03




「お、なんだ?名前ちゃん彼氏居るんじゃねぇか!スミにおけねーなぁ」
「(なななんて恐ろしい事をををを)違いますよ!!知り合い!彼は知り合いです!」
「ははっ照れなくても良いのによぉ」

いやいや、タクゾウさん貴方後ろの彼の顔がどうなってるか見えてて言ってるんですかァァア絶対、いや予想だけどキレてる時の口角を上げてニヒルに笑う笑顔ですよ。今正にあの笑顔を浮かべてるはず!そう思って振り返ってみるとバッチリ蒼と目が合った。

「…」
「…」

無表情デスカ蒼さん。それはそれで困りますわーしかし気にしない。気にしてたら先に進めない。タクゾウさん早く家の中に入れてください。そんな思いを込めてタクゾウさんへ視線を向ければニヤニヤされた。いやだから勘違いしてないで早く入れろってお願いします!もうそろそろ耐えられません!

「名前ちゃんは照れ屋だなァ、こりゃあ暫くジンタさん達と退屈しなさそうだ!」

ガハハハ、と豪快に笑いながらタクゾウさんがやっと家の中へ通してくれた。酷くね、なんで勘違いを広められなきゃならんのだ。一体何の罰ゲームなんだか。そう考えたら私の頭に無慈悲なチョップが振り降ろされてゴッと音を立てた。罰ゲームはお門違いってか。あはは、超痛い!!!










「はじめまして、サンです」
「初めまして!タクゾウさんのお昼ご飯のお世話をしてる名前です」
「おいおい、俺が世話になってんのは店長だろ!」

キャアアアアぷにっ娘だサンちゃんぷにっ娘だ!可愛い!色白で黒髪パッツン、肩まであるサラサラな髪も可愛い!サーモンピンクのワンピースが良く似合ってます可愛い!タクゾウさんが何か言ってるけど無視。サンちゃんの可愛さにエヘエヘしてると空気的な意味で蒼に引かれた。無表情の癖に器用な奴め。そう考えたらまた無慈悲チョップが。そろそろ陥没するわ!その様子をサンちゃんがじぃっと眺めて居たものの、嫌な予感がしたので「この人は私の友達の蒼って言うの!今みたいに暴力振るうから余り近付かないでね!」と先手を打って一線引いておいた。なんか冷気が纏わり付いてきたけど無視無視。素直に頷くサンちゃん可愛い。そしてそのまま蒼に近付いて握手求めるサンちゃん可愛い。あれ、私の忠告スルーですかサンちゃん、あれれれ。

「おにいちゃん、やさしいよ!」
「えっ」
「おねぇちゃんとなかよくなりたいの、きっと!」
「えええ…」
「ほんとだよ!サンうそつかないよ!」

そう言って私の腕をぐいぐい引っ張りながら蒼の近くに連れていくサンちゃん可愛い。ぷにぷにした手がたまらん。エヘエヘしてたらまた蒼に引かれた。どうにかならないのかそれは、と視線で訴えられてる気がするけどどうにかなるものならとっくにどうにかしてるさ。結果、無理!と親指を立てた私に、溜め息を吐いた蒼。その蒼へ笑顔を向けたサンちゃんまじでエンジェル。するといつの間にか居なくなっていたタクゾウさんがタイミング良くお盆に飲み物とおかきを乗せて現れた。

「こんなモンしか無かったが、済まねぇな」
「お気になさらず!サンちゃんに会えただけでも十分です。」
「そうだろう可愛いだろう、俺の自慢の孫だ!」

言いながらドヤ顔でテーブルの上に飲み物を置くタクゾウさん。頷く私の隣から蒼の視線が突き刺さる。だってサンちゃんが可愛いんだもの。いや言いたいことは分かるよ、君は仕事人間だからどうせちゃっちゃとサンちゃんに悩み聞いて解決して帰ってから新術開発してご飯食べて武器の手入れしてお風呂入って寝たいんでしょ。知ってるよ!休日の過ごし方ぐらい予想がつくよ!でもね!子供ってデリケートなんですよ!多感な時期こそ一番大事なんです!だからここは慎重に行った方がいいの!

