→きっと夢中にさせるから

 俺の方が彼女のこと好きだなあ、と不意に思って、その甘酸っぱすぎる思考にうんざりした。恋は人を狂わせる。まさにその通りだ。まさかこんなに自分が変わってしまうとは思わなかった。

「広瀬くん、一緒に帰りましょう」

 ためらいなく差し出される掌を、ためらいながら握る。その躊躇がなくなるまでどれだけの時間がいるのか、今の俺には分からない。



→ずるいから好きです

 彼は不意に、意地悪な顔つきをする。それは大体二人きりになったときで、彼は私の戸惑いや困惑を楽しんでいるのだ。

 お付き合いを始めたばかりの頃、彼の意地悪は少しだけなりを潜めていた。そして名前で呼び合うようになってから、彼は時折、友人だった頃見せていた意地悪な一面を見せるようになった。彼は私をからかうような挑発的な目で見つめてくる。彼は私の反応を見て楽しんでいるのだ。

 けれどそのからかいの隙間から、照れたような笑顔が覗く。俺はどうしようもないな、とでも言いたげに笑って、ごめんねからかって、と謝る。

「優希くんはずるいです」
「えっ? 何でそんな話に?」
「芳子さんが言っていました。世の中にはギャップ萌えというものが存在するのだと」
「ギャップ萌え、ねえ」
「それはずばり、優希くんそのものです」
「自分のこと棚に上げてよく言うよ」
「どういうことですか?」
「君こそギャップ萌えの権化だよ。絆された俺が保証する」