな意味でアウトだから、って言うのは二人にも伝わってると思う。

「こんなもので誤魔化せた気になるなよ」
「えっ凄く美味しい!何これ!」
「…」

ウワァ、今まで見たことないぐらいに蒼の顔が凶悪になってる…あれは直視出来ないわー…周りに花が飛ぶ程喜んでもらえたのは嬉しいけどカカシさん、身の危険が迫ってますよ。蒼の視線の矛先がじゃがいもから貴方に変わってますよ!

「ん、これじゃあ蒼や日和も苦戦するのが分かるよ。名前ちゃん天然だし。」
「ほう…そう言って私の油断を誘う気ですね?」
「よしよし、自覚無しだね。」
「え、これ貶されてます?」
「それは気のせいだよ」

カカシさんとそんな会話をしている間、蒼はじゃがいもを咀嚼していた。眉根が寄ってるんですけど不味いなら不味いと言って欲しいです。カカシさんは気を遣って美味しいなんて言ってくれたけどね!蒼に気遣いなんて単語が時点にあるはずない!て言うかカカシさん、今どうやって食べたの?顔にマスクしてるよね?どうやって食べたの?

「そうそう、名前ちゃんがさっき遭った戦闘だけどね」
「あ、はい」
「確実にあれは君を狙ったものだよ。それは理解してる?」

そう問い掛けられて、薄々察してしていた問い掛けに曖昧に笑うとやっぱりね、と苦笑いされた。けど、蒼が私の護衛だというのは余り自覚していなかった。実際に結界だなんだと忍術を見せられたけど戦闘は目の当たりにしてなかったし。血を見たりするのは、本当に人並み程度にしか慣れてないと思う。ていうか日本で血を見ることってそうそう無いし。本当恵まれた環境で育ってるよなぁ、私。

「ま、蒼も君は頭の回転が速いって言ってたから簡略して話しちゃうね。」

ニコ、とカカシさんが笑う。恐らくこれが本格的な話し合いの合図だろう。鍋の火を弱火にして、一応タイマーをかける。最後の最後で肉じゃががコゲたら嫌だし。蒼の隣に空いているイスに座るとカカシさんが再び話し出した。

「率直に言うと、君に死んでもらうと助かる派閥、死なれると困る派閥、中立の派閥がある。中立派は言わばこの隠れ家の住人達だね。そして死なれると困るのは火影。逆に死んで欲しいのは"根"と言う、特別組織だ。…ここまでは大丈夫かな?」
「…大丈夫です。」

予想はしていたけど、本当にそんな事態が起こっていたのか。しかも、私を生かしたいのは私を今でも疑っている筈の火影様。それに反するのが特別組織の"根"とやら。この単語は時々日和ちゃんや蒼から聞いてるけど、ここでネタバラしされるとはね。思わず苦笑いしちゃったよ。隠れ家の住人達って言うのは、もしかしなくても蒼達のこと。蒼達は火影の指示に従っているから、火影はかなり慎重派な人なんだなぁ。君に生きて貰わなければ困ると言いながら、いつでも処分出来る位置に置いているって事か。一つ溜息を吐くとカカシさんが申し訳なさそうに眉尻を下げた。

「ここからが本題なんだけどね。何故、"根"が君の命を狙うのか。…一応聞くけど、心当たりはある?」

カカシさんの言葉の後に蒼が小皿をテーブルに置いた。その表情は何時も通りのポーカーフェイス。まあ、ここで嘘なんて吐く必要も感じないから、蒼の顔色なんて伺わなくていいんだけどさ。何時も彼を気にしてから行動してるから、ここに来て早くも癖が一つ出来てしまったみたいだ。
カカシさんの問いには正直に答えよう。右手の謎の作用とか、日和ちゃんと一悶着起きた時に起こった詳細とか。

「心当たりは、あります」

そう言うと蒼が此方に顔を向ける。カカシさんは少し驚いたようにへえ、と言った。火影様から話を聞いてると言って居たけど、これを知らないって事は火影様はまだ私の情報は掴めてないのかな。…でも、蒼達の事だから報告しないなんて事は無い筈だし…とりあえずこれは後回しにして、カカシさんに一通りの説明をしよう。

「何と言えばいいのか…頭おかしいとか言わないでくださいね、私の右手なんですけども…物を消したり、術を消したり出来るんですよ」
「ああ、お前は頭がおかしいな」
「は!?」

これでもか、と言うくらいに呆れた顔をした蒼が、私の言葉を全否定した。目の前のカカシさんは訝しげに私を見ている。何これ、私が疑われてんじゃん!慌てて蒼の方を見れば、そんな私を無視して蒼はカカシんさんに目配せをして首筋を指差した。何事かと思えば溜息を吐いたカカシさんが首筋を思い切り叩く。いやちょっと待ってよこれ、本当に何事?呆然としたままの私を放置して、カカシさんと蒼の間で会話が繰り広げられて行く。