「サン」
「なあにー」
「兄ちゃんテメェ…サンを呼び捨てにしたな」

慎重っつたろうがよ!!何タクゾウさん焚き付けてんの!?抗議の眼差しを向けると盛大に舌打ちをされた。フン、そんなもん効かんわ!と言ったと同時に(心の中で)また無慈悲チョップが降ってきた。いてーよ。蒼に呼ばれたままのサンちゃんは一人おろおろしている。そんな姿も可愛いです。ゴォォォと青い炎をバックにしたタクゾウさんはスルーして何とかこの部屋から退散させる事にしよう。この際この家がタクゾウさんの家と言うことは都合良く忘れよう。

「そっそう言えばタクゾウさん、店長に頼みたいお料理があるって言ってませんでしたっけ?」
「あん?そんなもん後で良いだろ?」
「今です今今!後だと見せて貰うこと自体忘れちゃいますから!確かキッチンのとこにレシピあるんですよね!見せてくださいさあさあ!」
「コラッ俺は兄ちゃんに言う事が」

無理矢理タクゾウさんの背をぐいぐい押して部屋から退散させる。序でに私もキッチンまで付いていって、レシピを見せて貰う。その間あの部屋をやたらと気にするタクゾウさんが居たがその度に話題を振って部屋に向かうのを阻止した。レシピのメモを取りながら、タクゾウさんの様子を伺えば溜め息を吐いている姿が見えた。

「…本当は分かってンだよ、兄ちゃんみたいな誰も関わっちゃいねー奴がサンと話すのが手っ取り早いのはよ」
「タクゾウさん…」
「だが許さねぇ…!サンを呼び捨てにする輩が居やがるとは…!」
「…」

また再発した青い炎を見て思わず苦笑いになる。どんだけサンちゃんラブなんですか。溜め息を一つ溢して、レシピのメモを取り終えたので部屋に戻りましょうか、と声を掛けようとした時、丁度その部屋から涙を流しながら駆けて行くサンちゃんの姿が。私達には気も向けず、そのまま玄関から外へ出て行ってしまった。呆気に取られたままの私とタクゾウさんを余所に、後から出てきた蒼が不機嫌かつ、面倒臭そうな表情で告げた。

「サン、嘘吐く癖が付いてんな」
「えっ、ちょ…どういう――」

こと、と続けようとした私の言葉を待たず、タクゾウさんが蒼に掴み掛かる。胸ぐらを掴んで蒼に怒鳴るタクゾウさんの顔は怒り一色だった。サンに何を言った、何故泣かせた、と疑問を投げ掛けるタクゾウさんに蒼は更に不機嫌な色を濃くして、溜め息を吐いた。あ、何かヤバイ、そう思った瞬間に蒼は手刀をタクゾウさんの首筋に叩き込んで、強制的に黙らせる。ああ、やってくれたよ彼はもう!!!

「鬱陶しい奴が悪い」
「あーそうですかそうですか。タクゾウさんがウザくてもサンちゃん泣かせて良い理由にはならないからね。」
「チッ」
「舌打ち禁止。今からサンちゃん追い掛けるから、走りながら経緯話して!」

言って、私もサンちゃんの後を追って走る。小さい子供の考える事だし、河原か公園に居るだろうと踏んでまず河原の方へ足を向けた。瞬間、頭皮に痛み。

「毛根がァアア!!!」
「そっちじゃねェよ。サンの気配は家の庭にある木の近くだ」
「普通に!言えよ!髪引っ張んなよ!」
「面白い泣きっ面浮かべてねェで走れ」
「キィイイムカつく!!!」

後で覚えてやがれ!と言ってから蒼の言った通りの場所へ向かう。他人の敷地を荒らしているようで罪悪感が物凄くのた打ち回ってるけど仕方無い。事を荒立ててしまったし、かなり首も突っ込んでしまったからどうにかしないと。木の周辺を探してみれば、丁度庭に入った正面から見た木の裏側にサンちゃんは居た。流石に空気を読んだらしい蒼は庭の入り口で待機してる。

