そんなものだろう | ナノ



土方さんが、結婚するらしい。どうやら本気で、惚れ込んでいるらしい。

俺の中での土方さんは、ただ一人姉上のことだけを愛していた。人生で愛する相手は一人だなんて、そんな決まりはないのに。
俺は土方さんを愛していた。報われたいとは微塵も望んでいなかったけれど。踏み込んではいけないという境界線に踏み込もうとは、思っていなかったけれど。それでも確かに愛していた。

結婚式前日の今日、土方さんは姉上の墓に報告に行ったらしい。そういう律儀なところが、大嫌いだ。道理で昼寝をしていても、叱りに来なかったわけだ。

俺は少しも知らなかったのだ。このくらいの距離感が一番いいよな、なんて生温いことを俺が考えているうちに、土方さんが結婚まで進展する付き合いをもっていたことなど。届けを出して、式の日程が決まってから知ったのだ。それも、近藤さんから聞いたのだ。

「いいなぁ、別嬪さんだって隊士共が騒いでましたよ。」

「だから広めたくなかったんだ…別に普通の女だよ。」

「さすが、独身を脱出する御方は余裕がありまさァ。」

「相変わらずむかつく野郎だ。」

「はぁ…俺も早く別嬪さんと結婚してぇな…」

「まだまだ子供のくせに。」

土方さんは、俺のことを子供だとよく言うけど、それはどういう意味なのだろう。大人から見る子供は、どういう生き物なのだろう。子供の俺が土方さんを愛していると言っても、笑われてしまうのだろうか。自分が大人になった気になって想像してみても、分からなかった。いくら想像しても俺はやっぱり子供だから、分からなかった。

「なんでさっさと教えてくれなかったんですかィ。」

前もって教えてくれてたなら結婚祝いの準備をしたのに、と言うと、冗談はよせと返ってきた。冗談だとバレてしまった。頭に浮かんだ、花束の中に隠された土方暗殺用の爆弾は、あっさりとなくなった。

「ちゃんと段取りが決まってからじゃねぇとややこしいだろ。」

「だからって、式の前日まで知らせない奴がいますかね。」

土方さんは少し困ったような顔をして、煙草の煙を吐いた。

「……変わりゃあしねぇよ。」

「どうだか。」

宥めるように呟いた土方さんに、短く答えた。変わらないなんて何の根拠があって、そんなことが言えるのだ。この人は、俺の気持ちを知らないくせに。一人で歩く土方さんの隣を目指していたのに、土方さんは一人ではなくなってしまうんだから。どこに変わらない要素があると言うんだ。

変わらないことを願っていて、変わらないのだと信じていた。そんな俺を嘲笑うかのように、不変だった日常は、指の隙間から溢れ落ちてしまう。取り戻そうと手を伸ばしても、無駄だと分かっているから。どうでもよさそうな表情を気取って、おめでとうございます土方さん死んでくだせェ、と笑いかけた。



そんなものだろう
現実なんて、