一人死んだ。

そう告げると花子の顔から表情が消えた。色を映さない目に不安を覚える。それでも言わなきゃいけない事だから、どんな風に死んだか、最後の言葉は何だったか。そう言った内容も話した。相変わらず花子の表情は無いままだった。カチカチと時計の秒針が進んでいく。時間にしてものの五分も経っていなかったが、鉛のように重い体の所為か三十分は経っていた感覚がする。花子の目に色が戻る。真っ直ぐに俺へと伸ばされた腕を掴んで、胸元に引き寄せる。花子の腕は俺の背中に回されている。小さく震えながら嗚咽を漏らす花子の頭を撫でてやる。死んだ部下は花子の作る差し入れが堪らなく好きで、毎回欠かさず食べていた。話上手で気配りも出来て、頭も回る。戦闘能力についても問題無かった。が、奴は弱すぎた。自分よりも周りを優先する奴だった。戦友が死ぬのなら俺が代わりに死んでやる、そう言う思想を持った奴だった。早死にするから止めておけと、何度も瀕死の状況に追い込んで教えたが奴は止めなかった。こんなに貴方にしごかれているから大丈夫ですよ、と。

腕の中の花子の涙は止まらない。次々に溢れて、俺の服に染みを作っていく。毎度ながらよく涙が枯れないものだと思う。よく根暗な暗部の連中なんか覚えてやがるな、とも。以前、涙を流す理由を訊けば俺が泣かないからだと言った。そんなものは出てこないから仕方ないんだと言ったが、だから変わりに泣いていると。これは自分のエゴでもあるからと、そう言って花子は悲しそうに笑った。
最初こそは理解できなかったが、俺の感覚が欠落している事に気付いた時には花子への感謝が湧いた。花子の涙を知っていたから、部下が死んだ時の喪失感の意味も理解出来た。
もう二度と笑えないアイツの顔を思い出すとほんの僅かに心臓が痛んだ。少し痛むだけでも不快なのに、花子はどれ程の不快感を抱いた上で泣いているんだろう。それを考えるとまた少し、心臓が痛んだ。

暫く泣いたままの花子も漸く落ち着いたのか、涙を拭いて顔を上げた。泣き腫らした表情が痛々しい。瞼に口付けを落としてから腕を離す。ごめんね、と言う花子を見てふとした疑問が湧いた。部下が死んでしまったら花子は泣くが、俺がもし死んだら、花子はどうするんだろうか。俺の変わりに泣いていると言うのなら、俺が居なくなったら、泣かずに済むのだろうか。疑問をそのまま花子へ問い掛けようと口を開くが、あと一歩のところで躊躇いが生まれて口を噤む。これは言ってはいけない、と頭の隅で警報が鳴っている気がした。
そんな俺の百面相を見てか、花子が困ったように笑ってから口を開いた。

「間違っても、もし死んだら、なんて 言わないでね」

そんなことあったら、私は死んでしまう
そう言った花子の震える声と、苦しそうな表情に一瞬、心臓が止まるんじゃないかと思った。未だに締め付けられるような感覚の中、俺も口を開く。

「約束は、出来ない」

俺はあくまでも忍だから。そう言うとまた花子が困ったように笑った。花子は賢いから、そんな事分かってる。女心なんて微塵も知らないから、気の利いたことは何も言ってやれない。ただ嘘は吐きたくなかったから、そう返すしかなかった。俺だって分かってる。命がある以上、いつか終わりが来るのは当たり前の事。神とやらが唯一寄越した、平等のモノ。受け入れようが入れまいが、強制的にやって来るしいつ来るかも分からない。そんな中で守れない約束はしたくない。分かっちゃいるが、死ぬ時は死ぬから。

「好きだよ」
「知ってる」
「ありがとう」
「…俺こそ、」

柔らかい笑顔を浮かべた花子を見て心底安堵する。また笑うようになった。ずっと抱きしめていたかったけれどそれを言うと困るだろうから言わない。どんな時でも、今一緒に居れる瞬間を優先しよう。欲は後回しで構わない。いつか来る終わりまで、花子の思い出を作っていこう。
俺の名を呼ぶ声と笑顔に惹かれて、出会えた喜びに感謝を。







いつかはさよなら


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ある意味死ネタ。
ストイックナルトが書きたかった

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20130402




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