04




「で?」
「え?」
「どっちの手でそのリボン消したのか覚えてんのか?」
「え……っと…右…?」
「目ェ泳ぎすぎだろ」

思わず溜め息が溢れる。
あれから意識を取り戻したジジイに事情を説明した後、情けなく号泣しながらサンにごめんな、ごめんなと謝るジジイをアイツの気が済むまで宥めさせてやってから帰路に着いた。不意に問い掛ける俺の声に何故か体を縮ませながら言う姿を見て苛立ちを覚えた。

「テメェ、何時までもあやふやな記憶力のままで居る心算だ?」
「そ、そんな事言われても…!どっちかって言うとサンちゃんの方に気が行ってたし!」
「馬鹿野郎が。それが甘ェってんだ」
「今日はえらいむっかつく言い方するなぁ」
「当たり前だ。アンタ、何時までも俺達がお守りすると思ってんのか?」
「…それは、」
「仮に天地が引っくり返ってそんな事が起きたとしても、火影のジジイやダンゾウが許しゃしねェよ」

そこまで言い切ってからやっとアイツの顔に疑問が浮かぶ。会話をして居るだけに分かるが、本当に頭の回転は良いが人を疑うっつー点に働かないのが何ともオツムが可哀想な奴だ。幸か不幸か知らねェが今の所はその純粋さで俺等の勘に障る事がねェが。言葉の続きを待つアイツに、つい先刻届いた火影のジジイからの伝言を伝える。

「明日正午より名字名前の最終尋問を処す事が決定した。これらの事項は当人そして火影及び"根"、暗部総本部隊総隊長の蒼、又火影直属の暗部にのみ公開する事とする。」
「え」
「尚万一にも口外する様な動きがあった場合は口外した本人、本人の三親等まで、口外された者とその一族を殺処分とする」
「ちょ、」
「又、名字名前の逃亡が発覚した場合も上に倣う事を命ずる」
「だ、え、ちょ、ちょっ」
「気色悪い」

意味不明な呻き声を上げながら目を見開いた姿は正直気色悪かった。堪らず言葉になったがその言葉すら届かない遠くまで意識が飛んだ様だった。…確かに、驚くのも無理は無い。見るからに忍でもない女であるのに、謂われない疑いを掛けられて居る中、突然の尋問と来た。口外すれば自分は死に、更に相手や相手の家族に至るまで殺されると聞いて冷静で居られる様な奴じゃ無いのはここ二週間の間で分かりきっていた。勿論口外厳禁の為、日和や佳鹿にも言えない。この状況でコイツは一体どんな反応をする?泣くか?喚くのか?無謀にも逃げ出すのか?相手や自分を省みず口外するか。逸そ開き直るのだろうか。苦々しい面持ちのアイツへ視線を送るとやっと我に返ったのか、俺の顔を見て呆けた顔のまま呟く。そしてそのまま自然と止まっていた足を動かして帰路を進んでいく。俺もアイツの後へ続いた。

「帰ろう」
「あ?」
「悲しい事に、私の帰る場所は君達の隠れ家しかない。何だかんだで、君達とご飯食べたりするの、好きなんだよね。…美味しく作れてるかわかんないけど」
「食えるから良いんじゃねェの」
「ふふ、蒼はほんとそーいう所の感覚が乏しいよね」
「食い馴れてねェしな、家庭の味なんて」

馴れたいとも思わねェ。その言葉が喉まで出かかって、止めた。下らねェ。コイツと会話していると余計な事ばかりが浮かんできやがる。コイツが心の中を駄々漏れにさせているのが原因だきっと。

「じゃあ私が頑張ろう!君に肉じゃがの味を覚えさせてあげる!」
「…ほう」
「あ、でも今日はハヤシライスね」

肉じゃがじゃねェのかよ。内心ツッコミを入れるがコイツにかかれば夕食の献立なんざこんなもんなんだろう。前を歩く背中を見て息が抜けた。想像通りに行かねェな、コイツは。今、心の中はきっと不安や焦りで一杯なんだろう。誰かに話してしまいたい、が話してしまえば総てが終わる。だったら自分一人の身の内に秘めて気取られなければいい。そうやって堪え忍ぶ事に慣れてるのか?時々隠しきれていない、暗い表情が浮かぶが俺には一切の後悔や罪悪感は無い。
何故なら、尋問云々の話は全部嘘だからだ。

