那岐は不意にその金色の娘を見て惑う。肩で切られた髪から覗く、すっきりとした顎がひどく胸を打つのだ。ざっくりと、ためらいもなく切り落とした金糸を見て、風早は残念ですねと零した。那岐も、最近良くそう思う。

 じいとその様を見つめていると、なあに、と千尋が尋ねてくる。髪に虫がついてたよと嘘を吐いてみると、なんだそんなこと、と笑って返される。向こうにいたときは苦手だったくせに、この世界にいるうちに虫にもすっかり慣れてしまった。変わっていくのだ、彼女は。もう虫を取ってしまってと那岐に泣きついたりはしないのだ。

「もう軍議に行かなくちゃ」

 二人の時間はもうおしまい。彼女の言葉にその意図がなかったとしても、そう聞こえてしまう。那岐は自分の卑屈さを呪った。立ち上がり背を向ける彼女は一度こちらを振り返る。

「またお昼寝しようね、那岐」
「はいはい、さっさと行きなよ」

 見送る那岐は胸の空虚なんか捨ててしまいたいのに、それがどうにもうまくいかない。彼女の不在は那岐の心を荒らす。ざわざわと不安定な音で那岐を崩そうとする。

 千尋がいなければいいのにと思う。そうしたらこんな虚ろさを味わわなくても良かった。彼女の切られた髪を見て惜しまなくても良かった。

(千尋がいなければ)
(僕は僕の望む自分で、)
(完成された自分でいられるのにね)