僕と翼が再会したのは星月学園の入学式だった。生徒会長が「アマハツバサ」と口にしたとき、ひゅ、と僕は息を飲んだ。まさか、あの翼がここにいるのか? 僕の従兄弟の、天羽翼が?

 翼と会った最後の日を思い出すと、あの時の空気の重々しさに息が詰まる思いがした。翼は僕を責めていた。明らかに、僕を恨んでいた。高く異質な舞台上にいたのは僕と翼の二人だけ。そこは世界を見渡せながらも閉鎖的で、世界の詳細に目を向けなければ幸せでいられる場所だった。僕と翼で閉じられた舞台。いつかは破られただろうふたりだけの世界を、壊したのは僕だ。外側からは堅く壊れないけれど、内側から叩けば脆い。それを知っていたから、僕は。

 身勝手だったろう。あの時の翼は僕を拒絶しながらも、捨てられる犬のような目をしていた。僕はそれをそのまま見捨てたのだ。頑なに自分の世界を変えようとしない翼を、僕を見限った翼を、僕は捨てた。幼く傲慢な僕を切り捨てるように、大切で閉鎖的な幼なじみを放り出した。

 僕は、もっと広い場所に行きたかったのだ。傲慢さが自分を狭くしていることに気づいたから、広げることにした。今まで見下していた同級生や「普通の人々」を受け入れることにした。それは同時にこれまでの翼と僕の生き方を否定することだった。僕はそうやって普通と、世間と、一般に交わる術を得たのだった。

 三年間の空白と断絶を、埋められるのだろうか。僕は不安を抱きながら宇宙科一年の教室へ向かう。中に、翼がいる。僕が拒絶した翼が。僕を拒絶した翼が。

 扉を開けたと同時に聞こえた爆発音と熱風と「ぬわー!」というアホな叫び声に、僕は目を丸くして一歩飛び退いた。

「…っあち!」

 ぼうっ、と目の前をかすめた炎に僕は目を閉じる。

「あ、あずさ……」

 こちらを伺うような翼の声に目を開けると、じりじりと焦げた自分の前髪が目に映った。親指と人差し指でそれをつまみ上げる。何とか避けたものの、下手したら失明していた。この野郎、と懐かしい感覚がこみ上げてくる。しかしそれは郷愁ではなく、怒りだ。昔もこうやって、翼の滅茶苦茶な実験に付き合わされて、結局失敗して、怒って、怒鳴ったものだ。

「つー、ばー、さーあ」

 一文字一文字区切って名前を呼ぶと、手に持った何か(爆発して焦げた上、ぼろぼろに壊れていた。残骸だけでも趣味の悪いデザインだった)を抱えたまま、翼はぎくりと肩を竦める。

「ぬ、ぬはは……」

 翼は翼のままだった。けれど僕が拒絶して、僕を拒絶した翼ではなく、それ以前の、幼なじみで従兄弟の翼だった。

「……っこの、バカ翼ー!!」
「うわあああ! 梓が怒ったああああ!」
「当たり前だアホ翼! しね!!」

 殴りにかかる僕から逃げようと、発明品を放り出して走り出す翼を追い掛ける。僕達はこうして「従兄弟」に戻った。かつて世界を分けて断絶した僕達は、世界を分けたまま元の関係を目指せるほどには成長していた。それが僕と翼の再会の話だ。