「あー、でも最後の晩餐になるかもしれないんだよね…ああどうしよう、たっかいお肉入れちゃおうかなお肉」
「(死なねーけどな)好きなようにしろよ」
「でもーでもでもー食費やらのお金は蒼持ちじゃん?嫌だよそれ、7歳に高い肉買わせるとかえげつなさすぎだよそれ、」
「(7歳に躍らされてるけどな)気にすんな」

今日の嘘の事は前々から火影のジジイにコイツの真意を探ってくれと言われていたから吐いた。勿論日和や佳鹿も知ってる。本当に非番だった俺が今回嘘を吐く羽目になっただけで、もし非番が佳鹿でも日和でも同じ嘘を吐く事を計画していた。
当初の予想通り、確実にコイツは忍ではない。かと言って忍と接触のある人間でもない。嘘が下手なのが良い証拠だ。完璧にクロの線が消えたコイツが、では何故俺の家に居たか。残るはコイツも言っていた時空間忍術。親父しか使えねェ、ある時空間との交信を図り、又その時空間との行き来を可能にする忍術。正式名称すら残さなかった、影に消したはずの忍術が絡んでいるのか。

「――考えたって仕方ないよね。まずは実践あるのみ!高い肉を!入れる!」

応、その通りだ。アンタはしっかり実践して見せた。俺は自分の目で見た。コイツが握ったリボンが、まるで存在していなかったかのように文字通り消えたその瞬間を。それは又しても右手で。日和の特大のチャクラを消したその右手で、エネルギーではない実在するモノすらも消した。本当に大したモンだコイツは。害はないとの確証は取れた。だが変わらず重要人物。この状況を今晩ジジイに話したらどんな顔をしやがるだろうか。

「ああそれと一つ。」
「えっやっぱ駄目?」
「違ェ、先刻の尋問の話」
「あ、ああ、うん」
「あれ嘘だ」
「、」
「アンタの知的障害も無い事が分かったし、情緒も安定してる。考え過ぎるのが難点だがまあ悪くない。っつーわけで、最終関門突破おめでとう。高い肉買って良いぞ」

開いた口が塞がらないと言うのはこう言う事か。只呆然と立ち尽くす姿を見ての率直な意見。帰りが遅くなるから早くしろと告げると、ワッと掴み掛かってくるアイツの腕を掴んで隠れ家まで歩く。

「あんたっ鬼か悪魔のどっちなの!?えっ、人間なの!?人間なの?!?」

ずるずる、ずるずる、アイツを引きづりながら結界まで歩いて、結界を僅かに開く。先にアイツを投げ入れてから隠れ家に入り結界を閉じる。その間も悪魔!鬼!やっぱり悪魔!とか騒ぐアイツの口を掌で塞いで黙らせる。いい加減うるせェよ。鬼だろうが悪魔だろうがどっちでも良い。

「白だった」
「やっぱりな。おかえり」
「あ、おかえり蒼」
「うわああああん聞いてよ日和ちゃんに佳鹿くゥウウん!!!」

隠れ家に入るなり二人に泣き付く姿を見て、今日のノルマ達成。後は任せたと片手を挙げて自室に戻る。ベッドに倒れ込んで変化を解いた。ジジイへの報告はまた後でで良い。流石に今日は疲れた。
アイツを、名字名前と言う存在を狙う輩共をサンやサンのジジイ、アイツに気付かれずに消す為に敵忍へ繊細なチャクラ式で幻術を使ったのが効いたな。今になって左耳から血が垂れる感覚を覚えて気分が悪くなった。能力に身体が付いていかねェのがもどかしい。たかが高位の幻術を使っただけで脳が損傷する、柔で未熟な己を呪った。





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意図せずラストがダークサイドで書いた本人が混乱してる!

130706




bkm
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