「サンちゃん、」
「違うもん!サン嘘ついてないもん!!」
「え」

嘘?ってどういう…って言うか蒼から経緯話して貰うの忘れてたはー!!私アホか!悲しい!蒼の方へ振り返ると蒼は何も言わず顎でサンちゃんを指す。本人に訊けってか。

「嘘ってなに?どうして嘘ついたって言われたの?」
「サン、何も悲しくない。お兄ちゃんとお姉ちゃんが来てくれて、おじいちゃんもたくさん優しくしてくれるもん…!」

うん、わからん。この一言で嘘を悟ったのか蒼…なんて恐ろしい子!て言うか何で悲しいって単語が出てくるのだろうか。しかも人の名前まで。私と蒼、タクゾウさん。悲しいに似た言葉と言えば寂しい、つらい、とか?

「蒼は悲しいって声が聞こえたのかもよ?寂しい、とか…」
「…!」

びく、とサンちゃんの肩が震える。ははーん、ビンゴか。サンちゃんの中では悲しい=寂しいなんだな。じゃあなんで寂しいと思うことがあったんだろう。

「…話したくなかったら、話さなくても大丈夫だよ。私が蒼の事は怒っておくから、もう何も言わないよ。」
「…おじいちゃん…」
「ん?」
「おじいちゃん、元気ないの、サンのせい?」
「うーん…サンちゃんのせいじゃないよ。タクゾウさんが元気無いのはねぇ、お仕事のせい。沢山頑張ってるんだって言ってたよ。」
「…」

サンちゃんが俯いて何か考え出す。ごめんね、誘導尋問みたいな事して。言わなくても良いと言いながら言わせようとするなんていつから私は腹黒くなったんだろう。エゴにも程があるはホント。そして大事なおじいちゃんを失神させてごめんね。実行したのは蒼だけどごめんねサンちゃん!

「サンね、怪我したねこさん拾ったの。頑張れって、おうえんしたの。怪我もね、なおしてあげたの。でもねこさん、つめたくなっちゃったの。ねこさんにね、かわいいリボン買ったの。でもいないからつけてあげれなくて、サン、ちょっとだけ、ちょっとだけだよ、寂しくなっちゃって、」

言いながら、ばたばたと地面を濡らす涙は止まらなくて、思わずサンちゃんを抱きしめる。小さな手には赤いリボン。小さな鈴も付いていて、コロコロ音を立てる。寂しいと話したサンちゃんはしゃくりあげながら泣いている。きっと初めて生き物の死と言うものを知ったんだろう。サンちゃんの背中をポンポン叩きながら、ゆっくり言った。

「猫さんは助けて貰えて嬉しかったと思うよ、サンちゃんの笑った顔を見たかったかも。だから、無理して忘れようとしないでもいいんだよ。寂しいって言っても、いいんだよ。」

そう言うとサンちゃんはほんと?と聞き返してくる。それに微笑んで頷くと、気が抜けたのかうえええんと盛大に泣き出したのだった。これはもう暫く泣かせてあげないと。サンちゃんが泣き疲れて寝てしまうまで、抱きしめたまま背中をさすってあげた。






「しかしまあ、形に残るリボンがあったら思い出しちゃうよね」

泣き疲れたサンちゃんを抱っこしたまま私は側まで寄ってきた蒼に言う。そう言うものか?とドライな答えが返ってきたものだから苦笑いした。サンちゃんの手に握られたリボンを取ると、コロコロと鈴が鳴いた。その直後、にゃあ、と猫の声が聴こえた気がして後ろを振り向くもそこには蒼しか居なくて。なんだ聞き間違えか。疲れたのか自分、と手に視線を落とせば赤いリボンが消えていた。

「…」
「…」
「え」
「消えたな」
「ええええ!?」

驚きの余り絶叫する。いやいやいやなんで!?なんで消えた!?脳が現状を理解しきれなくて思わず顔を蒼に向ける。蒼には無表情のまま、消えたもんは仕方ねェだろ。と返された。ええそうですともごもっともですよ!!

それから少しして目を覚ましたサンちゃんには猫さんにリボンを送ってあげたよ、と泣く泣く薄汚い嘘を吐いて誤魔化してしまった。それを信じたサンちゃんに笑顔が戻ったのは良いことだったと思いたい。





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長いので一旦区切り(^p^)
130429




bkm
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