梓は小学六年生のとき、おとなになった。それまでは俺と同じだったのに、おとなになってしまった。おとなになった梓は同級生と仲良く会話するようになって、纏わりつく奴らに冷たい視線ではなく笑顔を向けるようになった。それがおとなになるということだった。梓はトゲトゲした梓を脱皮するみたいに放り捨てて、ニコニコ笑う人当たりの良さを手に入れた。それは裏切りだった。似た者同士の俺達の間は決壊して、泥水が流れ込んで修正できなくなった。

「お前も、こっちに来いよ」

 駄々っ子を宥めるような梓の物言いに、俺は鈍器でガンと頭を殴られるような衝撃を受けた。何だよ、こっちってどういうことだよ。勝手にそうやって、引っ張り出すみたいに手を差し伸べられても、俺はそっちに行くつもりなんてないのに。

 俺と梓は普通じゃなかった。だから俺は梓と仲良くなれたし、梓だってそうだと思ってた。けれど梓は普通でないことの生きにくさに気付いて、普通を求めた。それは裏切りだった。梓は俺と同じ「異質」という舞台の上にいるのを嫌がったのだ。ひどい。梓は、ひどい。何よりひどいのは、それでも尚俺を普通の領域に招こうとすることだ。俺はそっちには行けないのに。行けないから普通じゃなくて、こどものままなのに。

「行かない。俺は、梓なんてキライだ」

 幼いこどもの拒絶は、こどもの顔をしたおとなにしっかりと伝わって、それから数年の間俺達は全く会わなかったし、連絡をとることすらしなかった。それが俺と梓の決別の話だ。