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「嬢ちゃん!こっちにも生六つ!」

「ハイ只今お持ちしますー!」

怒号。それに近い叫び声であった。此処、木の葉の里だけに留まらず、真昼間の定食屋は激戦地だぞ。私のバイト先が決まったその日に佳鹿くんが言っていた言葉を思い出した。ドン!と失礼だとは分かっていても音を立てて生ビール六つを机の上に置く。おじさん達にまだ昼間なんですから程々に!と一言残している間にもまた横から新たな注文を頼まれる。それらを聞きながらメモして、厨房へ入る。メモを店長の見易い位置に貼ると、奥から顔を覗かせた店長が巨体を揺らして出来上がった料理を指差した。

「これ16卓のね!」

ほほう、私に休ませる暇を与えないんだな。そんな言葉を料理に向かって吐くと、店長がもう一度顔を覗かせて言った。

「ああそれと、奥の部屋の25卓で名前ちゃんにお客さんだよ。同い年位の子達だったから友達かな?」

そうなんですか、と一言も返す暇なく店長はまた奥に引っ込む。作る側も大変ですよね。休む暇が欲しいとか言ってごめんなさい店長!心の中で謝ってから料理を定食用のお盆に乗せ、白米とお味噌汁、漬物も乗せてもう一度激戦地へ踏み込む。喧騒の中無事に16卓へ料理を送り届けてから知り合いが居ると言う25卓へ向かう。この定食屋は20卓以降から全て個室になっているので激戦地よりも静かだ。聞こえても笑い声とか、意図した大声くらい。しかも一番奥の25卓なんか話し声なんて聞こえない。失礼しまーすと声を掛けて戸を開くと、そこには見知った面子が座っていた。

「遅ェ」
「ご注文は何に致しますかー」

蒼くんの冷ややかな目を全力でスルーしてやった。その代償に寿命が5年減った。蒼くんの隣には佳鹿くんが。その向かいには日和ちゃんが居た。揃いも揃って定食屋に来るなんて案外暗部は暇なのかもしれない。そう思ったと同時に蒼くんの手からクナイが放たれて、カッと音を立てて私の隣にある柱に突き刺さった。ごめんなさい。

「名前の様子をジィさんが心配してんから様子見に来たんだ。」
「そうなの?まあ初出勤の時よりは全然マシだよ!」
「なら良いんだけどよ。序でに飯食っちまおうと思ってんだ。」
「了解!お勧めはガッツリ焼肉のスタ丼です!」
「じゃあ俺はひつまぶし。名前の奢りで」
「俺は味噌チャーシューラーメン。アンタの奢りで」
「私はかき揚げうどん。勿論貴女の奢りで」
「えっこれ何ていうイジメ?」

皆さんの何も言わせない様な輝かしい笑顔が怖いです。






 ♭





「うわあああんバイト代が半分なくなったあああ!!!」
「そんなに泣くなよ、これやるからさ」
「やったーミルクプリンだー」

嬉しい筈なのにはらはら流れる涙のワケはなんだろう。て言うか佳鹿くん元から私に奢らせる心算で…!?だからこのミルクプリンもそのホルスターから出てきたの!?悲しい気持ちと複雑な気持ちの入り雑じったプリンを手に乗せていると隣と前からいただきます、と声が聞こえた。あの後注文を店長に伝えると友達なら一緒にご飯食べる序でに休憩を取ってくれと言われたので皆でご飯を食べる事になった。私もいただきますと手を会わせてから頼んだスタ丼に箸を付ける。

「この店は絶好の隠れ場所だな。仮面外せば暗部だともバレねぇし、反対に暗部の奴等も来ない場所だしな」
「その辺は変化してるから問題無いわよ。一応薄い結界も張ってるし。」
「日和は抜かりねェなー」
「佳鹿とは活動スタイルが違うのよ。私は慎重派なの」

