▼兵長と恋人設定
▼ヒロイン死ネタ







力を入れたままの掌が熱を帯びていて、それが痛みから来るものだと気がつくまでにいくら時間が掛かっただろうか。痛覚の次は呼吸がおかしくなった。上手く息が吸えない。いや、息は吸っている。酸素が体に回らない、そんな感覚。なんだってお前、そんな所で寝てるんだよ。不自然な体勢のまま、民家の二回の窓から歪に伸びたガラスが花子の背から胸を貫いて覗いている。滴る赤はまだ真新しいものだと理解出来た。

「リヴァイ!後方から奇行種一体!」

響いたハンジの声に意識が戻る。呼吸も拙くはあるが正常に戻った。その代わりに状況の理解を拒むように脳が痛む。振り向いた先に居た奇行種の淀んだ目を見て思わず舌打ちをした。早くコイツを消せばまだ花子の最期を看取れるかもしれない。考えるよりも寸秒早く身体が動く。アンカーが奇行種の額に刺さり、装置が作動する。急速に景色が動く中、右端から奇行種の腕が動くのが見えた。が、俺の方が早い。身を屈めて奇行種が薙ぎ払うのを回避する。目と鼻の先まで近付いた所でアンカーをまだ腕が戻りきっていない右肩に刺す。額のアンカーを戻しながら奇行種の首筋に移動して刃を滑らせる。何時もの軽い肉を削ぐ感触の後、重力に従い崩れる巨体を踏み台にし刃を仕舞いつつ花子が居る民家へ向かう。辿り着いた頃には花子はもう別の班員に屋根の上へ引き上げられて居た。俺の姿を見るなり班員が青い顔をする。やめろ、素直な反応を見せるな馬鹿共が。

「花子」
「…、…ァ、」
「聞こえてる」

花子の喉から聞きようによっては音にも聞こえなくもない変な音が上がる。ああ、こいつはもう、と悟る以外の答えが見つからなかった。薄く開いた眸も焦点は合っていない。唇の動きは俺の名を呼んでいて、堪らず血の気が失せた花子の掌を握った。

「私達が到着した頃にはもう花子の小隊は壊滅状態でした。この子の他に遺体は未だ見付かっていません」

震える声を無理に張り上げながらペトラが告げる。他の隊員は巨人に喰われたか、若しくは瓦礫の山の一部になっているのだろう。巨人との戦闘において五体満足で遺体が残る事は幸運に等しい。胸から夥しい出血をしているとは言え、花子の幸運はここで最後に発揮されたのだろう。握る掌が緩く俺の手を握り返す。おい、と声を掛けようとしたが花子の唇が言葉を紡いでいた。その言葉は死んで逝く部下達が毎度ながら口にする言葉。

「分かってる。必ず生き残る。巨人共にも食われない。お前の分も俺が背負ってやる」

だから、もう泣くな。そう言うと花子が薄く笑った。もう一度唇が動く。今度の動きは酷く緩慢で、もうこれが最後の言葉なのだろうと簡単に予想出来た。
もう動かなくなった花子の唇を確認してから撤退命令を伝えるように指示する。ペトラが花子へ敬礼をして伝令に出る。遅れてやって来たハンジも半ベソかきながらごめんね、だのもっと巨人の事をたくさん調べるから、だの散々騒いでから他の隊への指示を出し始めた。
死後硬直を始めた花子の手を解ける内に解く。緩慢な動作で深呼吸をする。序でに空を仰いでみると鬱陶しい程の青空が広がっていた。

「…行くか」

呟いて、立ち上がる。後ろからハンジが俺を呼ぶ声がした。遺体を乗せる台車でも到着したんだろう。手近に居た隊員を花子の側に置いて、ハンジの元へ向かう。花子が望んだ通り、俺は最後まで生き残ろう。お前の分も精を尽くして抗おう。告げられた花子からの最期の言葉を思い返しながら改めて誓いを立てた。



私が居なくても、生きて、ほしい


----------
初リヴァイにして死ネタである。
この後帰った後に一人でひっそり泣けばいいよ。

20130827





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -