純潔さは厭わしい。可憐さなど願い下げだ。潔癖は厄介なだけで、無垢は所詮無知に等しい。だからもっと汚れていなくてはいけない。手垢に塗れていなくてはいけない。汚臭に吐き気を催してはいけない。醜いものから目を背けてはいけない。自分を自分として守るために必要なのは、堅固で白い盾ではなく、単なる汚泥に過ぎないのだ。

 そう思っていた。否、そう思わなければならなかった。彼女は白だった。それは厭うべき白であると同時に慈しむべき白であった。髪は深く抗えぬ黒でありながらも美しかった。白とは正反対であるにも関わらず、泣き出してしまいたい程に綺麗なものであった。綺麗という言葉は陳腐過ぎて好ましく思っていなかったはずなのに、それでもそれ以外に言葉を見つけられなかった。

 美しいもので作られた彼女は、心までも美しいものであった。小さな、ちいさな躯に宿った魂は恨めしい程に、穢れないものだ。だからいけない。寄ってはいけない。近付いてはいけないのだ。近付かせてもいけないのだ。

「わたしをみてください」
「いいえ、いけません」
「なぜですか、」
「白いものはすぐに汚れてしまう」
「わたしの髪はこんなにも黒いのに」
「そういうことではないのですよ」
「本田さん」

 厭わしい純潔が、じいとこちらを見ている。ああ、白い。白い。白い。黒い髪が、美しい黒が、私を見つめて、離さなくて。

「白いのは、あなたのその軍服の方ではありませんか」