トニーはジェフ、まさにジェフ・ドーナッツのことが好きだった。それは単なる友愛の域を超越し、トニーはまるで恋する乙女にでもなったかのような心地でジェフを見つめている。金色の髪は毎日だって櫛で左から右へと満遍なく梳いてあげたいくらいだし、眼鏡が曇っていたら細心の注意を払ってそのレンズを磨いてあげたいとまで思う。シャワーのとき不意に見えてしまった、きっと彼も知らないであろう背中のちいさなほくろにもどきどきしてしまって、トニーはもう、わあっと叫んでしまいたい気持ちを抑えるのに必死だった。

 トニーは恋をしていた。その止まない胸のときめきは、トニーの毎日を愛らしいピンクで彩ってしまっている。

 けれどトニーはどうしたって臆病者で、彼に大好きだとは言えても、伝えることはできなかった。その言葉の後にただ、友達としてじゃないよ、とでも付け加えられれば話は違ってくるけれど、トニーはその一言が言えなかった。そしてトニーが意を決して口を開けば、ジェフはこう言うのだ。もう何回目だい、トニー。僕も君が好きだよ。そんなに何回も言わなくていいよ。

 そのたびにトニーは泣きたくなって、そうじゃない、そうじゃないんだよジェフ、と喚きたくなるのだけれど、トニーは寄宿舎の他の生徒と変わらず聡い少年であったから、そうすることも、言おうとしていた言葉を口にすることも、できなかった。ただ曖昧に、できる限りいつも通りに笑って、そうだね、でもつい言っちゃうんだ、と付け足すことしか。そうすればジェフもまた苦笑しながらこう言う。もうその台詞も何回目だか知れないね、と。ジェフがたまに見せる、ほんのちょっとくだけたその態度に、トニーはいっそう魅せられてしまって、またいっそうジェフのことが好きになってしまった。

 怖がりなトニーは、ジェフの大親友だった。それだけで幸せだった。今も昔もそうだった。それなら、これからは? これからも、ずっと大親友のまま?

 不安はいつもトニーのすぐ傍にあって、そう簡単に拭い去ることは出来なかった。トニーはジェフのことが好きで、そのことはトニーを幸せにも不幸にもした。

「ねえジェフ」
「何だい?」
「大好きだよ」
「知ってるよ。もう言い飽きない?」
「ジェフは聞き飽きちゃった?」
「そうだね、少し」
「ひどいや!」

 僕はこんなにも君のことが好きなのに! おどけながら言えば、ジェフは笑ってくれた。トニーはそれに安堵しながら、口の中で色んな言葉を噛み潰した。