→その笑顔は反則だから

 ぼうっと窓の外を眺める彼女に、気付かれないようそっと近付く。無表情の中で澄んだ清い目が空を写してちらちらと輝き、そしてようやくこちらに気付いて彼女は顔を上げた。

「優希くん」

 無表情がほろりとほどけて、柔らかな微笑みが落ちてくる。風羽が広瀬にだけに見せる恋する笑顔は、言葉だけでは安心できない広瀬を、穏やかで優しいものに変えてしまう。

「帰ろっか、風羽さん」

 その笑顔を宿す頬にふれたい欲求をそっと抑えて、手を伸ばせば、彼女が広瀬の手をとって微笑んだ。広瀬は彼女の笑顔を見る度に、自分の恋を実感している。



→公認ストーカー

 食べ物で嫌いなものは特になし。好きなものも特になし。成績はいつも上位で、苦手科目も無ければ、得意科目もなし。

「ふむ」
「気が済んだ?」
「見事になしなしなしだらけです。プロフィールになりません」
「仕方ないじゃない。それが事実なんだから」
「では、何か好きなものを」
「趣味とか、そういう話?」
「それで良いです」
「じゃあ、君観察」
「……」
「あ、好きなものあったよ」
「何でしょう?」
「風羽さん」
「……」

 彼は戸惑う私を見てにやにやと笑っている。……意地悪な人だ。