02




「名前ちゃんよう、おいちゃんの話聞いてくれるかぁ〜?」
「酔ってなければ聞きますよ」
「あのな、俺にゃ目の中所か鼻から入れても痛くないほど可愛い可愛い、そりゃもう可愛い孫が居るんだよ。あっこれが写真な。可愛いだろ?」
「孫自慢で酔いが覚めるとは…孫煩悩ですね、タクゾウさん」

自然と糸目になってしまうのは仕方ないと思う。

今日もバイトの出勤日で、カウンター席に座る常連客のタクゾウさんに声を掛けられてテーブルを拭いていた手を止めた。今は丁度ピークの時間を過ぎて、ゆるやかな空気が流れているからこんな会話が出来るわけである。次々と孫の写真を引っ張り出すタクゾウさんに溜め息を贈ると眉を潜められた。いやいや、タクゾウさんの仲間内だったら流し素麺のように流されて終わりですよ絶対。しかしタクゾウさんの言う通り、お孫さんはとても可愛い顔をしているので見たくありませんとも言えないのだ。

「で、そのお孫さんがどうしたんですか?」

本当に何気なくだった。こんなにも自慢するのだから、何か萌えたぎるようなエピソードの一つでもあるのだろうと身構えていた私に、タクゾウさんは目一杯に涙を溜めてわなわな震え出すと言うリアクションを取った。えっこれ私のせい!?慌ててお水を新しく入れ直してからタクゾウさんに差し出すと、それを一気飲みして小さく呟いた。

「サンがよぅ…元気がねぇんだよ…いつもはニコニコしながらボールや落書き帳を持ってきて、一緒に遊ぼうって言うのによぅ…縁側の隅っこで泣きそうな顔しながらずーっと外眺めてんだよ…大好きなチョコのおやつも食べたくない、好きなキャラクターの文房具を見ても俯いて縁側に行っちまう…俺ぁどうしたら良いんだ…?」
「まあまあ、涙を拭いてください。きっとサンちゃん、何て言ってタクゾウさんに伝えたら良いか分からないんですよ。」

グスグス言いながら涙を拭くタクゾウさん。本当にサンちゃんが可愛いんだなぁ、と感心してしまう。もう一度お水を入れ直しながら言うとタクゾウさんはまだ項垂れていた。…確かに、今まで元気だったのに突然そんな様子になっちゃったら誰でも心配するよね。

「うーん、好きなものにも反応しないとなると色々難しそうですね…」
「沢山試したんだが、どーにもこーにも…」

ハァ、と今度はタクゾウさんが溜め息を溢した。手の打てる所は打ち切ったって事ね。自分用の水を注いでそれを飲む。私が直接会って新たに刺激を与える、っていうのも手だけど、タクゾウさんがなんて言うかなぁ…

「名前ちゃんがサンに会ってくれたらなぁ…女の子同士だから少しは気を緩めるかも知れねーが」

え、なにタクゾウさんもエスパーなの?この世界の人実は皆エスパー?私が驚きのあまりタクゾウさんを凝視しているとやっぱりだめか?と苦笑いした。いやいやいや、全然駄目じゃないです。こんな可愛いサンちゃんを間近で見られるなんて涎垂らして喜びますよ!!汚ないってか。

「サンちゃんの為になるなら全然駄目じゃないです。」
「言っておくがサンと会う時は俺も同じ場所に居るぞ!」

いやだからエスパーですかって言う。









「ほっとけ」
「ひっどい!!」
「貴女こそ何言ってるの。ロクに此処の地理も知らないで良く出掛ける気になるわね。」
「うわああん蒼と日和ちゃんが苛めるよ佳鹿くゥウウん!!」
「まぁ仕方ねェんじゃね?第一にアンタの身の安全が確かじゃねーしな。」
「やっぱり佳鹿くんのが優しいよ!!」

ザクザクザク、と鋭すぎる視線が二つ突き刺さる。確かに君達は間違った事は言ってないよ!でもさァ!サンちゃん気になるじゃん!一番どうしたら良いのか分からないのはタクゾウさんじゃなくてサンちゃんだと思うんだよ!そう叫ぶと(心の中で)深々と日和ちゃんが溜め息を吐いた。

「いつ行くの、それ」
「えっ」
「いつって訊いてるのよ!」
「えっあ、明日って言われた!」

キッと睨まれたかと思ったら質問を投げられて思わずドモってしまった。しかしタクゾウさんも心配性だよなぁ…思い立ったら即行動とは言うけど、まさか明日になるとは思わなかった。バイトがたまたま休みで助かったよホント。

「明日は私、一日中任務あるわ」
「俺も。任務は一つだが何せ情報量が多いからその処理に手間取る。」
「…」
「え、皆それ何の話?」
「貴女自分が監視されてるって分かってるの?バイトだって知覚障害やカラクリの術を使われていないかを判断するために許したようなものよ!」
「!!?」

衝撃である。本気でそこまで疑われていたなんて…!後から佳鹿くんが それを推したのは根暗のダンゾウ とか言ってるけど国の内情知らない私からしたら誰ソレだからね。

「それで…日和ちゃんと佳鹿くんが仕事あるって事は…」
「面倒臭ェ」
「ひっどい!!いいよ別についてこなくても!!」
「煩せェ黙れ」
「言葉わる!何で怒ってんの!?」
「新術の開発でもしようとしてたんじゃね?確か蒼は非番だったよな?」
「ああ」

至極嫌そうな顔をして答える蒼。嫌ならやめればいいのに、と呟くと素早く伸びてきた手に頭を掴まれた。えっヤバイよ蒼、瞳孔開いてるよ!?そんなに怒る事なの!?

「いたっ痛いんですけどもッ!!」
「テメェの、監視、兼、護衛が、俺の、仕事なんだよ、分かってンのか?あ?」
「こわっここわっ恐いよ佳鹿くゥウウん助けてー!!!」

ただならぬ気迫で言われて身も心も持ちそうにない。恐怖の余り体がガクガクする。蒼超恐いよ!頭痛いよ離してよ!うわああん、と涙を堪えながら暴れていると唐突に痛みが消えた。解放じゃー!と叫んでからダッシュで佳鹿くんの後ろに隠れる。彼には笑われた。それにしても佳鹿くんも酷い。助けてくれたって良いじゃんか!

「本気で怒らせる前に大人しくしときなさいよ。」


日和ちゃんの一言に泣く泣く頷いた。こうして明日一日、私は蒼付き添いの元サンちゃんに会いに行くことになった。


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急展開(^O^)

130208




bkm
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