05




「機嫌悪りィな、ヒナタ」
「五月蝿いわよ」
「そんなに名前の事が疑わしいか?」

溜め息交じりに問えば、突き刺さる視線に相変わらずだと内心でまた溜め息を吐いた。

今日はナルトと名前が定食屋の常連客のサンとか言う孫に世話を焼きに行く日でもあり、名前を試す最後の日でもある。正直めんどくせー事しなくて済むから楽で良い。つい先程終えた任務の報告書をナルトが帰るまで作ってりゃ今日のノルマは達成だからな。一方ヒナタは任務から帰ってから最高潮に機嫌が悪い。ぶっちゃけ任務に出る前と変わらねーけど。その理由は恐らく、もしかしなくてもナルトと名前の事だろう。そう思って声をかけたのが冒頭、今は突き刺さる視線を軽く受け流してるっつー始末だ。

「どう考えても名前は白だろ。限りなくゼロに近い可能性で、自覚がないまま操られている事もあるがそれはこの隠れ家じゃ通用しねー。それはお前も判ってんだろ」
「分かってるわよそれくらい、私の心配はそれより先にあるの」
「…は」

心配、ねぇ。人一倍名前を遠ざけてる奴が心配、ね。つくづく思うがヒナタ、お前はどんだけ不器用なんだよ。俺からの視線にまた「五月蝿い!」と怒りの声を上げてまた苦無を投げる姿に苦笑いした。顔真っ赤だぞ、ヒナタ。

「ま、ヒナタの言う通りここからが厄介なんだよな」
「ナルトだって判ってる筈よ。だから今回の嘘にも"根"と言う単語を混ぜたんだから」
「人の意識は些細な所からってな。名前が気付くかわからねーけど」
「気付いてくれなきゃ困るわよ。あの根暗ジジイにこれ以上ナルトや火影の領域を侵食させて堪るもんですか」
「ダンゾウの野郎、火影はそろそろ歳だからって舐めてんだろ、ナルトや俺等は何時でも葬れると踏んでるしな」

お互いに顔を見合わせて、溜め息を吐いた。
面白くねェな。俺達は突飛し過ぎた才能を普通に活かせる場所だと訊いてこの裏の世界に足を踏み込んだのに、待っていたのは日々の生活と何ら変わらない、畏怖と疑心、裏切りに満ち満ちていた世界だった。元より産まれた時からその中で生きていたナルトはそれが普通の世界だと認識している事も衝撃だった。
それは一体、どんな気持ちで生きてきて、見付け出した心象だったのだろうか。

「…これ以上、彼奴等の好きにはさせない」
「ああ」
「その為には、あの人の存在が必要なのよ」
「判ってるよ」
「だから私は、あの人を、利用する」

元から色の白いヒナタの手が握り締められた事で更に白さを増す。利用される事も、裏切られる事も嫌いなヒナタが自分で利用して、名前の気持ちを裏切る様な事をすると誓う。その心象もきっと、計り知れない葛藤の中で産み出したものなんだろう。だったら俺は、その答えに付き合うまでだ。ヒナタとナルトが、各々産み出した答えに。

「名前を中心に動くんだ、俺も同じさ。ヒナタだけじゃねーよ」
「…」
「それに名前なら、解ってくれるさ」

そう言うと、ヒナタは一瞬驚いた顔をしてそのまま視線を逸らした。

「そこが私とシカマルの違いよ」
「ああ」
「私はあの人に…期待なんて出来ない。」

烏滸がましい。それは俺も自覚してる。何処までも凛々しく、気高くあろうとするヒナタは自分が利用する相手に理解を求めるなんて真似はしないだろう。それこそ逃げだと、一蹴されても可笑しくない言い訳だからだ。その時に知る苦汁をヒナタやナルトは知らなくて良い。お前等二人は自分の進む道を行けば良い。俺はその手伝いをするだけで充分だ。

「…そろそろ帰ってくる頃じゃないかしら」
「そうだな」
「敵側の小隊がやっぱりあの人を手に入れる為に動いたみたいね」
「ナルトが捌いただろ。この気配だと戦闘は無いな」
「幻術かしら?チャクラの消費が何時もより目立つわ」
「だろうな」

森の中に二人の気配を感じて、まず二人の状態を確認した。当たり前だが名前は全くの無傷。ナルトも外傷やチャクラ干渉があった気配は無い。ただ何時もより保有量が少なかった。苦無や手裏剣の消費もねェ所からするとやっぱ幻術だろうな。
そんな事を考えている内にドアが開く。先に名前が放り込まれる形で帰ってきて、後からナルトが入る。僅かだが疲れた様な表情が滲んでいた。

「白だった」
「やっぱりな。おかえり」
「あ、おかえり蒼」
「うわああああん聞いてよ日和ちゃんに佳鹿くゥウウん!!!」

俺達の姿を見るなり名前が泣き付いて来る。ソファーに蹲りながら計画していた嘘の事を話し出す。それを尻目にナルトを見ると余程疲れたのか片手を挙げて二階の自室へと戻っていった。
半ベソかきながら話す名前を宥めながら明日からも続く日々を思って苦笑いした。




〜その日の夜〜

「聞いてください皆さん」
「ん?」
「何よ」
「…」
「蒼に吐かれた嘘でショックを受けたあまり、たっかい肉を買えませんでした。よって今日は肉無しハヤシライスです」
「肉無し…」
「許せないわね」
「忘れたのはアンタだろ」
「ちくしょう…高い肉入れるって心に決めてたのに…ちくしょう…サイドメニューはポテトサラダとキュウリの梅肉和えですちくしょう…」
「まぁ仕方ねーな。キュウリ旨いぞ」
「肉が無いハヤシライスなんて初めてよ」
「食えりゃなんでもいい」
「明日こそ高い肉を!買ってやる!」






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今回はちょいシリアスパートでした。


130706




bkm
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