※FD真相千木良ルートほんのりネタバレ



→この熱は消えぬまま

 大勢の中で迷子になってしまったことが原因だろうか、緊張していたらしい手はしばらく閉じられたままだった。

「どないした。手、繋ぐんやろ?」
「はい、……?」

 風羽自身も緊張しきって開かない自分の手を見て首を傾げていた。どうして開かないのだろう、と少し焦っているようにも見えた。

 烏天狗はそれを見かねてそっと身をかがめると、幼い風羽の固く握られた拳を自分の掌で包む。それから一本一本、ゆっくりと指を撫で、その頑なな手を解いていった。

「別に焦らんでも、置いていかんから安心せい」

 緊張が解されていって、風羽のきつく曲げられた指がゆっくりと伸びていく。烏天狗は風羽の幼い指がすっかり伸びきったのを見てから、手を離した。

「ちゃんとお前のじいさんのおる所まで、連れてったるわ。何も不安に思わんでええ」

 ぐっと握りこんだ手の中に、迷子になった不安を閉じ込めていたのだろか。風羽はほんのちょっとだけ泣きそうな顔をしていた。烏天狗はそれに気付かない振りをして、片手を差し出す。

「ほれ」

 夏の日に繋いだ少女の手は汗ばんでいた。




→冷たい手でもいいよ

 さらりと額を撫でられて、千木良は閉じていたまぶたを上げる。ソファーから体を起こすと、コートを着た風羽がそこにいた。風羽は横になったせいで乱れていた千木良の前髪を人差し指で直している。

「起こしてしまいましたか」
「元々寝とらん。目ェ閉じとっただけや。お前、エコ部は?」
「終わりましたので、こちらへ参りました」
「さよか」

 離れていく手を掴むときんきんに冷え切っていて、千木良は眉を寄せる。エコ部とは言え、どれだけ長い間外にいたのだろう。

「千木良先輩?」
「エコ部活動はええけどな、冬場は軍手付けるようにせえ。前にも言うたやろ」

 千木良は風羽の両手を引き寄せ、自分の手でそれを包み込む。寝ていなかったとは言え、室内でソファーに寝転んでいた自分の手の温度はなかなかに高い。自分の手から熱が逃げていって、風羽の手の冷たさと混ざり合う。

「手が冷たいままだと、千木良先輩がこうしてくださいますので」

 だから軍手が無くても平気です。唐突に風羽がそんなことを言うものだから、何だか自分の行いを無性に恥ずかしく感じた。つまり、風羽はこうしてほしいから、寒くても軍手をしないのだ。

「……こっぱずかしいこと言うな、アホ」
「先輩の手が冷たいときは、逆に私が温めて差し上げます」
「あーはいはい。そん時はよろしゅう頼んますー」
「御意」

 ひとまずこの手を温め終わったら、熱が冷めないように手を繋いで帰ろうと思う。