06





「名字名前?」
「左様。ナルトが見付けよっての、今は観察対象としてナルト、シカマル、ヒナタが隠れ家で監視しておる」
「随分厳重な態勢じゃないですか」

長期任務から帰ったらコレね。珍しくナルト達が真面目に仕事をしていると風の噂で聞いていたが、それがまさか只の女の子の監視とはね。ま、もしかしたら"只の"女の子じゃないかもしれないけど。それを抜きにしたってあの三人が一般人を相手に大人しくしているのは中々想像が付かない。シカマルはノルマ分の仕事はするからまだ別として、ヒナタは気に入らない任務は受けないしナルトに至ってはノルマを達成しようがしまいが気分次第で放棄する事もある。大抵収拾付けてから放棄するけど、大体が暗殺任務なだけに後処理はしないまま帰る事が多い。そんな三人が、先もまだ決まっていない、いつ方針が変わるかも判らない、観察任務をしているなんて。

「気になるようなら、帰りに覗いてはどうじゃ?儂には隠れ家の場所を教えんから、普段どんな娘子なのか分からんしの」
「そーですねぇ、ちょっと覗いてみますよ」
「うむ。では休暇の方じゃが、三ヶ月もの長期任務じゃったからの。三連休与えるぞ」
「…一ヶ月一日の換算ですか」
「分かってくれんか、カカシよ。今のご時世、未曾有の忍不足なのじゃよ。お主のような敏腕忍者が現場には必要なのじゃ。」
「ハイハイ、有り難く頂戴しますよ」

そんな疲れきった演技の笑顔されちゃあ他に言葉がないでしょーよ。溜め息を溢して返せば、今後も期待しておるぞと変わらない笑顔で告げられた。それって休み少ないから覚悟しておくれってコト?
また溜め息を溢してから、ナルト達の隠れ家に向かう前に腹ごしらえをするべく屯所の屋根へ瞬身した。




 ♭



「高い肉を!買うのよ!」
「うるせェよ、分かったっつーの」
「私忘れてないから!君に嘘吐かれたの!」
「あーハイハイどォもすいませんでした」
「心が篭ってない!何より誠意が伝わらない!」
「本当女って文句が多いよな」
「話を逸らすなァアアア!!!!」

憤怒。憤怒ですよ憤怒。つい三日前に、私はまんまと蒼に騙された。しかもその内容が結構えげつないもので、私だけならまだしも周りにも迷惑を掛けてしまうようなものだったから余計にショックを受けた。なのにそれは嘘だと告げられた時の喪失感。何を喪失したのかは判らないけどあの感覚は喪失感に似ていると思う。そしてその嘘の衝撃が強すぎて、私はハヤシライスに入れるための高い肉を買いそびれたんだ。その結果、日和ちゃんや佳鹿くんに大ブーイングを食ってしまったのだ。当事者の蒼はと言えば毎度ながらの食えればなんでもいいと来たもんだから、三日経った今日、例の高い肉を買いに来てるわけで。なんで三日経ってからなのかって言うと、単純に私が次の日に忘れてたから。ここまで来ると自分が馬鹿なんじゃないかと疑いたくなる。

「そう言えば、蒼って今日も非番なの?」
「ああ」
「え、ほんとに?休み多くない?日和ちゃんは週二日休んでるけど佳鹿くんなんか二週間に一日位しか休んでなくない?」
「彼奴は仕事人間だからな。小隊の奴等も纏めなきゃなんねェし、暇があっても神経質だから気になんじゃねェの」
「なんとまあ…佳鹿くんらしい…」

それに比べたら蒼って自由人だなぁなんて思ったら久々に脳天チョップを見舞われた。毎度ながら痛いですそれ。患部をさすりながら蒼を睨んでもスルーされる始末だしなに私、今日ツイてない。

「高い肉…っていざ考えると何にするか迷うよね」
「全部同じだろ」
「ハイ出ました蒼的感覚ー、そんなんじゃご飯食べてても美味しく感じないでしょーよ!」
「知るか」

あ、今絶対面倒臭ェとか思ってるはこの人。よし今日は絶対に肉じゃがやったる!名前の作った肉じゃがが食べたいとか言わせるまでにとびきり美味しく作るかんな!!
一人息巻いて決心すると、何か変なものを見るような目を向けられたけど気にしない。なぜってそりゃあ、もう目の前には主婦達が集う木の葉市場があるから。さあ、ここからは戦場だ…!