二人がすらすらと会話をする横で私は黙々とスタ丼を食べる。店長の作る料理ほんと美味しい。目の前の蒼から送られてくる突き刺さるような視線は無視しよう。ご飯中だもの。その間も佳鹿くんと日和ちゃんの会話は続いてる。……思い返せば、出会った当初から日和ちゃんとは大分打ち解けたなぁ。あれからもう二週間か。…うん、そんなに日は経ってないな。嫌いだと言われてからも大して態度は変えてなかったし、勿論変える気も無かったけど。あの日以降から三人が三人とも隠れ家で殆ど生活をしていると知って炊事、洗濯、掃除を勝手に私が請け負う事にして皆とコミュニケーションを取ったのが良かったのかな。でも私はそれ位しか出来る事が無いし。最初は誰も私のご飯食べてくれなかった上に、私のその行動にブチ切れた日和ちゃんが正に卓袱台返しをして出て行けと全力で攻撃して来たのも今では良い想い出。どうやら日和ちゃんは本気で蒼の事を心配していて、私が他国の忍だとずっと疑っていたらしい。薄々は勘付いていたけど。だって火の国と分類して、その上木の葉の里、忍者が居るのなら他国があって別の国、里、忍者が居るのも当たり前。そこで私がご飯を作って毒を盛ると言う暴挙に出たのだと思ったらしい。その際佳鹿くんが守ってくれたけど蒼は面白そうに見物してるだけだった。マジで鬼畜。鬼。

「で、腕は?普通にバイトしている様だが平気なのか?」

唐突に今まで黙っていた蒼が口を開いた。その言葉に佳鹿くんと日和ちゃんも此方を見る。日和ちゃんに至っては気まずそうな視線だけど。ふと自分の右手に目をやる。箸をおいて握ったり開いたりしても異常は無い。このバイト中も一度も痛んだりなんかしてない。

「全然大丈夫。異常ナシ」
「本当か?」
「蒼くん達の事なんだから、今までの私の動き見てたでしょ?辛そうに見えた?」

私がそう言うと蒼くんは舌打ちをして顔を逸らした。おおう、照れてる照れてる。ふと隣から手が伸びた。それは紛れもなく日和ちゃんの手で。

「…貴女に何もなくて良かった。」
「え…」

その一言に一瞬気を抜いたのがいけなかった。瞬間、ビリビリと電気が体を駆け抜けていく様な感覚が走っていく。駄目だってばああああ!!これだけはいつも耐えられない!!

「やっぱり駄目みたい、蒼。」
「他人のチャクラを吸い込んで消滅させるクセに、医療のチャクラは受け付けない、か。不幸なんだか幸いなんだか…訳分かんねェな、アンタ」
「私が一番分かんないよ!」

まだジリジリ痛む体の腕やら足をさすりながら言うと、食べ終わった佳鹿くんが口を開く。

「にしたって話が可笑しい。あの時の日和の怒りは最高潮に達してた。チャクラの質量も普段より倍増してたし、実際俺も本気出さなきゃ防げねぇ技が幾つかあった。そんで運悪く俺が捌き切れなかった技を、アンタは人間が身を守る為に起こす行動の一つ、咄嗟に出した右手で文字通りに消失させたんだぜ?じゃあその消失したチャクラは何処に?転移系の術でも無いなら時空間系に分類される筈なんだ。それを蒼が捉えられないなんて有り得ない。」
「増しては、仮にアンタの体内に消えたとしても圧倒的過ぎる質量のチャクラだ。どのチャクラにも属さないアンタの肉体が耐えられる訳が無い。良くて筋肉組織の決裂程度だ。最悪の場合は体内から体が吹き飛ぶ。」
「難しい話は苦手なんだってばよー」

ガゴンッ!と鈍い音を立てて私の頭が陥没しかかる。じわりと涙が滲んだ。なんだよう、ちょっと表の君の真似しただけじゃんかよー!!全力で頭を守りながらうわあああん!と声を上げると日和ちゃんが溜め息を吐く。

「今のは貴女が悪い。真面目に話してるんだから。…この話の結論に寄っては貴女、里から消されるのよ?」
「えっ」
「ほらね。やっぱりわかってなかったじゃない」
「変な所で頭が回る癖に後は全滅か」
「なんか蒼くん怒ってる?そんなに物真似嫌だった?」
「…埒が空かないわね。とりあえず、あの時に処置しようとして失敗した医療忍術が効かないって事だけは確定ね。」

言ってからご馳走さま、と呟いた日和ちゃんが箸を置く。私も最後の一口を口へ運んだ。咀嚼する間にも蒼くんからの視線は突き刺さる。まだ物真似の事を怒ってるんだろうか。ちら、と顔をあげてみれば視線がかち合って何故かびっくりした。視線は感じてたけど、いざかち合うと緊張するもんだなぁ。いやしかし蒼くん目の色綺麗。名前の通り蒼色だ。空の色みたい。そう思ったと同時に隣の日和ちゃんが私へ注文をする。…ん、注文?


「デザート。白玉ぜんざい冷たいの。」
「うわあああん!!」


そんな可愛い顔で言われたら断れるわけないじゃないの!!!






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新章突入!
今年最後の更新です(^^)

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bkm
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