「虫、何処のだ?」
「んー、これは"根"では無いね」
「…抜け忍か」
「うん。カモフラージュのコーティングもされてたから単独犯でもないし。"根"じゃないけど、依頼元はダンゾウだろうね」
「回りくどいな」
「それ程警戒されてるんでしょ、蒼もこの子も」

…いや、ね?なんて問いかけられても私にはさっぱりですよホントに。自分の為に注いでおいたジュースを一気飲みして落ち着こうとしたけど、どうにも現状の理解は出来なかった。とりあえず分かったのは、また蒼は一芝居打ったらしいと言う事。恐らくはカカシさんの首筋に止まってた虫が原因だろうけど私からしたら寿命を縮める以外のなんでもないですからねホントに!!

「大丈夫だよ、さっきの話は蒼に今聞いたし、ホントだって事もシカマルやヒナタにも聞いてるよ。二人共、もう帰って来てるなら此所に真っ直ぐ来ればいいのにねぇ」
「…日和ちゃん達帰ってきてるんですか?」
「…」
「そんな殺気送らないでよ、俺が言わなくても名前ちゃんならいつか気付いちゃうと思うけど」

また一つ、カカシさんが意味深な言葉を落としていく。なんとなく、嫌な予感がした。恐る恐る蒼へ視線を向けると彼は私の視線を無視して、舌打ちを一つ溢して言葉を吐いた。

「ここ数日、"根"からの接触が目立ってた。だから二人に掃除を頼んでる。アンタに言う必要は無いだろうと判断した」
「…それって、死人が出てるってこと?」

耳鳴りがする。私の知らない所であの二人が、人を殺してる?蒼は掃除なんて比喩を使ったけど、隠語として考えるなら嫌でも答えは絞られていく。私の問い掛けに蒼は鬱陶しそうに溜息を吐いて、そうだとだけ言った。

「…」

色々な思考が頭の中を駆けて、思わず顔を俯かせる。喉が渇いたけど、さっきジュース飲み干しちゃったしどうしよう。いやそれよりも日和ちゃん達に人殺しさせてるの私じゃん、私が疑わしいのと、なんか余計な、謎の右手の作用を発見したのが悪いんだ。最悪だ。
仲良くしたいとか私が言って、心を開いてくれないのも、初めにご飯食べて貰えなかったのも、そもそもの原因は私なんだから当たり前の事じゃん。誰が好き好んで、自分に汚れ役をやらせる奴と仲良くしたいかっての。

「…余計な事言いやがって」
「だってねぇ、イロイロ確認したいでしょ、俺だって上忍の端くれだよ?」
「後が面倒なんだ」
「へぇ、もう名前ちゃんのたーめーに、後のこと考えてたの?」
「…テメェ…」
「悪かったよ、これでも三代目に君達の様子見て来いって頼まれたんだから、これくらいの確認させてよ」

なんか二人が話していたみたいだけど、あまり耳に入って来ない。心的ショックが大きすぎる。ガックリと項垂れた瞬間にキッチンの方からタイマーの鳴る音が聞こえた。今日の肉じゃが、自分でも稀に見る自信作なんだけどなぁ…なんて思っても、こんなことが分かった以上は私の作った物なんてとても食べさせられない。もういいや、タイマーは止めて、ワザと焦がしちゃおう。鍋はダメにしちゃうけどあの子達に無理をさせるよりかはマシだ。そう決めたと同時に立ち上がって、タイマーを切る。でも火は消さない。寧ろ弱火から強火にした。換気扇はフル回転だから煙が少しぐらい上がっても大丈夫。うん、これでいいんだ、そう思った瞬間、頭が陥没する勢いの衝撃に一瞬視界が揺らいだ。

「巫山戯んな、その中に入れた肉もその鍋も高ェんだよ」
「、!?……っ!?」

後ろから手が伸びてきて、火が止められた。換気扇も弱に戻される。恐らくチョップをブチかまされた箇所を押さえるけど後ろには振り返れなかった。だって、今どんな顔をしたら良いのか分からない。私、多分変な顔してるだろうし。いや絶対。

「生憎、お前の思う通り俺は優しくない。かける言葉も何も思い浮かばない。が、余計な事ばかり言うカカシは強制送還した。暫く隠れ家に来れないように印も変えたし、今日買い出しに出たばかりだ。一週間は会わずに済む。だからお前は気にしなくていい」
「長過ぎて何が言いたいのか分からない」
「…」


そう言って半泣きで振り返った私に、本日二度目のチョップが見舞われたのは言うまでもない。







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最後のナルトのセリフが長い。

131009




bkm
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