「…」
「ん、どうしたのそんな不機嫌そうな顔して」
「…いや、」

ふいっと顔を逸らした蒼に何事かと思ったけど言いたくないならいいや。何だかんだで買い物にも付き合ってくれてるし、本人曰く監視って言ってるけど隠れ家から出る前に冷蔵庫の中身確認してたの見ちゃったからね偶然。そう思いながらにやりと笑えば握り拳を作った蒼から逃げようと市場に足を踏み込んだ。あー危ない。







「ああ、名前ちゃんねぇ!元気のいい子よぉ、最近あのうめぇとこ屋さんでバイトし始めてるって聞いたけどねぇ…あ、今日週末だから買い物に来るんじゃないかしら?なぁに、お兄さんたら名前ちゃんの彼氏?」
「いえいえ、そんなんじゃないですよ」

一先ず入った定食屋で、いつものお喋りなおばちゃんから話を聞いてみた所に寄れば、名字名前は何処にでも居る普通の女の子らしい。血継限界や王族貴族でもないし、大名の娘だとかそーいうのでもない。なら何処にナルト達は興味を引いて側に置いてるんだろう。火影は最終関門も突破したし、あとはダンゾウさえ黙らせればあの子も隠さずに済む、なんて言ってたし。警戒して居るようだけど、なんだかんだで火影もあの子を養う気満々なのが伺えた。その理由として考えるとすれば、恐らくナルト達のストッパー役にでもするつもりなんだろう。

「ああ、あと最近ねえ、名前ちゃん隣に男の子や女の子を連れて歩いてる事が多いのよ。お友達が出来たみたいで私安心したわ〜、あなたみたいにあの子の事聞いて来る人も増えたけど、あの子ったらさすがうめぇとこ屋の看板娘なだけあるわねぇ!」
「え…チョット、それ本当?」
「看板娘の事?そりゃあもう、おっちゃん連中なんて殆どあの子にやれ孫の自慢だ仕事の愚痴だ女房の話だってしに行ってるようなもんよ〜」
「いや、そっちじゃなくて!俺以外にもその子の事を聞きに来てるって!」
「え、ええ…一昨日かしら?あの子の話で盛り上がって、週末には買い物に来てるだろうから、会いに行くって言ってたけれど…確か二十代半ばの男の人だったわ」
「そう…じゃあ俺も早く会いにいかないとね、お代ここに置いてくよ」

「あらやだ…名前ちゃんたらモテ期なのね!ゲンさんゲンさん!速報よ!名前ちゃんの三角関係が発覚したわ!」


銭をお釣りが出ないようにピッタリ置いてから直ぐに店を出て瞬身する。まさかここであの子の事を嗅ぎ回ってる連中が居るとはね…火影の嫌な予感も当たるからイヤだよ、なんて思いながらナルト達の気配を探るとナルトは市場、シカマルとヒナタは其々の任務で里を出ているのか気配ナシ。じゃあナルトの近くに居る変な気配が名前ちゃんて子かな。その確認も兼ねて全速力で市場まで駆ける事にした。







「アンタ、血とか見るの平気か」
「え、なにそれ私の事公開処刑するつもり?」
「違ぇよバカが」
「ナチュラルに酷い…」

言いながら隣で暗い顔をする反応に思わず舌打ちした。最初から護衛だと言っておいたが信じてねェし、自分が狙われて居る事にも気付いちゃいねェようだ。こんなんじゃ理由すら考え付かないだろう。周りを囲まれて行くのが分かるだけに苛立ちも募る。そんな俺の雰囲気に僅かに顔を青くさせて 人並みになら耐性あると思う、と言った。人並みだとか言われても基準がわかんねーよ。
以前のように一人や二人なら幻術で軽く済ませられるが、十人近く居るんじゃ幻術はチャクラの無駄遣いだ。一般人であるヤツにはなるべく血は見せないように捌くつもりでは居るが、確実じゃない。

「…おい、まだ目当ての店は無ェのか」
「え…もうすぐそこだよ、あの黄色の登り出してるとこ」
「そうか。なら血ィ見る必要はねェな。じゃあそこまで走れ。今直ぐだ」
「は、え!?なにいきなり…ってそんな物騒なもん取り出して!」

ギャーギャー言いながらも走りだしたのを見て、やっぱりああいう対象には日頃から危機感を植え付けるのは良い事だと再確認した。案の定アイツを追って加速して行った連中に転移系の札を巻き付けたクナイを投げる。日中を狙えば俺が手出し出来ないと踏んだのだろうが、一般人如きの目を掻い潜れずして暗部が務まるかっつーの。見事敵忍十人の内、四人の足や腕に命中し、転移されて行くのを確認して残りの連中の位置を探る為気配を探す。が、直ぐに対象達の気配が消える。 その変わりによく見知った奴の気配を感知して、一息吐く。目の前に降り立った奴の姿を確認して口を開いた。

「今帰ったのか、カカシ」
「うん。それと火影から聞いたよ、名前ちゃんて子の事」
「そいつが今狙われてたんだ。残りの四人は暗部の牢屋にブチ込んだから今頃は拷問部屋にでも連行されてる」
「そ。じゃあ俺は一先ず転移札付きのクナイ回収して来るよ」
「頼んだ」

そう言ってからこちらを覗くアイツの姿を見て何と無く気が抜けた。狙われてる奴が身ィ乗り出して様子伺ってんじゃねェよ。クナイ回収はカカシに任せてアイツの元へ向かうと情けねェ顔しながら今のは何?と俺に問うてくる。

「隠れ家に戻ってから丁寧に説明してやる。早く買い物済ませろ」
「それ話が長くなるって事!?じゃあジュース買っとこ」
「…」

本当にコイツは神経が図太いんだかネジが緩んでんだか分からねェ。


---------
因みにうめぇとこ屋はヒロインのバイト先の店名です。適当ですみません。

130907




bkm
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -