※FD真相千木良ルートほんのりネタバレ




→初雪が降るまでに

「ん、どないした」
「……いえ」
「何や、猫みたいに頭すり付けんな。くすぐったいやろ」
「何だか寒いと思いまして」
「毛布に二人でくるまっとっても、か?」
「くっつくとより温かいです」
「まあ、せやな。ならもっとこっち寄り。ほら、足伸ばさんで、毛布の中に入れて」
「おお、こうすると爪先が冷えませんね」
「つうかお前、家ん中でも冬場くらい靴下履かんかい。冷えるやろ」
「靴下があまり好きではないので」
「そういやそうやったな」
「……?」
「お前はちっこい頃から、学校から帰ってくるとすぐに靴下脱いどった」
「……千木良先輩はずるいです」
「何や突然」
「私は先輩が小さい頃のことを知りませんし、私が幼かった頃の先輩も知りません。なのに先輩は覚えていらっしゃる。不公平です」
「仕方ないやろ。どうしようもないこと考えとらんと、もっと建設的なこと考え」
「建設的な……。ふむ、では先輩」
「何や」
「子供は何人がよろしいでしょうか」
「……それ、建設的か?」
「理想的です」
「……さよか」
「やはり一姫二太郎が良いでしょうか?」
「せやな、初雪までに考えとくわ」




→ため息まで白い

 寒いのは少し苦手だ。暑い方がまだ耐えられる。

「寒……」

 腰掛けた木の枝すらひんやりと冷え切っている。はあ、と白い息を吐いて、巻き物を首に寄せて隙間を無くした。それでも襲ってくる寒さは耐え難い。夜の間ずっと降っていた雪は朝方にはやんだが、未だに庭を白く飾っていた。

「……」

 視線を下へ向ければ、さくさくと幼い足取りで雪を踏みしめる子供がいる。頬を赤くして、ミトンを雪で濡らして、小さな雪だるまを作っては楽しそうに並べていた。

 今日、子供の祖父は町内会の集まりに行っている。子供は祖父の言いつけをきちんと守って、庭より外には出歩かない。

「……できました」

 みっつの雪だるまを並べてご満悦らしい子供は、落ちていた小ぶりの木の枝を拾うとそれで地面に文字を書く。おじいちゃん、おかあさん、ふう。それぞれの文字に対応するように雪だるまが並んでいる。

「……おかあさん」

 落ち込むなら書かなければいいのに、思い出すなら作らなければいいのに、と思う。子供はしゃがみこんで俯いていた。彼女の母はもうここにはいないし、帰ってくることもない。

 やがてはらはらと雪が降り出した。そっと木から降りて、子供の後ろに立つ。

「雪、また降ってきたで。はよ家に戻れや」

 聞こえないと分かっていながら、小さな背に向けてそう呟いた。バサリ、と黒い羽根を広げる。彼女には見えないであろう烏天狗の羽根が、彼女の上に降る雪を遮った。少女は動かず、ただ膝を抱えている。

「寒いやろが、アホ」

 ため息は白く、すぐに空気に消えていく。少女は動かない。だから烏天狗も動かなかった。広げた羽根の上にうっすらと雪が積もっていく。

「……アホが」